表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/37

二十八。幕間。 新たな起程


「ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「な、直樹?!」


がばっと布団を跳ね除け、上体を起こすと彩、エアが驚いたようにこちらを見ていた。

未だ荒い呼吸をなんとか落ち着かせようと深呼吸する。


あのソロモンとか言う女。

何のためらいも無く、人を殺す残酷さ。

そしてあの世界で、手刀だけで人の首を断ち切る怪力さ。

化け物だ。人の皮を被った化け物としか言いようがない。


あともしかするとだが、俺は死ぬことで日本とエルドルを行ったりきたり出来るらしい。


「急に叫んだかと思えばボーっとして……きっしょ…」


「いや、病み上がりにきっしょとか言うなよ」


「これもアヤなりの心配ですよ。ずーっとナオキの傍に居たんですよ?」


「あー!エアちゃん、言っちゃだめーっ!」


と、ツンデレな彩の一面が見ることが出来てふっと笑ってしまう。

などとホカホカした気持ちで居ると、ガチャリと部屋のドアが開き


「おや、目覚めたみたいだね。安心したよ。」


とアルリエが部屋に入ってくる。


「ほんとにエアは優秀すぎるくらい優秀だね。」


「まだまだですよ。…だって」


先程までと打って変わり、目を伏せるエア。


「エア、それは君が悪いんじゃない。生きているだけで奇跡なんだ。」


一体誰の話をしているんだろう。

もしかすると……と思い、手と足をさりげなく確認するが異常は無い。

誰の事だろうと考えていると、すぐにその答えが返ってくる。


「ガラテア団長は去年から引退のお話はされていたんだ。さっき団長からエアラリス君に最大の感謝を伝えてほしいって頼まれていたんだ。」


あぁ、ガラテア団長…そうだった……


「俺を……助けようとしたがばっかりに」


独奏曲・コンフィション・セレモニーから俺をかばってくれたあの瞬間がフラッシュバックする。

もっと早い段階でけりをつけられていれば、こんなことには……


「まったく、集団心理かい?…ガラテア団長は君の強さに感服していたよ。俺の言うとおり最後まで諦めなかったなんてな!って。」


はぁ、そっか。……まぁこれでいいんなら。これでいっか。


「安心した。ありがとう。……っと、さてさて」


こうしちゃいられない。

魔王連合は、まだ弱いうちの勇者である俺と彩を殺しに来ている。

異世界転生のお約束なんて通用しない。

向こうも本気なんだ。


だからこそ強く。もっと強くならなければならない。

そのために何をする?

