チート最強でヒロインにモテても転生勇者が不満げな理由
「おのれ勇者カイザーめ……だが魔王様がかならず貴様を……」
そう言い放ちながら、俺が倒した魔物たちが闇夜に消えていく。
俺は今、2度目の人生を生きている。
生まれ変わる前の俺は、ギリギリの成績で高校を卒業し、簡単なバイトの面接にも落ちまくる低スペック野郎だったが、今は訳あって、剣と魔法の世界で魔物を倒す日々を送っている。
事の発端はある日の不運だ、俺は通り魔に刃物で襲われ必死に逃げていたところ、赤信号を無視して突っ込んできたトラックを避けようとしたら、上から鉄骨が落ちてきたのだ。記憶はそこで途切れている。
正直なところ、どれが直接の死因かわからないのだが、死んだ事実の前には些細な事だ。しかし俺にはまだ意識があった、気が付けば薄暗い空間で謎のじいさんと二人きりになっていた。
じいさんは自らを神と名乗った。俺は人気アイドルグループ『葬礼YOU』の血飛沫 嵐子ちゃんのグッズに貢ぎまくってこそいたが、特定の宗教に属さないことにしている。普通だったらこんなヤバい奴と関わり合いたくないのだが、状況が状況だけに信じるしかなかった。
なんでも神のじいさんの話によると、俺が死んだのは手違いらしい。詫びとして生き返らせてくれると言うのだが、俺は元の人生に戻ってもロクなことがないと愚痴をこぼした。するとじいさんは異世界に転生することもできると言い出した。
おお、この流れは異世界転生というやつではないか。だが、俺のスペックでは異世界に行ったところですぐ殺されるか野垂れ死ぬかのどちらかだろう。生きていくには力がいる。そこで神のおじいさんに相談したところ、俺の望むままの能力を付与して、いくつもある世界の中から好きな場所に転生させてくれるというのだ。
久々に心が躍った、至れり尽くせりじゃないか。RPGが好きな俺の転生先はもちろん剣と魔法のファンタジー世界だ。そこで俺は勇者になるのだ。裏をかいてモンスターやら無機物に転生する作品もあるようだが、やっぱりファンタジーの主役と言えば勇者だと思うし、これまでの人生で自分が主役になるような場面がなかった俺にとって、それを取り返す時が今だ。
圧倒的な強さで魔王と戦うもよし。スローライフを送るもよし。細かい事は行ってから決めるとして、いま大事なのは転生先で使える特技の話だ。
「腕をひと払いしただけで魔物数十匹が吹き飛ぶようなパワー」
「時速100キロを超える速力」
「遠距離の敵とも戦える飛び道具」
「毒やウイルスに負けない頑丈な体」
その他、色々な条件をつけて俺は素敵な神のおじいさまに転生させてもらった。
※ ※ ※ ※ ※
転生する前の事を思い返していたところ、遠くから群衆の歓声が聞こえてきた。俺が魔物の群れから守った村人たちの声だ。皆が俺を讃えている。
「すごい! さすが勇者様です!」
そう言って駆けてくるのは、エルフの少女ミトだ。俺がこの世界に転生してすぐ、オークに襲われそうになっているところを助けたのだ。それ以来、俺に懐いて一緒に旅をしている。ミトは露出量はそれほどでもないが、身体の要所要所が絶妙に露出したまぁ~エロい格好をしている、元の世界ではこんな姿はコスプレ画像でしかお目にかかれなかっただろう。
ミトは嬉しそうに俺に抱き着いてくる。必然的にそのたわわな胸が押し付けられる。しかし俺は興奮などしない。
想像してみてほしい、どんな美少女であっても自分の膝より下にだけ抱き着かれて欲情するだろうか?
