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22話 MeL-2

バンッ


 ケイジュは力強く誰もいない家の誰もいない自室の扉を開けた。父親はケイジュが生まれた頃にはもうこの家に住んでいなかった。母親はアヤメから外国での仕事を命じられて今はいない。少ない住み込みの使用人は母親に付いて行き、通いの者は主人である母親が帰ってくるまで休みにした。


 今この家には、この国で二番目に広い家にはケイジュが一人だけだ。


「やあ、アリス。ただいま」


 ケイジュが部屋でゴロゴロ床とじゃれているおててオバケにそう言うと、アリスはケイジュの側まで来てウギャウギャと構って欲しそうに鳴いた。午前じゃれている間に腕に噛みついて怪我をさせたことなんて忘れたようだ。


「ダメだ、餌は朝食べたろ? そこで遊んでて」


 口を大きくパクパクさせてお腹を空かせた様子のアリスにケイジュが人差し指を立てて言う。言葉は理解するからかアリスがわかりやすくしょんぼりする。それが可愛いなとケイジュは微笑む。


「ミルクなら持ってきてあげるからちょっと待ってて」


 持っていた鞄を乱暴に床に投げ捨てると、ケイジュはアリスの頭を撫でながら言った。わかりやすくウギャウギャ騒ぐ。


「ウ、ウゥ~ギャッ」


「……タイミング、考えてよな、<MeL>」


 アリスが何かを威嚇するように吠える。そこに何かがいるわけでもないし、吠えるのが癖でもない。<MeL>がアリスを通じてケイジュに話しかけてくるときの合図だ。


「悪いね。ボクだって忙しいんで」


「だったらわざわざ話しかけなくて結構。朝頼んでたことが終わったわけでもないだろ? まさか」


 さっきまでただの動物だったアリスが人のように表情を作り、話し始めた。声もまったく違う。


「そのまさかだよぉ。MeLちゃん大天才だからぁ、余裕で見つけちゃったぁ」


「……ハハハ、流石だよ。でも、その話し方はどうにかならない? 脳が疲れる」


 <MeL>がニタァ、とおててオバケの顔で笑う。それすらも愛らしいと感じてしまうのをケイジュは少し悔やむ。


「ちょっと難しいですね、何せ私は正体不明の暗殺者、なのでね」


「僕は<MeL>のことを暗殺者だとは思ってないけどね。せめて統一してほしいって話なんだけど」


 格好つけて<MeL>は言う。どうせキメ顔もしているのだろうが、アリスの顔ではそんなものよくわからない。


 ケイジュは椅子をガガッと引っ張り、そこに適当に座りながら言った。<MeL>は少し目を閉じて考えているようだ。そして、少しだけ。ほんの少しの間を開けて<MeL>は言う。


「じゃあ……これで良いかイ? ボクは正体不明の暗殺者<MeL>、君の友達、協力するヨ」


「うっわ、元気すぎるくらいだね。まあ、良いんじゃない? 」


「こうした理由聞きたいかイ? 」


 元気よく<MeL>は改めて自己紹介をするように跳ねる声で楽しそうだ。実際に楽しいのかアリスを通じてではケイジュにはわからないが、<MeL>がそういう人だと思える。


「話してくれるんだ」


「モチロン! って言っても君が自分のことを"僕"って呼ぶからボクも"ボク"、それと君には欠落している元気だヨ、ケイ」


「あっそ、言っとくけど僕は元気だからね。ツユちゃんの元気さには僅か……かなり劣るけど」


「ヘェ~」


 これはこれでかなり腹立たしいなと煽るように言う<MeL>と話をしていてケイジュは思う。まだ今までのころころキャラが変わっていた<MeL>と話していた方がストレスを感じずにいられたものだ。


 まあ、自分で統一しろと言っておいて無責任な話なのだが。

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