12話 授業-3
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昔々、と言っても百年くらい前の話。現在、多種族の国と呼ばれる『ヴァニラ』という国は吸血鬼のキングとクイーンによって納められていました。
外から見れば吸血鬼が優雅に暮らし、そこは人間も魔法使いも受け入れる゛理想の国゛。貴族制度はあるものの平民も飢餓に困ることなく救われる゛救いの国゛。
しかし、中から見ればその国はとある種族にとって地獄そのものだった。一つの存在でありながら二つ以上の種族の力を持つ者、人間でありながら魔力を所持する者、別の種族と契約した者……結婚したりする事で主従関係は違う。そんな『マジリ』と呼ばれる種族だけはこの国を゛地獄゛だと呼んだ。
かつて、数えるのもやめたくなるほど昔のこと。人間は奴隷のように扱われていた。しかし、人間のように抵抗する力を持たず、人間よりも長命で頑丈な種族、マジリが現れた。
都合がいい、雑に扱っても死なない、怪我をさせても勝手に直す。奴隷を利用していた貴族達にとってこんなにいい存在はいなかった。
それから数十、数百、数千年が過ぎ、奴隷制度は段々と薄れていった。『ヴァニラ』を除いた全ての国で奴隷禁止法が制定された。『ヴァニラ』にもその法はあったが、名前だけの存在であり、効力などなかった。
しかし、名前だけの法は他国のイメージを縛り、マジリも含めて幸せに暮らす国だと、誰もがそう思っていた。
国内では誰も違和感を抱かずに、誰もがそうだと言うように奴隷制度を続けていた。
そんな中で奴隷のように扱われる魔力を持つ人間に恋をした吸血鬼の姫がいた。
恋心を向けられた彼は頭が良く、親が貴族だったこともあり、教師として勉学を教えていた。生徒に自分がマジリだということを隠して魔法使いとして。
恋心を向けた姫は彼がマジリだと気づいていた。たったの数年だったが、彼を見ていて老いるのが人間より遅く、魔法使いより早かった。それに気がついても姫は彼を愛した。
姫は恋心が芽生えてからそれを隠して学校に通い始めた。姫の母……クイーンには一般常識をしっかり身に付けたいと嘘をついて。
十年後、無事学校を卒業した姫は彼に思いを伝えた。当然のように彼はそれを断った。自分がマジリであること、それに応えてしまえば姫もマジリとされてしまうこと。それを理由にしたかったが、出来ずに理由を告げずに断った。
姫は言った。「貴方の秘密は知っている。隠さなくていい」と。彼は言った。「それならばもう自分に近づいてはいけない」と。彼は姫を近づけ、姫は絶対に退かなかった。
そして姫は言った。「三十年、その間に私がお母様を説得する。殺してでも説得する。だから待っていてほしい」と。彼はそれを嘘だと思わなかった。
十五年も経つと姫に言われた言葉が彼の記憶の中で段々と薄れてきた。それまで通り教師として勉学を教えていた。
さらに五年後、姫は再び彼の前に姿を現した。いや、クイーンの娘として手伝いを始めた。その姿を見た彼は姫の言葉が嘘だと確信した。見た姫の顔は見たことのないほど冷たく鋭い瞳だった。
そして、十年後。革命は起きた。殺してでも説得する。そう言っていた姫の言葉は限りなく近い形で実現された。
手から血を流した姫が彼の前に立ち、笑顔でこう言ったそうだ。「おまたせ」
姫はクイーン、キング、妹だけを逃がしてしまったけれど、他の吸血鬼は全て殺した。幸か不幸か吸血鬼以外はキングとクイーンの圧を恐れて奴隷を使っていたらしい。
愛していたマジリの彼のために吸血鬼を殺して奴隷制度を止めた。貴族から解放されたマジリ、圧から解放された人間、魔法使いや夢人族は姫を英雄だと称えた。
彼も姫を英雄として妻に迎え、幸せに暮らした。
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