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「2つのオチはずるいでしょ!」



 彼女が事件を解決したらしい彼にたずねる。

「え、どういうこと。ミステリじゃなくてホラーって……」

「謎解きの事件じゃなくて怖い話ってことだけど?」

「いやいや、知ってんよ! わかるってばっ!」

 彼女が直接すぎる彼につっこんだ。

「私が聞いているのはそれがどういう意味か、ってことだよ! たしかに行方不明事件だから、怖い話っていうのは当てはまっているけれど。でもでもホラーって幽霊とか怪物が出てくるヤツでしょ?」

「まあ、『ホラー』って『恐怖』という意味だから幽霊や怪物も出るけど、そういうことでもなくてね……」

「とかくとにかく、真斗くんは行方不明の男子高校生の居場所がわかったんでしょ? ちょっと信じられないけれど……。答えから聞くよ。どこ? いったいどこにいるの?」


「ん。どこにもいないよ」


「はあ?」

彼女が首を捻った。

「いやいやおいおい、真斗くん。どういうこと。わけがわからなさすぎるよ!」

「どこから説明するべきなのか……。ムズいな……」

 彼がすこし考えてから話し始めた。

「皆元さん、言っていたよね。事件の現場は近辺の高校だって」

「ああ、うん。そーだね。柑菜ちゃんのお姉さんの友達って話しだから」

「だからまず、この地域一帯の行方不明者情報を調べて見たんだ」

「ちょっと、え。いつの間に?」

「ほら僕、スマホいじっていただろ」

「あ、そういえば。アレ、遊んでいたんじゃなかったんだ。――ああ、なるほど。それで検索でヒットした行方不明の高校生が、話題の屋上で出会ったという男子高校生ということだね」

「そういうこと」

「なるほどなるほど。それで、その男子高校生の情報がわかるね。行方不明で捜索されているなら、年齢や名前も出てくるだろうし。――どだったの?」

「わからなかったんだ」

「ん? わからなかった?――ああ、もしかして行方不明の高校生が他にも数名いて、絞り込めなかったってこと?」

「いや違うよ。行方不明の高校生が数名いるって、どんだけ治安が悪いんだよ、この近辺。違う違う」

「うん? 違うんだったら、どういうこと?」

「いや、だからね。――いなかったんだ」

「え、いなかったって?」

 彼はスマホで調べた情報を開示した。

「この付近で最近行方不明になった――今月、身元が不明になった高校生は、誰ひとりいなかったんだ。ゼロ人だよ」



 彼女が不思議そうしていた。

「え、どういうこと。警察に捜索されていないってこと? 捜索届が出ていないってことなのかな?」

「まあ、そういうことだろうね」

「おかしいなぁ。柑菜ちゃんが言っていたのに……。薫ちゃんも知っていたのに。あ、でもでも、わかったよ。真斗くんが『いない』と言っていたのは、『情報が見つからない』ということなんだね?」

「いいや、ちがうよ」

 彼は否定した。

「え? どういうこと」

「そもそも、ちょっとおかしいと思っていたんだ」

「おかしい?」

「行方不明の高校生がいたら、ふつうニュースになると思うんだ。けれど、最近そんなニュースは見た覚えがない。テレビでも新聞でも、ネットでも。少なくとも地方局では取り上げるんじゃないかな?」

「あー、たしかに、そう思えば……」

「さっき検索しても出てこないしさ。それで、別の可能性を思いついたんだ」

「別の可能性? 行方不明じゃないってこと?」

「まあ、そういうこと」

「行方不明じゃない行方不明? 書置きのあった失踪とか? 居場所はわかっているけれど、見つかっていない――遭難とか! あれ、でも、遭難でもニュースにはなるかあ……」

