06.命の理由
「それにしても昨日は楽しかったぁ。私まだお腹いっぱい」
「ああ、そうだね。また来週も催事があるってのに僕も少し呑みすぎてしまったよ。これはこっち と。あ、あの棚の上にある本取ってくれるかい? 梯子がどこかへ行ってしまって取れなくて困ってたんだ」
ある相談をしにキースド先生の元へ尋ねてきたホステル。
だが、彼は物臭で積み上げた物が崩れ落ちたりしない限り片付けを行わない。そして今日がその日だった。
片付けが終わるまで待ってくれ。と言われたのだが、全く終わりそうになかったので見兼ねて手伝いをしていた。
そして片付けもようやく終わりお茶を出され本題へ。
「お客さんなのに ごめんね、手伝わせて。お礼と言っちゃなんだが、なんでも聞いて。例え難しい質問でも答えが出るまで付き合うから」
「ありがとうございます。じゃあ さっそく。サプライズの件で……。」
「あぁ。村長が言ってたやつだね。それにしても面白いね。自分の誕生日にサプライズを用意するなんて」
モゴモゴとおやつを頬張りながら話を聞くキースド。
「いや、それが……。ないの……。そんなのないの。サプライズなんて用意してないわ」
「え? ない? どういう事? 確かに村長が言ってたし……あの後も言い回ってたよ?」
予想外の言葉に思わず手に持っていたおやつを置き、首を傾げる。
「なんて言うか……ちょっとした事故? かな。もう後には引けないからしっかり話の通りにやろうと思うんだけど……先生! 質問です。相談です。なにしましょう」
「おっと、これは。本当に難しい問題だ。本来なら自分が祝われる日なのだから受け身でいていい日のはずなのに、逆に他者へ与えようと、何かをしようとするなんて発想自体、僕にはないからね。参ったね。全くアイデアが出てこないよ。ははは」
「私も何も思い浮かばないの……。与える……か。渡す……作る……誰に……みんなに? うーん」
「作る……ねぇ。みんなに作るなんて日数的に出来ないよね。もちろん物にもよるけど。でも……何人かになら出来るか。お世話になった順とか恩がある順で絞っていってみたりしたら……」
お互いに会話をしながら独り言をぽつりぽつり。
話せば話すほど顔は下を向いていき 暗ーい空気になりかけたその時。
「お世話になった順……恩? 感謝…。……! 先生!! それです!」
「わっ! ビックリした。いやいや、それより。何を思いついたんだい! 僕にも教えてくれよ。この状況をどう乗り切るんだい、早く早く」
目をギラつかせ、前のめりになりながら食いつく。
「感謝の順でいくとまずは両親。産んでもらった事に、感謝して。今ここにいるのは両親のおかげだから。そうだ。父と母が好きだったタライテの花を取りに行こうかな」
話しながら両親を思い出しているのだろう、穏やかに微笑んでいる。
「タライテの花か。あの両手いっぱいに大きくて広がる凛とした薄桃色の花か。確か湖の辺りに咲いてたっけ?」
「そう。日持ちしないから本来はお供えには向かないけど。感謝を込めて、お墓に。そして、次! 次に感謝すべき相手が!」
「あぁ、そう言えば2、3日しか持たなかったっけ。いいね、素敵だと思う。次? 誰だい?」
「ハン様! 村の英雄ハン様。あの方は命の恩人だから」
先程までの穏やかな顔付きとは打って変わって、今度は目を輝かせていた。
「ふむ。ハン様か……。確かに、あの方がいなかったらこのルザメルン村は無くなっていただろうね。じゃあハン様の像に何かを? それともお墓かい?」
「お墓の方は毎年、命日の秋頃に村を挙げてやるでしょう? でも像の方は手入れしかしてないわ。だから像の方にする。何をするかは……。うーん」
「そうか。ハン様か……かっこよかったね。僕はチラッとしか彼の勇姿をお目にかかれなかったけど、ホステルは目の前で見てたんだったね。僕さ、あの当時もだけど未だに文字の解読が出来てない本の研究してるだろう? 最近はしてなかったけど。ほら、さっき棚の上から取ってくれた本」
「あー、あのずっしりした本の事ね」
「あの本不思議でさ。何年経っても手入れしてなくても劣化しないんだよ。……あっ、いやいや。今はこの話じゃない。だからね、僕が言いたいのは! 村の英雄ハン様の話を聞かせてくれないかい?
ずっと研究して、子供たちに勉強を教えて、って生活だったから聞いた事なかったんだ……そして更に! 最近になってすごく興味が湧いて来た」
「えっ、誰にも聞いた事なかったの? もったいないわ。ハン様ね、すごくかっこよかったのよ。是非聞いて欲しい!
ーーーー今から13年前のあの日ーーーー……」