VMG(ヴァーチャルモビリティゲーム)
一新は、腹が空いたのでサーバー室を出て、駅前の牛丼屋で牛丼を食べながら、携帯電話で【江藤 美鈴】を調べていた。
検索結果に出た内容は、一新を新しい世界に導く物だった。
「VMG?ヴァーチャルモビリティゲーム?」
流行に遅れている一新には、初めて聞く単語だった。
ヴァーチャルモビリティゲームとは、略してVMGと言われるオンラインゲームで、専用のギア被り専用のベットに寝ることによって、あたかも現実の様な仮想空間の世界に自分自身が入り込めるゲームである。
機材は、ギアだけで安いもので100万以上する非常に高価なゲーム機器になるが多くのタイトルが出ており、その中で【シウテクトリ】と言うファンタジーゲームが世界で200万人が常時プレイしていて、そのトッププレイヤーが【江藤 美鈴】であったのだった。
牛丼を食べ終わり、データセンターへ向かう。
一新は、軽度の対人恐怖症であって、まともに日常会話出来る人は、元親友の副社長の鈴木とアパートの大家さんと、いつも警備している警備員だけであった。
データセンターに入る際に網膜認証があり、各サーバー室に入るには、毎月登録した指紋認証が必要であるため、毎月一回は、警備のおじさんと話す一新であった。
「おっと!今日登録しないと明日から入れなくなる」
思い出した一新は、網膜認証でデータセンター内に入ると警備員室へ向かう。
「一新さん、こんばんわ!まだ仕事?残業は珍しいねぇ」
警備員のおじさんの名前は、田中 大将。
58歳で勤続31年目のベテランである。
昨年、一新が指紋認証登録を忘れた際に、一新と仲が良いのでコッソリ本来やってはいけない一カ月を過ぎた時の継続登録をして、当時の一新をよく思っていない主任とトラブルになって解雇されそうになったが、一新にとって重要人物だったので、それを知った一新が裏から人事に手を回して解雇どろこか主任に仕立て上げた人であった。
その時には解雇を覚悟していた大将であったが、解雇どころか、そのトラブルで主任になったので、実は一新が凄い権力者なんではないだろうか?と言う疑問を抱いている。
「登録お願いします。
あと、明日、私の会社が借りているサーバー室の個室に大型の荷物が届くんですが、搬入大丈夫でしょうか?」
「一新さんのお願いだったらデータセンター止めてでも入れるから大丈夫だよ!あはははぁ」
「止めたら一生借金地獄ですよ!私が留守でも入れといてください」
「わかったよ」
親父ギャグがキツイ大将である。
認証登録も終わって、搬入も許可を得たので自分の個室スペースに戻る。
早速アマジャン(ネットショップ)を開き、銀行引き落としで1番高い最新のVMGを一式購入する。
「一式で267万円って、本気か?これが今は一般的にみんな持ってる時代なのか?ロトハンドレット当たってなかったら手も足も出なかったなぁ」
本当は、自宅でやろうと考えていたが、使用電源が200vであったため、アパートに200vコンセントを引かなければならないので、普通に200vコンセントがあるサーバー室の個室スペースでやる事にした。
モニターの右端に、人事システム(ワークフロー)からメッセージが届いた。
「何年ぶりのメッセージだろうか?」
開くと、明日8:00にビックス本社の最上階執務室へ出頭するように、書かれていた。
伊藤 美奈子からだとわかったので、一新は、動揺する。
「初対面では、まともに喋れるか自信がない。
しかも女性となんか無理だ!どうしようかな?」
メンテナンス用のログが残らないIDでビックスサーバーに繋いで、執務室の監視モニターを開く。
この監視モニターは、火災検知器用なので通常は見れないのだが、一新にかかれば可能であった。
「あとは、音声は社内通知用のインターフォンで大丈夫だな」
顔出しせずに済まそうと計画を練る一新であった。
