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35話 お姉様-4

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「……さて、何か聞こえた気もするけれど……。アマリリス、本題に入りましょうか」


 森の奥からヒスイのものであろう断末魔が聞こえた気がするが、アヤメは怪しげな笑みを浮かべてまだ背中を向けて俯いているアマリリスのことを見て言った。


「そうそう、ツユ様もいなくなったし、これで何も遠慮はいらねーですからね」


 断末魔が聞こえてきた方を見てケイジュが不機嫌そうに顔を歪めたが、また敵意の笑みを浮かべてアマリリスとアヤメに言った。


「……な、何よ。お姉様」


 アマリリスはケイジュを見るくらいならと振り返り、アヤメの顔を見て尋ねた。


「ようやく可愛い顔を見せてくれた」


 アヤメは嬉しそうに言う。しかし、その笑みはやはり誰かのものを借りているような仮面のようだ。


「あたしはお姉様に迷惑もかけてないしこれからもかけるつもりなんてない。殺すなら殺していいけど出来れば帰って」


 アヤメの顔を不気味に思ったのかアマリリスは化け物でも見たように目を歪めて言う。吐く息が荒い。元々白い肌に青みが増し、いつ倒れてもおかしくない病人のようだ。


 怖くない、死なんて怖くない。本来な、百年くらい前に死んでいたはず。お母様が連れ出してくれたから今生きているだけ。本来ならばもう死んでいる。


 アマリリスは自分に言い聞かせた。久し振りにまともな相手とまともな会話をしたから、まともな笑顔を見たから、まともな恐怖を見たから。だから目の前の死がただただ怖く思えてしまう。


「怖がらないで。怖いでしょ、死ぬんじゃないかって」


 若干震えているアマリリスを見てアヤメが言う。アマリリスは少しだけ優しくなったアヤメを怪し気に睨み、攻撃的に言った。


「そうよ、悪いの? 死ぬのは怖い、それはお姉様もでしょ」


「怖いわ。だから私は死なないように気を付けているの。……アマリリス、落ち着いて」


 アヤメはどこかどこでもない場所を穏やかに見つめ、アマリリスに視線を戻して優しく言った。アヤメの優しく笑みを浮かべた瞳がゆらっと揺れた。


「主様、俺寒いんで帰って良いすか?」


 なかなか進展しないアヤメとアマリリスの会話にケイジュが口を挟んで言う。腕は組んでいるが、ただ寒かっただけのようだ。不機嫌そうに眉を寄せ、いつのまにか井戸に座っていた。


「まだいたのね。アマリリスは逃げないだろうし、ツユと一緒に帰れば良かったのに」


「あ? じゃあそこにいるバカ兄さん、魔力返して。瞬間移動使うから」


 存在を忘れていたように言われてケイジュは強くアヤメに言おうとしたが、一応『主様』と呼んでいるのだ、何とか留まってどうせアヤメの後ろに隠れているであろう誰かに話しかけた。


「勝手に話をそっちに持っていかないでくれる? 瞬間移動使いたいならもう少し我慢しなさい」


 ケイジュを無視して話を進めようかとも思ったが、アヤメは話を持っていかれたような気がして子供っぽくケイジュに言った。それを見ていればアマリリスも呆れそうになってしまう。


「はいはい。待ってますんで早めに済ませてくださいね」


 立ち上がりかけていたケイジュが井戸にまた腰を下ろす。


「わかったら黙ってて。で、アマリリス。私の話聞いてくれる?」


 ため息を付いてアヤメがケイジュからアマリリスに視線を戻した。そして、ツユに言う時よりも優しく言った。


「嫌だと言ったら?」


「貴女が会いたいだろう人に会わせてあげる」


 アマリリスの答えを予測していたかのようにアヤメは即答する。


「……誰?」


 会いたい人。何人か思い浮かぶがあれから百年ほど経っているのだ。その大半が死んでいるだろう。思い付かないといった顔でアマリリスはアヤメを見る。


「さっきのせいでバレたと思っていたのだけど……。まあ良いわ、出て来ていらっしゃい」


 クスッと笑い、アヤメが後ろにいる誰かに手招きをした。


「……ひ、姫様…………ご無沙汰してます……」


 気弱な男の声がした。ケイジュがイラついたような顔でニヤニヤ笑っている。そして、それを見たアマリリスが目を見開いて驚いていた。


「アテンマ……」


「ええ、アマリリスの元婚約者君よ。殺されてないのが驚きって顔ね。失礼だわ」


 アマリリスが名前を呼び、その言葉にアヤメが反応した。そして、また目を歪めて笑い、アテンマの背を押してアマリリスの目の前に連れ出した。

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