「いや、別の可能性っていうのは、そういうことじゃないんだ」

「へ? じゃあ、どういう可能性なの」

 疑問符を浮かべる彼女に、彼は直接的に告げた。


「皆元さんが、話を聞き違えた可能性だ」


「は?」

「そして、僕にも間違って伝わっている」

「いやいや、おいおい。どんな可能性だよ。そんなことあるわけないよ」

「でも聞いた話を、一言一句すべて正確に僕に伝えたわけじゃないよね?」

「え、まあうん。そうだけど。聞き違いなんてするわけないじゃん。真斗くん、私をヘッポコ扱いしすぎだよ」

「……だってヘッポコだしなぁ」

「ヘッポコ言うな!」

 彼女が隣を歩く彼に咆えた。


「じゃあじゃあ、私がいったい、なにを聞き違えたって言うのかな? 真斗くんは」

「おそらく、好きになった、という部分かな……?」

「へ?」

「皆元さんが聞いた話では、その好きになったという部分は『コイに落ちた』って表現されていたんじゃないかな?」

「え、えーっと、どうだったかな。ちょっと、覚えてないけど……」

「たぶん、そう言っていたんだと思う」

「いやいや、同じじゃん。好きになったも、恋に落ちたも。意味はいっしょだよ」

「いいや、違うんだ」

「むむ?」

「だから同じ話を聞いた鷲尾(わしお)さんは、青い顔して怖がっていたんだろうな。意味がわかったから」

「どういうこと? コイニオチル? コイが鯉。魚だってこと?」

「ちがうよ」

「じゃあ、ボキャブラリーのこと?」

「ソレは語彙だよ。ちがう!」

「じゃあ、いったいどういうこと?」


「屋上でコイに落ちた」

 彼は一言だけ告げた。


「え、うん。なんだか素敵だよね。ロマンティック」

「そうじゃなくて……いや、『屋上からコイに落ちた』って言えばわかるかな?」

「うん? なんで『屋上から』? 意味が通じないよね?」

「いいや、通じるんだ。そして、皆元さんは、まだコイの意味がわかっていない」

「うーん。どゆこと」

「コイって――意図的に、わざと、そういう意味もあるよね?」

「あ、ああ、うん。『故意』ね。……え」

 故意に落ちた。

 屋上で故意に落ちた。

 屋上から故意に落ちた。

 ――え。まさか。


「…………自殺?」





















 恐ろしくなって顔を青くした彼女に、彼が言う。

「だから、そういう意味だったんじゃないかな。――その男子高校生。屋上から飛び降りたんじゃないかな」

「…………」

 背筋が寒くなってきた。

「だから、もう会えなくなった。話せなくなった。――それを皆元さんが『行方不明』と解釈したんだ」

 

 彼女は記憶を掘り起こす。

 友達の話していた言葉を。

 

