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歪の街。
数多の忌異と特異が集い、その全てが許される場所。
雨鉾。
ここでは――
人の全てを見ることができる少女も、
はるかな未来を覗く者も、
無限の過去と繋がる者も、
隣り合わせの世界を渡る者も、
魔術妖術その他を嗜む者も、
人ならざる怪異の類いも、
呪いも、祈りも、
彼方より訪れし者も、
それら全てを、都合良く書き換えてしまう者も、
遍く、等しく、存在する。
無数の因果が束ねられ、
編み込まれ、解れ、
時に壊れ、
時に生まれ、
繰り返す。
世界に流れる当たり前の理――
それが失われ、歪みきった場所。
……いつか誰かが言った言葉がある。
この都市に神はいない。
神という名の――――世界を支配する普遍の常理は存在しない。
故にこの都市は、神を殺して造られた地。
殺神都市である、と。
「――まったく、ふざけたネーミングです」
唯花は、何故そんなことを思い出したのかわからず、誰に向けたわけでもない呟きを漏らす。
春風が、彼女の黒髪を撫でた。