「執務室に1人だけ人がいるな。伊藤さんかな?」
机のモニターを見て赤い顔をしてモゾモゾしている。
気になったので、何を見ているか管理ログを検索して調べると、納品した天気予報プログラムだった。
「うお!バレてる?まぁ私の経歴でも見たんだろうな。会わない方が正解っぽいなぁ」
まさか自分が社内でトップシークレットの人物になっている事を知らない一新は、自分の人物像が何もかも知られていると思い込んだ。
伊藤 美奈子のプロフィールと経歴を、私も見られたなら、やり返そうと調べた。
出た結果を読んだ瞬間に白い灰になってしまった。
「ここまでパーフェクトな人っているんだな!凄い経歴だし、めちゃくちゃ美人だ!」
自分との差に、ショックを受けると共に、会ったら迷惑をかけてしまうと思い込んでしまった。
赤い顔をしてモゾモゾしてる美奈子を見ながら、VMGの運営会社を調べる。
「うは!ビックスの子会社じゃないか?」
一新は、一般社会に興味がなく知らないのだが、ビックスで開発した一新のシステムは、神が宿っていた。
本来のパソコンを動かすOSは、機械語を運用する下位言語を利用して普通に集積回路を使うものであった。
一新システムは機械語から作成されていて、集積回路が意識を持つようなプログラムソースであり、集積回路に負荷がかかると、自分と同じシステムをネットで検索して処理を分担する事を前提に作られていて、ネットワークに繋がっていれば、全ての処理がクラウド的な分散型で処理されるものであった。
その為に、様々な分野のプログラムに一新のシステムソースが使われ、複雑さ故に逆アセンブリでもソース自体を再現出来る天才がいなかった為に、改造もされずに、今や世界のネットワークは、一新のシステムが動かしているに等しい事を一新は知らない。
ビックスは、既に世界最大の会社になろうとしていた。
ビックス子会社である、【テクノVMG】も一新のシステムを利用してゲームを作成していた。
「テクノVMGが販売してるのか。凄い売り上げだなぁ。ビックスより大きい会社なんじゃないか?」
ビックスが株主なだけで、ビックスよりもテクノVMGの方が大きい会社なんだと、ビックスが小さい会社の時に入社した一新は、勘違いをする。
「テクノVMGが直接販売してるソフトになるんだな」
【シウテクトリ】に関して調べ始める。
ハードは、買ったがソフトを買い忘れた事に気がつき【シウテクトリ】を買おうと思ったら、何処にも売っていなかった。
「どう言う事だ?」
さらに調べると凄い事になっていた。
ログインIDが200万人分しかなく、既に完売しており手に入れるには、オークションでIDを手に入れなくてはいけない事とサーバーでのフルクラウドのためIDさえあればソフトを入れる必要はなかった。
オークションで調べると、IDの価格が最低でも122万ほどになっている。
しかもIDの保持者は、毎月5万円のサーバー使用料を払う契約になっていた。
「なんてブルジョアなゲームなんだ!なんで高校生がやってんだよ!」
思わず突っ込みをいれてしまった。
公式HPを最後に読んでいたら注意書きがあった。
18歳以下は、無料でVMGを貸し出し。
IDも月1万円で貸し出し。
サーバー使用料無料。
「うお!ツッコミどころ満載だ!若いうちに染めて、働き出したら絞り取るって事か?明日とにかくやってみよう」
オークションに150万で入札しておいた。
「金銭感覚がずれてきたな」
「ああああ!」
突然、美奈子が叫ぶので、一新は何事かとモニターを見る。
机にうつ伏せに倒れている。汗もひどい。
女性経験もないし一般常識も知らない、お人好し一新は、心配になった。
インターフォンシステムから、話しかけてしまう。
「だ、大丈夫ですか!!」
「きゃあああああぁぁ」
突然話しかけられた美奈子が悲鳴をあげる。