05.思い出の日
「"もう1つの賢人" 難しそうなタイトル……。ジオンは読んだの??」
「あぁ、読んだよ。小難しいおとぎ話かな。むかーし、むかしみたいなさ。魔法とかも出てくるんだぜ」
「魔法……?! それは面白そう! ありがとう。あ、それで読み終わったらどうしたらいい? 誰に渡す?」
「ん〜、ルオーノも読んだし、キースド先生にでも渡しといて。字の勉強で使うと思うし」
「あ、本当。言われてみたらコーダ文字じゃない。珍しい物が流れ着いてたのね」
「うわぁ。やった。ナナラ、今度のお勉強会楽しみだね」
「うん。みんなにもおしえてあげなきゃだね」
「ギャハハ! いいぞ! もっと呑めー」
「それでね、ボクね、将来はね、」
「いい夜だね、また太っちゃうじゃない」
各テーブル盛り上がっており、笑い声や泣き声、歌、話し声など様々な声が響いている。もちろんホステル達もその中に入っており、楽しんでいた。
様々な音が飛び交う中でスっと耳に入ってきた声、言葉があった。
「だーかーらー。ホステルがなんかサプライズするらしいんだよ。来週……な。あーダメダメ、サプライズだからこれ以上言えねーや! へへ。
え〜、なに。お前らもっと知りたいのか? なら、もう少しだけ喋っちゃおっかな」
3つ先の離れたテーブルで得意げに話をしているルオーノ。
サプライズの用意などしていないホステルだったので、
どうにか話を止めなければ。と、動く。
――ガタンッ。ガシャン。
「うわっ! 何してんだよ。ホステル、急に立つなよ」
「きゃ。やだ! ごめんなさい」
「ルゥお姉ちゃん、大丈夫?! あ、ルゥお姉ちゃんの服が濡れちゃった」
「おうおう、落ちつけ。怪我ないかー? グラス倒しただけか?」
「ハッハッハ。ホステル身長考えろってー。このタオル使えー。ヒック」
隣のテーブルから村人が手を貸してくれた。
「おー? なんだ? ホステル達のとこか。盛り上がってるな。ちょっと行ってくるわ。おーい、俺も混ぜろ」
自分の発言がホステルを動揺させたなど微塵も思ってなく、脳天気なルオーノ。
そんなルオーノの腕を引っ張りホステルは言う。
「ちょっと、ルオーノ。サプライズの話だけど、私そんな準備してな……」
コソコソと話している2人に、またしても脳天気が1人割り込む。ルーテック村長だ。
「のう、ホステル。キースドにも話しといたぞい。なんか困ったことがあったら奴に話しなされ」
「困る? 一体なんの話?? テックおじいさん、私今それどころじゃ……あれ? いない。もうあんなとこに」
「のう、ルモラ。お前さんはなんじゃと思う?ホステルのサプライズとやら」
あ……。テックおじいさん……もうだめだわ……。
ルーテック村長の耳に入ると半日で村中に話が回る。
ホステルはそれを止めることもなくただ、見ていた。
と、言うのもルーテックが村長になれたのは話を回すのがとても早いというのも関係していたらしい。
重要事項から噂話まで。どういうカラクリなのかは謎だ。
そんな人物相手に誤魔化す言葉すら浮かんでいないホステルが動けるはずもなかった。
最初に否定しなかった私がいけなかったわ……。うーん、何か作らなきゃ……。
棒立ちで今後の予定を考ていた。
すると、他のテーブルで盛り上がっていた家族が大きな声で話しかけてきた。
「ホステル、いるかー? たまにはおじさん達、年寄りの話し相手になってくれー」
「ちょっと、お姉さんもいるってば!」
今は忘れて楽しもう……。
「ちょっと待って、今行くわ」
「うっ、うっ。ホステル……大きくなったなあ。うっ。泣き虫だったお前が……ひっ……うっ。」
「ぶはははは!泣き虫はお前じゃんか。しかも急に昔話かよ」
「ちょっとー、お水飲みなさい」
この後も暫く盛り上がり続けたであろう夕食会。
次の日、二日酔いの者が大勢いたのは言うまでもないだろう。