04.平和な晩餐会
「やっとお家着いた。お父さん、お母さん、おばあちゃんもただいま」
家族の似顔絵に向かい柔らかな笑顔で挨拶する。
手を洗い、キッチンのパンを手に取ると床にペタリと座り込んだ。
「いただきます」
お行儀悪くてごめんなさい……。
それにしても、なんだか今日は忙しかったなぁ。これ食べて少しだけ休憩したらあの椅子直さなきゃ。
その視線の先にあるのは、足が1本折れた小さな椅子。
木材はこのためだったのだ。
言えなかった……。木材1つで私の誕生日まで話が飛んでしまったんだもん。理解するのに時間がかかって会話が止められなかったわ……。
ん? でも……。もしも、「椅子が壊れた」って言ってたら、また何か言われた?
そうか! あれで正解だったんだわ! ……きっと。
ここでいま一度、整理しておこう。
ホステルは村で1番身長が高い。
他の住人達は大人でもホステルの半分程しか身長がない。子供となると更に小さい。
なので村にある物、家にある物の、ほぼ全てがホステルにとっては小さく注意して使わなければならない。
そのうちの1つだった椅子を今回壊してしまった。
そして、もう壊すまいと立派な木を調達してきたのだった。
それにしても配る側に回るとかって話……どうにかしないと。
あの子たち、忘れてくれてたり……なんて、ないよね……。
うーん、まあ。いざとなったら家の裏に咲いたお花とかでいいかな?
「ご馳走様でした」
好物が並ぶ夕食が控えているので昼食はパン1枚で軽く済ませた。
そして少しの休憩を取り、今日やろうと決めていた椅子の修理も終え、次は料理を始めた。
トントン トントンーー。
ふと、窓の外に目をやると日が暮れ始めていた。
え、うそ! もう?! 早めに行ってお手伝いしようと思ってたのに……!
片付けは後回しにして、持って行く物をカゴへポイポイ詰め込む。
その勢いのまま、ルモラの家へ走って行くホステル。
急げ、急げ。 ……ん、あれ。広場に人がいっぱいいる?
「あ! ルゥお姉ちゃーん」
「ルゥおねーちゃん、ごはんたべよっ」
離れた所からニコニコと手を大きく振っている。
「ジュディ、ナナラ。お腹空いたね。だけど少し待ってて。先にルモラおばさんの所に行ってくるわね」
「俺は酒持ってきたぞー」
「いい匂いだなー! 腹がペコペコだ!」
「つまみ食いしちゃお」
あっちこっちで村人達がワイワイ盛り上がっている。
まだ家の中で料理中のルモラの元へ行く。
「ルモラおばさん遅くなっちゃった、ごめんなさい。もっと早くに来てお手伝いしようと思ってたんだけど。何かやる事ない??」
「あぁ、ホステル。やだ、いいの。誘ったのは私なんだから! あ、でも。やっぱり手伝ってもらおうか。そこの鍋のやつお皿に盛り付けてくれる??」
「はーい。それにしても……。ふふふ。みんな楽しそう」
横目で外へ目をやるとまだ始まってないのに既に盛り上がってる人々。
「そうだね。さっきね、ちょーっとルーテックさんに今晩の話したら、あっちからこっちからみんな集まって来ちゃったんだよ。みんなそれぞれ持ち寄って来てくれてるから食べ物は困らないね!」
「そういう事だったのね。あ! 私も持って来たの。あのお皿に一緒に盛り付けちゃお」
どんどん準備が進んでいく。
空はすっかり暗くなり、明かりがより一層辺りを照らし出した頃、村人全員参加の夕食が始まった。
「プハッ!うっめぇ!」
「これ、もうおかわりないの?!」
「あ。それ、もーらい」
「ぎゃははははは」
「ルゥおねぇちゃん、これ たべて! ジュディおねぇちゃんと つくったの」
「焼いたのはママだけどねっ」
「わ〜! 可愛い形! いただきます。……う〜ん。すっごく美味しい! ジュディ、ナナラすごい。お料理の才能あるわ!!」
ジュディとナナラはホステルを慕っており、ホステルもまた、2人をとても可愛がっていた。
3人仲良く楽しみながら食事をしていた所、横から料理の皿へと手が伸びてきた。
「お、これは。ホステルが作ったやつだね。……っ! うまい!! ホステル、ボクと結婚しよう!!!」
「あら、イットマ。なんか久々じゃない? 少し焼けた??
