15話 テスト-2
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「ツユちゃんの周りって僕以外変なのしかいないよね」
「え? 」
ヒスイが出ていった食堂でケイジュがツユに言った。突然のことに驚いたようにツユはケイジュの顔を跳ねるように見た。
「あのメイドさんにリンドウにアヤメさんにローメリック先生に医者の先生にあのピンク髪の子でしょ? 色々変わってるよな~って思ってさ」
ツユには覚えがなかった。アヤメやリンドウ、医者はおかしな人だと思ったことがあるが、ヒスイやローメリック、サクラはそこまで変だと思ったことはない。
しかし、ヒスイはリンドウと同じようにツユの可愛さに傍から見れば狂うほど恋している。狂ってはいないが頭がおかしいことに違いはない。ローメリックもツユは知らないが、自分から進んでツユのいる学年の担当をしている。他の教師は出来るだけ遠ざかるのにだ。そして、サクラも進んでツユと仲良くなろうとしている。他の人に比べれば可愛いものだが、ただの物好きに変わりない。
「そんなこと言ったらケイジュもそうじゃないの? バカみたいに頭いいし」
「それ……僕褒められてるのかな? 」
ケイジュが愛想笑いを浮かべながら頬を優しく掻いた。
「褒めてる褒めてるって、遅れるのもあれだし、ちょっと早いけどそろそろ行こうよ」
何だか悪いことを言ってしまったような気がしてツユは立ち上がりながら言った。いつもケイジュと遊び歩く時の服と違い、少し動きにくいことを恨む。
「うん、そうだね。僕が連れていってあげるよ。手、貸して」
ケイジュもリンドウや他の魔法使いと同様に空を飛んで長距離を移動することが多い。特に人通りも多く、遠く離れた学校などケイジュはいつもそうしている。
「ううん、今日はリンドウに振り回されたから空はちょっとね……」
ツユがそう言うと後ろにある扉がキィと開き、薄緑の髪のメイドが入ってきた。
「お嬢様、ケイジュ様。よろしければ乗り物をご用意いたします」
頭を下げてヒスイがそう言う。
「乗り物か。たまにはいいかもね」
「そうだね、じゃあお願い」
ツユに頼まれてヒスイは「かしこまりました」と頭をまた深く下げて言う。そしてそのまままたこの食堂を出ていくが、その先の廊下で複数の何かがバタバタと動き回っていた。
「お、お待たせしました」
二分も経たないうちに息を切らしたヒスイが帰ってきた。まだ時間に余裕はあるはずなのに相当急いだようだ。
「門の前に用意させました。そちらの扉から出てください」
食堂には扉が四つある。玄関に繋がる扉、裏の廊下に繋がる扉、使用人しか使わない料理場に繋がる扉、そして、外に直接繋がる扉だ。その外に繋がる扉を指してヒスイは二人に言った。
「ありがと。今日は晩御飯要らないから休んでて。朝帰るから」
ツユはケイジュの手を引いて扉を開けて今度はケイジュの背中を押して外に出す。そして、ヒスイの方を見て笑顔で言った。
そのままツユは扉を閉じて外に出た。一人残されたヒスイは小声でもなく扉が開いていたらツユにも聞こえているだろう声で言った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、かっわい」
「ヒスイ、掃除手伝って」
「はぁい」
その声が聞こえた他のメイドが食堂に入ってきてヒスイを引っ張っていった。
外に出ていったツユとケイジュは門の先に見えてきた乗り物を見つけていた。
「乗り物と言えば、だね」
「魔車はね、代表的だし魔法使いのメイドとかが一人いれば誰でも使えるから便利だよね」
魔車は馬車の様な形だが馬は繋がれていない。魔力を車輪に送って動かしているのだが、同時に何人も運べるバスとしても使われていることがある。魔力で動く車だ。
「でもこれ空だよ? 大丈夫? 」
「まあ、安全だしいいよ。全然平気」
距離の短縮のため空を移動するが、揺れもなく、直に飛ぶより遥かに安心感がある。その分スピードは出ないが、そんなことはあまり問題ではなかった。
「お嬢様、ケイジュ様。学校までこのわたくしがお送りさせていただきます」
サイレゴシェル邸の執事の一人が魔車に乗り込んだ二人に言った。その執事は外にある席に座り、前を確認しながらこの魔車を動かす。
「お爺ちゃんなら直接空に連れていかれてもいいや」
この執事は年老いておとなしい外見だが、ツユがまだ幼いときによく遊び相手になっていた執事だ。ツユはこの執事を『お爺ちゃん』と呼ぶほど気に入っているが、名前は知らない。
「僕も遊んでもらったことあるけど良いお爺ちゃんだよね、僕も好きだよ」
魔車の中の椅子に座りながらそんな話をしながら二人は学校に着くまでふんわりとした空気の中に過ごした。