簡単だ。限界突破すること。

そしてレベルアップすること。


まずは彩達の限界突破の為にギルドへ向かう。

大事なのはその次。


「アルク大森林の奥。アインホルノ大迷宮へ向かう。」


「それは流石にやめておいた方が…」


と、アルリエが返答してくる。

まぁ確かに危ないという意見にも一理ある。

俺も結構怖い。

……というかアインホルノ大迷宮ってなんかあった気が…

入る条件と言うか…まぁいっか。


すると本日2度目。部屋のドアがバンと開く。

そこに立っていたのは片腕を失った隻腕のガラテアさんだった。


「心配無用だ!今の諸君らなら大丈夫。ちょっと厄介な馬が居るだろうが殺してしまって構わない。経験値になるさ」


「団長がそうおっしゃるんでしたら……」


アルリエが折れる。勝った。


「よし、決定」


ベットから体を起こしたままの体制でニシシと笑っておくと、彩達もそれぞれ覚悟を決めたようだった。


「それでこそ勇者パーティーだ。困ったことがあれば何でも頼ってくれ」


「もちろんです……あ、みんな、その前に限界突破するかんな」


さて、そうと決まれば……


「俺は寝る!みんなも明日に備えて休憩!」


まだ日が高く昇っているが気にしない。


明日からはきっと苦しい毎日だろう。

風呂は無いしベットも無い。

リコルドクラフトを使うとかなり疲れるから何発も打てるものじゃないし。


本当なら1か月くらいごろごろしていたいのだが魔王連合がまたいつ攻めてくるか分からないし。

そういえば団長が言っていた厄介な馬とはなんなのだろう。

なんて考えているうちに意識は薄れ……ベットにばたっと倒れた。


翌日。王城の食卓で食事を終えた俺たちはギルドへ向かった。


「ごめんな?アインホルノ大迷宮行くの、みんな乗り気じゃ無かった…よな?」


「ガラテア団長の推測なんだけど……レベル上げの為なんでしょ?それなら行かない理由はないでしょ!」


彩が意気揚々と答える。


「そうですよ。……まぁ、エアは最初から別に反対してないんですけど……」


「ボクは…まぁあれだけどレベル上げの為ならね。」


やはりアルリエはちょっと嫌なのだろうか。

チームとしては嫌な理由とかも聞いておいたい。

小さな不満はやがて亀裂を生む。


「アルリエ、何かあるのか?……アインホルノ大迷宮に。」


するとアルリエは少し目を伏せると


「厄介な馬。団長がそう言っていたのは聖獣ユニコーンのことだよ。アインホルノと聞けば誰もが思い浮かべる迷宮の番人。」


「せいじゅう…?」


「聖獣はこの世界の存在が確認されている動物の中で最強の称号に相応しい動物に与えられている称号だよ。その上に神話級と言うのがあるんだけど、それはおとぎ話さ。」


確か、ガラテアさんは厄介な馬扱いだったけれど厄介どころでは無いじゃないか。

災厄、災害的。……ゴジ○みたいな?


