3話 発光石-3
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「ツユちゃん、たぶん僕たち遭難したよ」
洞窟から宝石を四つほど取り、ツユとケイジュで二つずつ身に付けて出てきた。途中、足元がよく見えていないツユが足を滑らせて数メートル下り坂になっていた所を落ちている。ケイジュはツユに服の裾を捕まれて一緒に落ちた。
「ねぇ、ケイジュ。ここはどこ? 」
「わからないから遭難したんだよ、ツユちゃん」
「そう……。じゃあ、夜明けまで待ちましょうか。さっき足を挫いたらしくて痛いしね」
ケイジュがツユの右足を触って確認すると、若干腫れているようだった。近くに倒木を見つけてツユを座らせ、その隣にケイジュも座った。ツユは夜明けまで待つと言っているが、まだ日が沈んでからそう経っていない。歩いてきた時間よりも待つ時間の方が長いことにケイジュは呆れたようにため息をついた。
「ツユちゃんが足元を見てないからだよ。はい、治癒魔法の薬」
「目がよくないから仕方ないじゃない。ありがとうね」
ケイジュがツユに渡した薬は、痛み止めと治癒の効果がある魔法使いの医者が作る薬だ。段々と悪くなるツユの目を診てもらうときにお転婆なお嬢様にとケイジュが医者から時々もらうのだ。いい効き目だ。
「眼鏡作ってもらえばいいんだよ。自力で魔力を目に流すよりは見えるはずだよ」
魔法使いの作る眼鏡は使用者が失明していない限り個人差はあるが、生活するには問題ないほどの視力にするアイテムだ。それと同じことをツユは自分の魔力を使ってしているが、平均よりもだいぶ少ない魔力しか持っていないので、結局目つきが悪くなる。
「いや。あの先生は胡散臭いんだもの。腕が確かじゃなければもっと有名な医者の所に行くわよ」
ツユとケイジュが世話になっている医者はかろうじて医者を名乗ってはいるが、暇すぎるほど患者がいない。態度と口の悪さが原因だ。医者の世話になるような貴族はあの態度を嫌い、腕が悪くてもほかの医者を頼る程だ。
「腕はいいのにね。薬もほかのどこよりも良く効くよ。……暗いけど、ツユちゃん大丈夫? 」
「私別に暗いのいの平気よ。お互いの顔は見えるんだしね」
ツユはすぐ隣のケイジュの顔を見ながら元気よくにっこりと笑顔を見せた。それを見たケイジュは、頬杖をついたまま優しくにこりと返す。
青い月光が傾き始めた。まだまだ夜は長い。長くて暗くて肌寒い。夜が温かいのは一月後の『橙の月』。その次には一年で最も事件が起きる狂気の『赤い月』が昇る。そして今は十二色の月の中で最も静かな『青い月』。静かな青い冷気が森を包む。
ツユは、青い光に照らされたポツンとある井戸を見つけた。今まであんなもの見たことがない。見たことがないだけでツユの好奇心は抑えることが出来なくなる。
「ねぇ、ちょっと見て」
「どうしたの? ……わぁ、光ってるみたいにあそこだけ明るいね」
「明るいし、ちょっと見に行ってみましょうよ。いいでしょ? 」
ツユはケイジュの答えを待つ前にすでに立ち上がっていた。ケイジュは特に危険を感じていなかったので、止めるつもりはなかったが、もう落ちないようにとツユの後をついていった。危険は感じていないが、違和感は感じていたが。あんな暗い暗い森の中で光を放つように目立つもの、さっきはあっただろうか。