『その友達は、屋上で男子と出会ったのね』

『そうして知り合った2人』

『そして、その屋上で、こいに落ちたの。その男子』

『でも、いいや、だから、その後その男子とは話すことはなかったの』


 そして訊いた。

『え、どうして、なんで』


『え、どうして、って……それは、会えなくなったから……』

 友達は歯切れが悪く、そう伝えた。


『(行方不明ってこと……)』

 そう思った。


 そんな会話の断片を思い出した。





「……あ。うん。そうだ……そうだった、よ」

 茫然とした彼女が言葉を紡いだ。

 男子高校生が飛び降り自殺した。――そういう話だったのだ。

 だから『行方不明者』では、出てこなかった。

 納得した。







「さて、それじゃあ皆元さん。――納得したよね? 鞄を返してもらってもいいかな?」

「あ、え、、うん。はい。これ、鍵」

 自失呆然の彼女は、ポケットのワイヤー錠の鍵を取り出して、渡した。

 彼は受け取り、解錠して、自身の鞄を確保した。

「…………」

 彼女は温度のない顔で黙ってそれを見ていた。
















「……皆元さん」

「ん、え。なに、かな。真斗くん」

「僕が『どこにもいない』って言った意味、わかってる?」

「え、それは、屋上から飛び降りて――自殺したいうことは……その、しんで――」

「ああ、やっぱり。意味ちがうよ」

「はい? え?」

 彼女混乱。

「皆元さんから話を聞いて、もしかして飛び降り自殺かもしれないと思い直して、改めてスマホで調べてみたんだ。最近、近隣の高校での飛び降り自殺」

「え、いつの間に……って、あ。スマホいじってたね。2回も」

「それでさ」

「え。うん」

「それも、いなかったんだよね」

「え、はい? どゆこと」

 彼はスマホで調べた情報を開示した。

「だから、この付近で最近、学校の屋上から飛び降り自殺した高校生は、誰ひとりいなかったんだ。ゼロ人だよ」

「はいいぃい?!」やっと意味を理解した。「え、え? どういうこと真斗くん」

「高校の屋上から自殺したら、結構なニュースになるよね。インパクトあるし。マスコミが大好きそうなビッグニュースだよ」

「ええ、そうですね」

「でも、そんなニュースも噂も、スマホで調べたけれど何も出てこなかった」

「え。なんで?」

「つまり、そんな高校生はいない。フィクションってことだ。非実在青少年」

「え、いない? ふぃくしょん?」

「僕が言ったのは、そういう意味の『どこにもいない』ってことなんだけど」

「ちょっええええええええええええぇぇぇ!」

 彼女が轟いた。




 彼が事情を聞く。

「たしか皆元さんは、友達がミステリ好きという話をしていたんだよね?」

「ああ、うん。薫ちゃんだね。直衛(なおえ)薫ちゃんが最近ミステリ小説を読み出して面白いって、そういう話してた」

「それで、別の友達がその話をしたんだったよね?」

「ああ、うん。柑菜ちゃんだね。山西柑菜ちゃんが薫ちゃんにこの事件の話をしたの。まあ事件じゃないみたいだけど」

「つまり、そういうことだね」

「え、どういうこと?」

「山西さんは、直衛さんがミステリ好きという話しを聞いて、例の『故意に落ちた』というエピソードを披露したんだ。この『故意に落ちた』ってけっこう有名なホラー風の叙述トリックだし。ホラーとミステリって混同されやすいしね」

「な、なるほどぉ。……あーもう。柑菜ちゃんめえええぇ」

「でもさ。ネタを知っていればフィクションだってわかるし。てか僕も知っていたし。直衛さんも知っていたんだろ? 皆元さんは知らなかったの?」

「あ、うん。まあうん」

「そっか。じゃあ山西さんは、直衛さんに話すだけじゃなくて、皆元さんをからかおうとしたのかもしれないね。怖がらせようとした。――まあ意味が通じなかったけれど」

「おい真斗くん。それは暗に、私には読解力が無かったと言いたいのか!」

「でもいっしょにいた鷲尾さんは理解できたみたいだよね。怖がっていたそうだし」

「うっ。まあ、たしかに……寧々香は怖がってたけど……そうだけどもっ……」

「それを――ネタを知らない皆元さんが、行方不明事件と勘違いした。それが真相だね」

「…………」

「はい。これは、そういうことだと思うよ」

 解決した。









 彼女がぐちった。

「まったくまったく。なんて真相だよ! 私、怖がり損じゃないか。もう、心配して損したよ! もう!」

「でもさ。さっき言ったけど『ホラー』っていうのは『恐怖』って意味だから。その怖い感情を楽しむ娯楽だからさ。その醍醐味を味わえてよかったじゃないか」

「よくありません! もおー。まさかこんなオチだと思わないよ、もー。二段オチってさあ」

 彼女はきっぱりと言った。

 そこで、ハッと気がついた。

「……おい。真斗くん」

「ん? なに皆元さん」

「……まさか、私を怖がらせようとしたんじゃないの?」

「ん」

「この話、はじめから私に真相から――結論から教えてくれればよかったよね?――『まずこの事件は柑菜ちゃんのフィクションです』って。そう説明してくれていれば、ぜんぜん怖くなかったのに」

