21話 MeL-1
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「ツユちゃん大丈夫? 」
「大丈夫」
「本当に? 」
「本当に」
「本当に平気? 」
「大丈夫だってば、しつこいなぁ」
アテンマの家を出てしばらく。ケイジュがツユを気遣って空ではなく地面に足をつけて少し、いや、かなり長い帰路を歩いている。手を繋ぎ、歩いて帰るには遠すぎる道だが、二人には慣れているものだ。
そもそも家は近いのだ。ただ二人の家、特にツユの家が広すぎるというだけで。ツユの家よりは小さいとはいえ、それでもケイジュの家も学舎より広く、他の貴族が住んでいる家が玩具のように見える。この二人の家が異常なのだ。
実際、既にツユの家は見ることができる位置にある。しかし、ツユの顔は青白く段々と色が悪くなっていっている。
ツユが機嫌悪くなってしまったので無言で握っていた手をケイジュはパッと離した。
「ツユちゃん……ちょっとごめんね」
そう言ってケイジュはツユの目を覆い、歩いていた広い通りから脇道に入った。脇道といってもそこは貴族が住む区域だ。ただ人がいないだけでとても綺麗な場所だ。そして、そこでケイジュはツユを少しだけ抱き上げた。
ふわりと浮く。
いつものツユならばそれを恐れ、騒ぐが、今はそれもない。夜にはまた用事がある。それまでの間、少しでも長くツユを休ませるためにケイジュは少しだけ急いで飛ぶ。
「ケイジュ、私歩けるよ」
「僕が運んであげるからツユちゃんは歩かなくて良いよ。きっと寝不足なんだよ、寝てて」
今の状況がわかっていないツユがケイジュの服を少し引っ張って言う。ケイジュはツユに笑って優しく返した。本当は返事もしないでツユを休ませたいが、ツユもツユでケイジュを心配して言っているのだ。無視なんてできるわけがない。
「うん……わかった。おやすみ」
「時間になったら迎えに行くから。おやすみ、ツユちゃん」
すぅ、とツユは眠った。それを確認するとケイジュは速度をあげてツユの家に向かった。急がないと。ただそう思ってツユの家の回りの柵を越え、敷地内上空を下降しながらケイジュは進む。少しすると玄関が見えてくる。そして、そこにいた少しあたふたしているヒスイと目が合った。
「ケイジュ様、アテンマ様から話は伺っています。お嬢様は……」
アテンマは金も人望も人脈もないが一応貴族魔法使いだ。そして、そのアテンマが同じ魔法使いのヒスイにツユの状況を伝えておいてくれたらしい。時々は助かる。
「寝てるよ。着替えさせて部屋に寝かせてあげて。あと、僕が迎えに来るまでは起こさないであげてください」
「かしこまりました。ありがとうございます、ケイジュ様」
ヒスイがケイジュからツユを受け取り、深く頭を下げる。顔を上げると心配そうに血の付いた服を見てツユを強く抱き、ケイジュにお礼を何度か言う。
「あ、後、ぬいぐるみを何か持たせてあげてください」
「ええ、承知しています。ケイジュ様もごゆっくりお休みください」
また手を噛むかもしれないとケイジュがヒスイに伝えたが、早くツユを部屋に運びたいのかヒスイの言葉は少し適当になり、言い終わる前に扉を閉めてしまった。
ケイジュは魔力をかなり使ったからか、今度は歩いて家まで帰る。門を出て遠く離れた自宅の門を見てため息が出るが、もういつものことなので慣れてしまった。
まだ日も傾いていない時間。アマリリス似合うまでにはツユもかなり回復していることだろう。ケイジュは安心してほとんど誰もいない帰り道をスタスタと歩いた。




