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16話 テスト-3

「お嬢様、ケイジュ様、到着しました。帰りもどうかこの爺を頼ってください」


 ツユとケイジュの会話が聞こえていたのか、何だか照れ臭く嬉しそうに頬を染めた執事が二人を魔車から降ろした。


「ううん、帰りは医者の先生のところ寄ってからまた出掛けるから迎えはいらないよ、お爺ちゃん」


「そうですか……。では必要なときにはいつでも爺をお呼びください」


 ツユに言われると、執事は少し落ち込んだように目尻を下げて言った。そして、ツユたちが学舎に入って行くのを見届けると、魔車に戻ってサイレゴシェル邸まで帰っていった。


 早く着きすぎてしまったようで、まだ人の少ない学舎の廊下をツユとケイジュは並んで仲良く歩く。


 ツユたちとは違う学年の人はすれ違う度にツユのことを振り返り、睨むように珍しいものを見るように見とれるように見つめる。普段は二人とも意識しないししたくもないが、ツユはこの国の女王とも呼べる存在の唯一の子供であり、ケイジュはその女王の協力者の息子兼ツユの幼馴染みなのでまあ目立つこと目立つこと。


 ツユはその視線を軽く無視することは出来るが、悪意や敵意を向けられるときは不快でしかない。相手がどう思うかは勝手だが、それを言葉にされてこそこそされるよりはましだが。


 しかし、例え今こそこそと何かを言われたとしても、ここに通い始めたときよりはましだ。そのときからケイジュとリンドウは近くにいたが、その分陰湿なものだった。三年くらいにもなれば飽きたのかだいぶ減ったが、隠さないものが増えた。下手に隠される方が腹が立つので別に構わないが、それでもツユは不快だ。


「あら、早いわね、ツユさん。ちゃんとお昼食べられました? それと、ケイジュ君こんにちは」


 水色のみつあみを揺らしてローメリックが二人の後ろから話しかけてきた。


「こんにちは、ローメリック先生。相変わらず眠そうですね」


「元からこういう目付きなのよ、ツユさんと同じですね。それと、その腕は今日か明日に治療しないと腐りますよ」


 ローメリックはケイジュの言葉に困ったように笑う。そのままローメリックは袖に隠れているケイジュの腕をチラリと覗くように見てから言った。


「さすがローメリック先生。今日医者のところには生きますし、明日は体調が悪くなる予定なので休みますよ」


「わかりました。ツユさんも休みということで良いですね。アリスちゃんに噛まれたんでしょう? 何度も言うけれどおててオバケはペットには向かないわ。噛むし毒あるしなつかないし何しろ可愛くないじゃない。自然に返すのをおすすめします」


「僕は別に噛まれても構いませんしすぐに治せば毒も何か問題があるわけでもありませんしアリスはなついてますしとっても可愛いですよ? 何度も言いますが余計なお世話です」


 ツユのことはお構いなしにケイジュとローメリックが二人だけで話続ける。ツユをその場にいるようないないような風に扱うのはこの二人だけだろう。


 そんな中でツユは、また始まったと二人の話をただただ聞いていた。ケイジュとローメリックは生徒と教師であるという関係を除けば仲が良いようで仲が悪い。二人とも性格が悪いのか口が悪いのか時間があれば会う度にどうでも良いことで口論している。そのときにはツユが何をしようと二人は気にもしないのでその場から離れたりそのまま聞いていたりするが、今は聞いている。


「わかりました、今日のテストは過去最難関にしてあげます。ケイジュ君は頭良いから嬉しいですよね」


「嬉しいですね。それを満点取って先生を絶望させてあげますよ。ローメリック先生も喜んでくださいね」


「いつもなら何も言わないんだけどさ、ギャラリー増えてきたしやめにしない? あとテストはそのままにしといてね、ローメリック。私が困るから。あとケイジュ、時間」


 すぐ側にあった教室を覗いて時間を確認してからツユは何かを企んでいる笑顔の二人の間に割って入って言った。かなり余裕をもって来たはずなのに生徒が増え始めているし、廊下の真ん中で言い争いをする二人を珍しげに見る他学年の生徒はいるし、ローメリックは何かとんでもないことを言い始めるしでツユもさすがに我慢したくなくなった。


「……そうですね。これからテストを作るのは大変ですし、今回は許してあげます」


 周りの雰囲気が悪くなっていることを察してローメリックは背中を向けて少し遠い階段の方に向かった。このまま行こうとしていた階段を使えばツユやケイジュと一緒に向かうということなのでそれは嫌だったのだろう。


「それは残念です。……さ、ツユちゃん行こっか」


 ローメリックの後ろ姿に不満を漏らすようにしてから子供っぽい笑顔でケイジュはツユの顔を見ながら言う。


「喧嘩は良くないんじゃなかったっけ? 」


「時と相手と相手の態度によるものだよ。時間はあったしローメリック先生だったし、アリスのこと侮辱されちゃったら言い返すしかないじゃないか」


 ケイジュは階段を登りながら言い訳をする。ツユはどうしてあそこまで仲が悪いのかは知らないが、放っておくのが一番だということは何となくわかっている。


「私も実際可愛くないと思うけど……。一応魔獣だし」


 おててオバケは昼型で魔法使いの実験道具にされ、食用には固いし死ぬと保存できないし美味しくないので全く向かないが、魔獣に分類される。余り鳴かないし、人の顔と名前は覚えるし、寿命も長く、魔法にかかりやすいため物好きからペットにされることはあるが、見た目やなつきにくさの問題点から好まない者の方が圧倒的に多い。ケイジュはペットにして可愛がっているが、ツユは出来れば出会いたくないと思うほどと意見が全く違う。


「うーん、そうなのかな? まあ、この話はもういっか。ところで午前は話を聞いておしまいだった? 」


「うん、そのあと自習だったからね。明日お母さんが帰ってきたら色々聞くつもりだけど、ケイジュも聞く? 」


「そうしよっかな。明日は休む(サボる)許可もらったしね」


 ケイジュが得意気に笑ってピースサインを揺らして見せる。その頃には既に教室に着き、他の生徒もいる前なのだから呆れるものだ。まだ人数が少ない方だから良いものの、いる人の中にはツユやケイジュのことをよく思っていない者も大勢いるのだから怖いものもないのか。


 ツユは午前座っていた窓側の一番前の席へ。ケイジュはツユの隣にはサクラが座っていたと聞いていたのでツユの後ろに座った。窓から日差しがポカポカと暖かく差し込む。そこが教室でなければ良い昼寝スポットだろうな。

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