それね、グノンおじさんが作ったのよ。ワイルドな味で癖になるわよね」
「あっ、グノンさんが……。 んっ、んんっ。ゴホン!
それにしてもホステル、君は今日も一段と美しい! 大事にするよ、妻になってくれ」
「ふふ、ありがとう。妻にはならないわ」
ムードも何も無い、強引なプロポーズ。
する側もされる側もなにやら慣れている様子。
「7、8、9……13! フォフォフォ!
イットマ、13回目も断られてしもうたな。じゃが、大丈夫。お主たちはまだまだ若い。ゆっくりゆっくり。フォフォ」
「村長!? いつの間にそこに。ボク、13回もフラれてるのか……。いや、それはどうでも良くて。ボクはもう21歳になるんだよ。結婚したいっ……! グスッ」
「おー。いたいた! イットマ、これ忘れてるぞ」
「なんだよ、今度は兄さんか……っ!! そうか!! それを忘れてたからだ! もう1度言う。好きなんだ、結婚しよう」
イットマの兄マトマが届けてくれた花束を手に、真剣な面持ちで伝える。
「もちろん、喜んでお受けします!!!」
「ほ、ほほほ、本当かい?! ……ってティア! なんでここに??! て、言うかお前じゃない! 割り込むな、返せ!」
「ふふふ、嬉しい。イットマが初めてくれた花束……。それも……プロポーズ付き! キャーー!」
「ハハハ!これはもう結婚しなきゃならないな! おめでとう、弟よ」
「ちょっと待て、ふざけるな! ボクはホステルと結婚するんだ。な、ホステル? な?!」
「え、しないわ。さっきも言わなかった?」
話に興味すらなく、ジュディとナナラの料理を味わっていたホステル。
「なぜだ。なぜダメなんだ、ホステル!!」
「イットマ、聞け。前から思ってたが、ティアとお前……いい夫婦になると思うぞ? なんでそんなにホステルなんだよ」
「兄貴、そんなの聞くまでもないだろ?! 見れば分かるじゃないか! ホステルが美しいからだ! 誰よりも!! 優しいホワイトゴールドの髪に澄んだ青い瞳。
そして! この村をお守り下さる御神木様! 神々しいホワイトゴールドの葉に繊細で見事な青みがかった幹。なんて有難い!! 素晴らしく美しい!! 例え彼女がボクより大きくても構わないっ。彼女は神の子だっ。だから! やっぱりボクにはホステルしかいない!!!………ハァハァ」
目をいつもの倍開かせ、身振り手振りそして早口で熱く語った。
「なーんだ。そういう事なの。大丈夫よ、イットマ。あたしも持ってる。白と青の髪飾り! これであたしとホステル、条件は同じ。だけどね、更に! あたしの方が持ってる物があるの!! それはね、あなたへの愛よ!! さ、行きましょ。イットマ」
ティアにズルズルと引きずられるイットマ。
なにやら騒いでいるようだが、その抵抗も虚しく連れてかれてしまった。マトマもやれやれと後を追って行った。
「ふふ。イットマが好きなのは私じゃなくて、御神木ね」
「ちょっと怖かったよ……。あ。でも、イットマさんが言うように、ルゥお姉ちゃんはとってもとっても綺麗よね。私、大きくなったらルゥお姉ちゃんみたいになりたい!」
「うんうん、ルゥおねぇちゃんかわいい。ナナラだいすきなの!」
「やだっ、なにっ……ジュディ ナナラ。可愛すぎだわ……!!」
あまりの可愛さに2人にギューッと抱きつく。
「おー、ホステルここかぁ。って、なにしてんだ?! ……ま、なにしててもいいか。これ、父さんが持って行けってさ」
「あら、ジオン。ん? 本? "もう1つの賢人"……どういう本かしら??」