01.御神木と少女
「結構 重いなあ。ふぅー、少し休憩」
眩しいくらいの青い空に、優しく漂う雲。
爽やかな風が優しく草花を揺らす。
その場所で木材を地面に置き、自然を感じながら、大きく大きく深呼吸をする少女が1人。
名はホステル。
それにしても今日はいいお天気ね。絶好の力仕事日和っ。
後ろ姿からでも感じ取れるほどの喜びのオーラ溢れる彼女。
再びバランスの取りづらい木材を持ち、鼻歌交じりに真っ直ぐと歩きだす。
しばらく歩いていくと、彼女の村が見えてきた。
「……ん? なにか聞こえる……?」
その場に止まり耳を澄ます。
「……ルー……」 「……って……ーー」
その声に夢中になり道中の疲れを忘れ、前へ前へと声に近づいて行く。
段々と声は鮮明になり
「ホースーテールーー! 助けてよーー」
「どこに いるのー」
「お願い手伝ってほしいのー」
何人かの声が彼女を呼ぶ。
突然の事に頭の整理が追いつかないまま、走るホステル。
なに?! 村の子供たちの声……
怪我? 病人?? なにがあったの?!
呼ばれる方へと必死に走り、辿り着いた先は村の中心にある御神木だった。
そこには子供たちが3人。
「ハァ……ハァ……。ジュディ、サハン、ナナラ ……ハァ。ふぅーー。なにがあったの?」
切らした息を整え、事情を聞く。
そして3人は、ほぼ同時に話し出す。
「あのね、あのね!ジュディおねえちゃんの だいじがね!」
そう一生懸命身振り手振り話すのがナナラ4歳。
「取ってよ! ホステル! あのっ! あのっ……! ボクが……」
顔を下に向けながら、人差し指を突き立てた手を上に向け、モジモジと話すのがサハン6歳。
「ルゥお姉ちゃん……。御神木のてっぺんに私の帽子が引っかかっちゃって……」
目に涙を浮かべつつ、一番しっかりと話すのがナナラの姉ジュディ7歳。
「帽子………?」
思考停止気味だった頭が一気に動き出し、大きく息を吐く。
「ふぅーーーー……びっくりしたぁ。怪我とか病気かと思ったよーー。良かったあ」
「……。全然 良くないよ……」
小さな声でサハンは呟く。
うーーん。どうしたのかな。なんだかサハンらしくない。
「そうだね、ごめんね。ジュディの大事な帽子だね。大丈夫! すぐ取るわ」
「ルゥお姉ちゃん……ありがとう」
ジュディの感謝の言葉にホステルはニコリと笑顔を返すと、御神木に近寄り背伸びをして、小さな帽子を取った。
この帽子は植物の葉で作られていて、この村では10歳以下の誕生日を迎えた子供に親が贈るプレゼントなのだ。
が、少し破けていた。
「さてさて、君たち。何があったのかしら?」
帽子を見ながら子供たちに問う。
「いや、ううん ちょっとした間違いでこうなっちゃっただけだよ、大丈夫」
悲しみを抑えながらこの場を収めようとするジュディ。
「ジュディおねえちゃん!? サハンまだ、ごめんなさいしてないよ? ぼうしやぶったのに!!」
姉のために怒るナナラ。
サハン「ち、ちがうよ! 僕は! ジュディは白い花が似合うからって思って! だから……!」
謝りたい。しかし弁明もしたい。どちらからどう話せばいいのか分からなくなっているサハン。
「サハン、落ち着いて。まずはジュディに謝ろう? 分かっているでしょう?」
「……ジュディ。ジュディの帽子壊しちゃって……ごめん。ナナラも……嫌な気持ちにさせてごめん」
サハンの謝罪に今まで我慢していたジュディの目から涙が零れ落ちた。
それを見てサハンはオロオロと謝り続ける
「ハンカチとってくる!」とナナラは家へ走って行った。
ホステルはまだ手に持つ帽子を見る。
「サハン、そのポケットから少しはみ出てるお花貸してごらん? これ直りそうよ」
近くに生えてある葉を取り、サハンから受け取った白い花と一緒に編み込み、元より少し華やかになった帽子が出来上がった。
ジュディはその帽子を被り、泣きながら笑った。
そんなジュディを見てサハンも笑顔になった。
「うおっ!?なんだ なんだ?ジュディが泣いてるぞ!」
「ホステルが泣かせたんだ!!」
この声は……。
「ジオン、ルオーノお家のお手伝いは終わったの?見たところ、まだ途中みたいだけど。叱られるわよ」
「おい、いつまで人の事 子供扱いする気だ!俺たちはもう13歳だぞ!」
「手伝いじゃない! 仕事だ! この大女め! 御神木と同じ大きさのデカ女め!!」
彼らが言うようにホステルは村で一番大きな御神木とほぼ同じ背の高さなのだった。