「…………」

「それなのに、あえて『身元不明の高校生はいない』という話しから始まって『故意に落ちた』を丁寧に説明して連想させたり――」

「……」

「コレ、私をビビらせて、反応を見て楽しもうとしてなかった?」

「……そんなことは、ないよ?」

 ほんの少しだけ彼が笑っているのを彼女は見逃さなかった。

「ちょっと真斗くん! なんだいまの顔は! いまの間はぁ!? おいぃ!」




 彼女がぐちった。

「まったくまったく。なんて真斗だよ! 私、怖がりっぷりを見たかったのか。もう、心配して損したよ! もーお!」

「コピペかと思ったけど微妙にちがうな。皆元さんのセリフ」

 それになんかわかんないけどちょっと嬉しそうだし、と彼女の様子を彼が評した。

「でもでも、誰かが行方知れずになったとか、誰かが死んだとか、そんな話しじゃなくてよかったよ。わざわざクリスマスに暗い気分になることないもんね」

 ――。

「ま、そうだよね」彼が同意した。

「ふー。いやいや、よかったよかった。怖い話じゃなくて。現実じゃなくて。これで安心して――……いや……まてよ」

 急に彼女が言葉を止めて、なにかに気づいたように呟いた。

「ん? どうかした、皆元さん」

「あーあ、もー。柑菜ちゃんめ。そういう行方不明だとか自殺だとか言う話しを聞いたら、怖くなっちゃうじゃないか。怖くなっちゃったなー。心細いなぁ。不安だよ」

「は?」

「行方不明者が見つからない。屋上からの飛び降り自殺。そんなホラーなこと聞いたら、怖くなっちゃったよ。いやー、足がすくんできた。ひとりじゃ、帰れないかも……」

「……いや、解決したよね。それにさっきまで――」

「さてさて、そんなわけで真斗くん」

 彼女が満を持して要求した。


「……私を家まで送ってほしいな」

 まるで不安を内に秘めたように瞳をうるませて。


「…………」

「……真斗くん?」

「はあ」

「何故に溜息!?」

「……仕種はかわいかったけれど、これまでの流れでビビってないのバレバレだから。あざといし。わざとらしいし」

「あ、でもでも、やっぱかわいかった?」

「……そ、それはべつにいいんだよ。それより皆元さん」

「ん。なに」


「もう皆元さんの家、着くよ?」

 彼が事もなさげに言った。


「は?」

 彼女は辺りを見回す。

「え、えっ! ここ私の家の近くじゃん。そこ曲がったら家なんだけど?」

「うん。気づいてなかったんだね」

「どういうことだ。まさか真斗くん、ワープ能力を使えたの? この世界のジャンルはいつから異能バトルモノになったんだ?」

「ちがうから。能力もバトルもないから。――ただ皆元さんが僕に話しかけてきたときから、こっち方面に歩いていただけ」

「……なん……だと……」

 彼女が驚愕していた。




 思えば、彼は彼女の前を歩いていた。――先導していた。

「真斗くんが、なんだか妙に知らない道で遠回りしているなー、と思っていたけど。まさかそういうことだったとは……」

「皆元さんのことだから、何かしら理由をつけて、家まで送って行けと言いだすだろうと思って。前もって皆元さんの家の方向に歩いていたんだ」

「先読みがすぎるでしょ!」

「いやだって、前にもそういうことあったし。――外が暗くなるまで話を長引かせて、夜道は危ないから送って行け、とか」

「そんなこと私、言ってないんだけど!?」

「暗くなるまで時間稼ぎしたことは認めるんだね?」

「ぴゅーひゅるるー」

 そっぽを向いて口笛を吹いた。

「あ、でもでも、私んちに送ってくれるんだったら、あっちの墓地の中を突っ切たほうが早かったよ?」

「さっきまで恐怖でおびえていた人のセリフとは思えない件について!」















「さて、それじゃ僕は帰るよ。――皆元さん。また今度」

「そっか。それじゃあ私、真斗くんを家まで送っていくよ」

「本末転倒になるからやめてくれ。それ、また僕に家まで送れと要求して、無限ループに入るヤツだ」

「まあまあ、いいじゃんいいじゃん。学校も午前中で終了して、まだお昼だしさ」

「悪いけど、帰って明日の準備があるから」

「むー。」不機嫌そうだ。「まあ、いいよ。勝手について行くから」