ただ、そんなもの出会うわけが無い。

どれだけ不幸ならそんなことが起こるんだか。


「まぁ、もし仮にそいつに会ったら逃げれば良いじゃん。」


と、いうかあそこまでガラテアさんが簡単そうに言ってるんだ。

たいしたことないだろ。


「それかガラテア団長呼び出したら適当に倒してくれそうじゃね?」


「まったく……まぁこんなところがナオキっぽいと言えるんだけどね。」


どうやら今度こそ折れてくれたらしい。


気を取り直してギルドへと歩み始める。

……ふと前方を見てみるとなんだか見覚えのある女性が接近してきている。

接近と言うのは、別に俺たちの元に来ようとしているわけでは無く、俺たちと逆向きへ歩いているだけで、こちらに気づいた様子は無い。

その女性と言うのは、この世界にやってきた時に地球人と言ったら斬りかかってきた、あの女性である。

無視してもいいけれど何かの縁かもしれない。挨拶くらいしてもいいだろう。


「ども、久しぶりっす。覚えてます?俺のこと」


と呼びかけると女性の肩がピクっと跳ねたかと思うと


「あ、あ!あの時の地球人さん?あの時は勇者様だなんて知らなくて、唐突に斬りかかっちゃってごめんね?」


「いえいえ、あの時は仕方ないですよ。」


あはは…と笑って誤魔化すが、正直結構怖かったんだぞ。あれ。


「で、こちらの美少女達は地球人さんのパーティーの方々かしら。あ、私は以前地球人さんと世間話してた者よ。……で、今日はどちらに?」


「今はギルドに向かってます。んで、その足でアインホルノ大迷宮に行こうかなと」


「てことはレベル60超えた感じかしら。早いわねぇ…」


あ。


そうだ、忘れていた。アルク大森林なら大丈夫なのだが、アインホルノ大迷宮にはレベル制限があるのだ……


「そういえばナオキは寝てたので知らないんですね。そこはガラテア団長が上手くやってくれるそうです。」


「そうなのか。良かった。」


本当に団長にはお世話になりっぱなしだなぁ。


「まぁ、色々あるのね……それじゃ、頑張ってね」


「そちらこそ。それじゃ」


と、短い対話を終え、お姉さんは俺たちと逆方向へと進み始める。


さて、そんなこともありしばらく歩いているとギルドに到着する。

ここに来るのも3、4回目なので建物の雰囲気とかは大体覚えてきた。


そういえばギルドに来ると、いつもエアが居なくなる現象…エアのココア飲むための失踪現象が起こるんだけど……

と思いエアの方を見ると、いつの間にか……と言うことは無く「どうしました?」と首を傾げてくる。


そういえば前回、大量のココアを買ってたんだよな。それはもう、業者かと思う程に。


ところでエアはチョコは食べたことあるのだろうか。

こっちの世界にチョコがあるのかは不明だし。

ココアがあるくらいだしカカオ豆はあるのだろうし、作ってみてもいいかもしれない。

昔、チョコの作り方は調べたことあるし。

アルリエも甘いもの好きだし二人とも喜んでくれるはず。


「次の人ー!あ、加藤様御一行ですね。今回はどのようなご用件で?」


考え事をしているうちに列はすっかりなくなっていて、受付のお姉さんが俺達を呼んでいた。


「今回はリミットストーンの受取りに来ました。」


「承りました。アルテア様、加藤様は既にお持ちになられていると思うので、坂本様、フォーリング様のリミットストーンをお持ちする形で宜しいでしょうか?」


彩とエアがコクッと頷くとそれではお持ちいたしますね、とお姉さんは裏へ入っていった。


ちなみに、本来ならリミットストーンはギルドでステータスを取った時に貰えるらしい。

ただ、俺たちは王城でステータスを出してしまっていたのでギルドの職員さんも、俺たちがリミットストーンを持っていると勘違いしたんだろうな。


ちなみに俺のは戦いが終わった後、病室でアルリエから受け取った。


リミットストーンは所有者が傍に居なくても、第三者が上限解放させることが出来るらしい。


「お待たせ致しました。こちらになります。」


そういうと、お姉さんは二つの綺麗な石を彩とエアに手渡した。


「ありがとうございました。」


ギルドを出るとエアがキラキラとした瞳で俺を見つめてくる。

改めて見ても可愛いなぁ…


「…ナオキ、ナオキ、しちゃっても良いですか?」


「へ、しちゃう?それって……」


「上限解放。……ダメですか?」


……少し何かを期待した俺が馬鹿でした。


それまでの状況から考えれば普通に分かったことじゃないか。


「あ、うん。いいよ。そんなの俺に確認しなくても大丈夫。」


するとエアはリミットストーンをひっくり返すと、裏蓋を開け、赤いボタンをポチッと押した。

なんか思っていたのと違う。

手をかざしたらブワーっとか。そんな感じのを想像してたのに。

それを見て、彩も思うところがあるのか、うーんと考えた後に裏蓋を開け、ボタンを押す。

強化演出も無い。


まぁ、上限突破中は一定期間無敵状態になれるっていう機能があるらしい。

脳内に響くレベルアップ説明とかもあるからな。

その間、攻撃されて死んだら元も子も無い。


「終わりましたよ。ありがとうございます。」


「私も終わったよ~」


今まで様々な場面で異世界っぽい展開に喜んできたのに、まさか……こんなところで裏切られるとは。


さぁ気を取りなおして、出発に際して最終確認だ。

泊まってたホテルはチェックアウトしたし、もう準備は大丈夫かな。

不要な荷物はホテルで預かってくれてるんだけどね。


舞踏会に行く前にそういう話になったんだ。

アインホルノ大迷宮に行くってのは言ってないから、すぐ帰ってくると思われてるのかな?

ま、長くなっても大丈夫って言ってたし大丈夫でしょう。



さて、他に必要な物…回復薬……はエアの回復魔法の方が良いし。


ちなみにエアは他人のソウルエネルギーと言われる魔法を撃つためのエネルギーを回復させる魔法も持っているらしい。

といっても、この魔法を使うとエア本人のソウルエネルギーが大きく削られるらしいので使うつもりは無い。

ソウルエネルギーが尽きると、体力から削られていくらしいので魔法の乱用は控えたいところだ。

まぁ、つまりソウルエネルギーと言うのは他のラノベで言うマナとか魔素と言われるものだ。


なんとなく撃ってたリコルド・クラフトも、このソウルエネルギーから消費されるから連発は出来ないというわけだ。


そのリコルド・クラフトだが、最初に作った3つはソウルエネルギー消費ゼロで撃てるようになるらしい。

本に書いてあったのだ。ホテルの図書館所蔵の本だ。

で、その最初に作った3つというのは、リコルド・クラフトの練習に出してみたカレーライス。

クリスタルスケイル戦で用いた強塩酸、愛用のエクスカリバーだ。


正直、強塩酸はいらないな……



ちなみにソウルエネルギー回復薬は存在していないので調達する物も無いな。


「直樹ー?はやく行こーよ」


「そうだな!行こっか!」


さぁ、待ってろよ。アインホルノ大迷宮!

一章完結!ぱちぱちぱち~

今日明日で分けようと思ったんですが、一話に纏めちゃいました。

てことで明日は二章の始まりを投稿します。新キャラ2体。うち1体は名前だけは何度か出てます。

てことでまた明日もよろしくお願いします~

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