え? ミトは小人なのかって? ああ、そういえば大事なことを説明し忘れていた。
今の俺の身長は10メートルを超えている。
今度は俺が巨人なのかと思われるかもしれないがそれは少し違う。最初の違和感は転生してすぐだった。周りの景色がどうも小さく、ミニチュアの中にいるようだった。ふと、自分の手の甲を見ると黒い装甲に覆われており、関節部はゴムのような膜で包まれていた。腕も、足も人間のそれではない。
近くに湖があったので自分を映してみたら巨大ロボットの顔が見えた。目と鼻はあり、口も動くので喋ったり表情を作ることはできることが、水面に映った自らの顔と絶叫でわかった。
そんな感じで、せっかくの美少女との接触にも有難みを感じることができない。もっとも密接に触れ合う方法がないわけではない。車に変形すればいいのだ。
訳がわからない? ああそうだろう、俺だってわからない。訳はわからないがカーモードになる機能が何故かあるのだ。変形するとミトを乗せることができ、長距離の移動も苦にならない。しかし俺はその状況が好きではない。以前テレビで見たバブル時代特集の『アッシーくん』を彷彿とさせるからだ。
考えてみると『時速100キロで走れる速力』という条件がまずかった。実際カーモードで全速力を出すと100キロはゆうに出せるが、人間の姿を保つという条件をつけておくべきだった。
そんなことを考えていると村人たちが騒然としだした。視線の先に目をやると、黒い雲を背に見たこともないような巨大な竜が飛来してくる。身長が10メートルになった俺から見ても明らかに巨大だ。急いでミトを非難させる。竜は近くに着陸すると禍々しい声で喋りだした。
「貴様が魔王軍に歯向かう勇者カイザーか!この邪炎暗黒竜ディノドランが塵にしてくれるわ!」
セリフは三下の悪党みたいだが、さすがにこの巨体で言われると迫力がある。この世界で苦戦らしい苦戦をしたことのない俺だが、念には念を入れることにした。
「チートバァァァァァド!!!」
俺がそう叫ぶと雲の彼方から赤い鳳凰型のメカが飛んでくる。チートバードは変形し、頭と手足、胴体を形成する。俺は飛び上がりこう叫ぶ。
「チ――――――ト・オン!!」
俺の身体が変形し、チートバードの胸部のスペースに収まる。
「転生合体! イセカイザー!!」
背中の大きな羽根をはばたかせ、俺は着地する。この形態は敵が巨大な戦車や飛行船に乗っている場合に使用している。正直言うと普段は合体しなくても勝てるのだが、かなり手間がかかるので、時間短縮のために使っている。
しかし微妙な気分だ、この形態になるとますます人間離れしてしまう。フェイスガードで顔の下半分も覆われたロボット然とした顔になるため、わずかにあった人間味もなくなり、ただでさえ10メートルあった身長が22メートルぐらいになる。
敵は口から紫の炎を吐くが、俺は咄嗟に飛び上がってかわし、右手を敵に向ける。
「ブーメラン・ジェッター!!」
そう叫ぶと右手からブーメラン型の飛び道具が射出される。この飛び道具も条件のひとつだが、魔法ではなくまさかの実弾である。もっと細かく条件を出すべきであった。
ちなみにさっきからの一連の叫びは故意に言っているわけではなく、勝手に口から出てくるのだ。俺がカイザーと呼ばれるのも、カーモードから人型になった時に「チェーンジ! カイザー!」と勝手に叫んでしまうためだ。熱い風呂に入った時に唸ったり、寒い場所で身体が震えて体温を上げるような無意識の防衛本能のようなものかもしれない。何から何を防衛しているのかは知らんが。
それはそうとブーメラン・ジェッターは敵の皮膚に傷一つつけられず弾かれた。普段ならボスクラスの敵であっても仕留められるのだが、さすがに本腰を入れてきた相手は強い。
「どうした! その程度かぁ!」
ふたたび吐かれた炎を今度はモロに浴びてしまった。今までどんな敵の攻撃にもビクともしなかったイセカイザーの体をもってしても熱く、苦しい。
「くそ、人間の体と引き換えにこの世界で手に入れた強さもこの程度なのかよ!」
(あきらめるな、カイザーよ)
この聞き覚えのある声はあの神ジジイだ。
(お前に秘められたパワーはそんなものではない。求めてみよ、更なる力を)
いや、そんな話あとでいいから人間の姿にしてくれと言いたかったが神クソジジイの声は途絶えてしまった。ブチ切れた俺は思いっきり絶叫したが、口から出た言葉はまた無意識に意味のある言葉になっていた。
「エミュドラゴォォォォォォン!!!」
そう叫ぶとまたも空の彼方から巨大な青い竜のメカが飛来した。そのエミュドラゴンなる竜の体はバラバラに分解したかと思うと各部が変形し、俺の両手、両足、背中、胸、頭に装着されていく。
「超転生合体! グレェェェェェト! イセカイザァァァァァァ!!!!」
グレートイセカイザーとやらになった俺の身長はディノドランに並ぶほどになっていた。
「おのれ! そんな姿になったところで勝てると思うな!」
三度炎を吐くディノドランだが、さっきまで苦しめられていた炎とは思えないほどぬるく感じる。
「テンセイバー!!」
俺は、またも無意識にそう叫び地面を殴ると、地割れの底から現れた巨大な剣を掴んで引き抜いた。
「グレートテンセイバー・エターナルエ――――ンド!!!」
俺の振り下ろした剣によって、ディノドランの体は真っ二つになり爆散した。ふたたび村人たちが歓喜の声を上げている。
「すごい! さすが勇者様です!」
またミトが抱き着いてきたが、今度は足先にしがみついているといった感じだった。たぶん今の俺の身長は32メートルぐらいであろう。本当になぜこんなことになってしまったのか。
そういえば転生する前、ファッキン神クソジジイが何度か念を押していた気がする。
「勇者と言ってもいろんなタイプがおるぞ」
「一番強いのを頼む」と俺は答えた。
「若者よ、最後にもう一度確認する。『勇者』でいいんだな?」
「ああ、『勇者』がいい」
うん、おかしい。今の会話のどこにも身体が巨大ロボットになる要素はないはずだ。やはりアルティメットファッキン神クソジジイがトチ狂っていたとしか思えない。泣きたい気分だが、この身体では涙も流せるかどうかわからない。俺の心はどんどん乾いていくのだろうか。
その時、遥か彼方から光が射した。その美しさに心が洗われるようであった。
「ちくしょう……明日もこの景色を見るために、もう少し頑張ってみるか」
俺の心に勇気をくれたのは、熱い日の出だった。
完
異世界転生チート主人公を自分なりに書いてみたらどうなるかなと思い、書いてみたらこうなりました。
なんかすいません。