「まあ、そう言わずに、さ。――今日はあきらめてくれ」

 かちゃん。

「ん? 真斗くん。何の音?」

「皆元さんの自転車をワイヤー錠でロックした音だよ」

「え。はい?」

 自転車タイヤがワイヤー錠でロックされていた。

 後輪が回らない。動かせない。

「そんで、その鍵は僕が持っている」

 彼の手にはワイヤー錠の鍵(キーホルダー付き)があった。

「え、なんで……」

「かごにロックされた僕の鞄を外したときに鍵を借りたけど、そのときに返していなかったからね。――さて、これで皆元さんの自転車は鍵がなくては動かせない」

「えっ。あ、たしかに。――でも、なぜ、こんなことを」


「――この鍵をかえしてほしくば、今日のところはおとなしく僕を帰してくれ」


「ええーっ! ちょっとぉ!」

 彼女が驚く。

「まさか真斗くん。私を脅迫するつもりか! 人の弱味につけ込むなんて……サイテーだ! それが人間のやることかよっ!」

「その言葉、ものすんごい巨大なブーメランだからね!?」

 鞄や通信簿を脅しの材料にされた彼が正論を唱えた。




「まさか真斗くん。その鍵を返す代わりに、私の身体を――えっちなことを要求するつもりか?!」

 不本意だが仕方がない、みたいな態度の彼女だった。

「ちがうから! ただ僕を帰宅させてくれればそれだけでいいから!」

 往来で妙なことを口走る彼女に、彼が全力で否定を返した。

「……」

「……」

 にらみ合いが続く。


「……しゃーがないぜ。私の負けだ。要求を受け入れよう」

 彼女が敗北宣言をした。

 彼が鍵を渡した。

「うん。悪いね。――また会いたいなら時間を作るから。今日明日あさっての3日間以外で」

「…………ところで真斗くん。繰り返しになるけれど……やっぱり、明日、少しだけでもいいから、時間もらえないかな?」

「いや、ごめん。――何度も言うようだけど、明日は無理だよ」

「ほんの数分でいいんだけど……?」

「ごめん。無理だ。――実は、親戚も来ることになっててさ。いそがしいんだ」

「……そっか」

 彼女は本当に残念そうにうつむいた。

 本気だ、彼は。――彼女には、それがわかった。

 彼は自転車をロックするという強引な手段で彼女を止めた。

 彼がそんな事をしたことは、今まで一度もなかったから。

 ダメだと、無理だと、本気だと、その意思が伝わった。


 それでも、顔を上げて彼を見た。

「それじゃさ。真斗くん。――10分。あと10分もらえないかな。ちょっとだけ待ってほしい。お願いします」

 だから彼女も真剣に頼んだ。





 冬の路上で待つこと10分弱。

「はい。真斗くん! お待たせしましたぁ!」

 彼女が家から出てきた。

「あ、うん。なんか妙にテンション高いな」

「そんで、ホイ! どうぞ受け取れ、真斗くん」

 彼女が手に持っていた紙袋を差し出した。

「ん? なに、これ」彼は受け取って紙袋の中を確認。「紺の毛糸……マフラー?」

「う、うむ。そのとおり! 私からクリスマスプレゼントだ!」

「あ、ああ」

「ホントはきれいに包んでラッピングしてくるもうと思っていたんだけどね。それとそれと、ちょっちショートで短くて長さ足りないかもしれないけど、カンベンね。――明日あさっては会えないそうなので、急いでたった今さっき急ピッチで仕上げたところだから!」

「そっか、なるほど。でも、そんなに短くないよ。ちょっと長いくらいじゃない?」

「………………いや……ふたりで巻くにはちょっと短いんだよね……」

「なぜ急に小声でぼぞぼそと言う? なんて言ったの?」

「いやいやいや、別になんでもないから!」

 ごまかした。――が、赤面なのはどうしようもなかった。


「それじゃ皆元さん。マフラーありがと。帰るね。また今度」

「おう。真斗くん。達者でな! 一日早いけど、メリークリスマス!」

「うん。メリークリスマス。――じゃあね」

 彼が薄く笑った。背を向けて歩きだす。


 その背を見送る彼女には、

 なんだかその顔が印象に残った。


 どこか物哀しい、その顔が。

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