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7話 リンドウ-1

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 井戸から出てアマリリスからもらった微かに光る石を握るとその手が誰かに引っ張られるように力が加わった。ツユとケイジュがその力に従ってまだ薄暗い森をザッザと歩いた。一時間くらい歩くと、ツユの住む屋敷が見えてくる。


「わぁ、本当に着くなんてね」


「私もビックリした。あ、ケイジュ見て」


 ツユが握っていた手を開くと、光を失った石がそこにはあった。役目を終えてただの綺麗な石のようになったそれをツユはケイジュに見せた。


「これ、今夜大丈夫かな? 」


 自分で握っていた石も同じようになっていることを確認したケイジュが心配そうにツユに言った。ケイジュの知っている常識ではこんな風に一度効力を失った物はただのゴミに等しい。もう井戸に戻れる気がしなかった。


「夜になってみなきゃわからないじゃん。それに、来た道は覚えてるから平気だよ! 」


 ツユは徹夜したとは思えないほど元気よくケイジュに言った。確証は全くなかったが、この石はまたアマリリスのところに連れていってくれると確信できたようだった。


 ツユは屋敷に向かって走っていった。ケイジュとしては躓いて転ばないか心配だったが、その後ろ姿を追いかけた。


「じゃあツユちゃん。リンドウに時間は伝えておくから、迎えに来たらちゃんと学校に行くんだよ」


 屋敷の前まで着くと、ケイジュは母のような顔をしてツユに言った。それを聞いたツユは分かりやすく嫌な顔をした。


「え~リンドウが来るの~? ケイジュが迎えに来てくれればいいじゃない~」


「僕午前は予定があるから学校には午後から行くんだ。だから、リンドウの言うことをよく聞いて学校まで行ってね。サボりは許さないから」


 しゃがみこんで駄々をこねるツユに目の前にしゃがんだケイジュがニッコリ笑いながら言った。叱るように文句を言うようにツユにしっかりと言い聞かせた。


「しょがないな~。仕方ないからリンドウと学校まで行ってあげる」


「うん。じゃあゆっくり休んだらちゃんと準備してね」


 ツユによく言い聞かせると、ケイジュは自分の家の方に笑顔で手を振りながら歩いていった。ツユを叱るときのケイジュは笑顔だが怖い。いつもならわがままを言い続けて自分の意見を押し通すツユでも折れるまでケイジュは叱り続ける。絶対に折れることはない。


 仕方ないからとはいえリンドウと学校に行くと言ってしまった。ツユは嫌々裏口から屋敷の自分の部屋まで戻った。


「つぅ~ゆぅ~こんな朝早くに帰ってくるなんて、どんな森に行ってたのかしらァ? 」


 バレないようにこっそり静かにツユが部屋の扉を開けると、中には薄紫色の髪のツユよりもだいぶ小さい女の子がいた。


「お母さん……。何でここに? 」


「ツユの可愛い寝顔を見に……じゃなくて、様子を見に来たらいないんだもの。どうせケイジュ君に迷惑かけてるんだと思ったからここで待ってたの」


 とても小さく、ツユの妹にしか見えないその女の子はツユの母……アヤメだった。瞳と同じ緑色のドレスを着てツユのことを見上げ、小さく細い指でツユの首元を指してアヤメは言った。


「お母さん、眠たいでしょ? 私も休憩したいからお説教はやめにしたいな~。あはは~」


「眠くないわよ。大人をなめちゃダメよ、ツユ。許してあげるけど、学校には行きなさいよ」


 去り際に「可愛いから……」とツユに聞こえないように呟いてアヤメはこの部屋から出た。いくら自由をしても学校さえ行けばアヤメはツユのことを許す。実際には学校にいかずとも許すが、それでは甘すぎると数年前に学校に通わせ始め、それを理由にしている。


「あ、クランリドルのところのリンドウ君によろしくね~」


 コツコツコツと遠ざかる靴の音がピタッと止み、パタパタとツユの部屋に近づいてきた。そして、扉を少しだけ開けてその隙間からアヤメが顔を出し言った。リンドウはアヤメのお気に入りらしい。言うだけ言ってアヤメは今度こそ部屋から遠ざかって行った。


「お母さん……」


 あははと愛想笑いをし、ツユはベッドに座り、そのまま上半身を倒した。さっきまで全く眠くなかったのにいきなり瞼が重くなり、そのままツユは眠ってしまった。

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