4話 吸血鬼-1
「これ、中から光ってない? 」
井戸に近づいたツユが違和感に気づき、ケイジュに聞いてみた。
「うーん、危ないかもしれないから、ツユちゃん僕の後ろにいて」
少し早足気味にケイジュはツユの前まで歩き、井戸にさらに近づいた。井戸には蓋がしてあり、どうやらその中から光が漏れ出しているようだ。
「開けてみる? 」
「うん……。危なかったらすぐ逃げるからね」
「ええ。気を付けて開けてよ」
ケイジュがツユにも見えるように大きく頷くと、蓋の端を持ってゆっくりと引いた。ガタッと小さな音を何度か鳴らしながら、井戸の中がよく見えるくらい蓋が外れると、その一帯が昼間のように明るくなるほどの光が漏れてきた。
「! ? 」
その光に驚いてケイジュは思いきり蓋を外してしまった。
「ツユちゃん! 」
「これ……もしかして、全部が発光石……? 」
裏返した蓋にはごつごつとした小さな石がいくつも付いていた。その石は自ら発光し、ツユが探しに来た発光石その物だった。
「それだけじゃない。この井戸の中、発光石でいっぱいだよ」
蓋を外しても眩しいほどに輝く井戸の中を覗いたケイジュが目を輝かせてツユに伝えた。その中には生えるように発光石がいくつもあった。そして、梯子のようなでっぱりが下まで続いていた。
「降りて良い? 」
「気を付けてね、ツユちゃん」
その下にもまだ何かがあるような気がしたツユがケイジュの顔も見ずに許可を求めた。もう止めても聞かないとわかっていたケイジュは、井戸から少し離れてそれを許可した。
ツユは井戸の縁に恐る恐る乗り、探るように足場に足を下ろした。徐々に体重を掛けていき、グッと踏んでも崩れる様子はない。後ろにもう一人いてもかなり余裕があるほど幅がある。安心してツユはそこに向けて降りていった。
「ツ、ツユちゃん? どこまで降りてくの? 」
目で見ていた以上に深い底を目指して上を見ずに黙々と降りていくツユにケイジュが声をかけた。ちょうどその時、ピチャンと音をたててツユが底に立った。遠くまで発光石があるお陰でケイジュの目にはハッキリとツユの姿が見えた。
「ケイジュー! なんか扉みたいなのがあるから降りてきて~! 」
ツユの目の前には石でできた井戸によく似合う古い木の戸があった。少なくとも作られたのは百年以上昔の物だ。魔法がかけられているような雰囲気が感じられるので、もっと古いはずだが。
そっと手を触れてみる。……何も起こらない。
軽く押して開けようとする。……微動だにしない。
引いてみる。……取っ手がない。
「ツユちゃん? どうかした? 」
半分くらい降りてきたケイジュがツユの様子を見て声をかけた。しかし、ツユは返事もせずにか赴けなかった。ケイジュにとってはいつものことだが。
……横にスライドさせてみる。
ギイイイィィィィ
耳を塞ぎたくなるほどの不快な音を鳴らしながら開いた。暗い暗い扉の奥を何筋かの光が通っていく。
バシャッ
数段上からケイジュが落ちてきた。大きな音と水飛沫をあげてその中心になんとか足で着地したケイジュがツユの方におかしな笑顔を浮かべながら立っていた。
「変な音だね。どうする? 中に何があるか見る? 」
ケイジュが答えはもうわかってると言うように首を傾けて尋ねた。
「ええ、もちろんよ! 」
ツユは白くて綺麗な目を細めて大きく口を開けた。無邪気な笑顔で扉をさらに開けるために手をかけた。