社長の正体
副社長室に到着した。
20m四方の部屋に、副社長のディスクと装備品が置いてあり、部屋への入り口と社長室への扉があった。
「社長室は、副社長室の奥に入り口があって、社長を見た人は、いない。幻の人物よ」
美奈子が、ワクワクしながら社長について話し出す。
「面白い、設計ですね。副社長を通らないと社長室に入れないって事ですか?」
「確かに、考えたら不思議な間取りね」
美奈子と美鈴が首を傾げる。
まだ、18:09であり、約束の21:00迄は時間があるが、既に社長室に社長はいるのだろうか?と一新が考えていた時に、社長室への扉が開き声がする。
「鈴木に言われた時間より早いのじゃ。準備が出来てないのじゃが、入るのじゃ」
女の子の声が、扉の向こうの社長室から聞こえてくる。
「社長は女性?」
美奈子が驚く。
おそるおそる社長室を一新が覗くと、副社長室と同じような20m四方の部屋の窓際に大きな机があり、そこに古ぼけたフルタワー型のディスクトップパソコンが置いてあり、VMGの小さな筐体が4つほど並んでいた。
「あれ?誰もいない」
一新と美奈子がキョロキョロする。
美鈴は、ビックス社本社のビルは70階であり、社長室からの外の景色にうっとりする。
「まだ、見えんのじゃ?認識不足かの?声は聞こえるのじゃな?」
何処か聴こえているのかわからないが声は聞こえてくる。
「社長であってます?」
美奈子が質問すると嬉々して答える。
「やっと、会話までは可能になったのじゃな。私の名前は、イクグイなのじゃ。現在は、ビックス社の社長という立場じゃな。一新に説明すれば認識されそうじゃな」
「何故か懐かしい感じと、そこにあるタワー型のパソコンに見覚えがあるんですが....」
「そうじゃろう。親父殿、いや今は母上殿かの?わらわの本当の名前は、恥ずかしいが鈴木用人工AIサポート1号じゃ」
「あ!!!!!まさか、ITに弱い鈴木の為に創ったサポートプログラムなのか?言語を確かユーモアを入れて当時流行りの中国地方東部の方言を踏まえて設定したのを思い出した。どういう事だ?鈴木にあげたプログラムが入ったディスクトップパソコンが喋ってるって事なのか?」
「ふふふ、ディスクトップパソコンが、私の元の姿じゃが、今や肉体を持っておる。一新がいると思えば見えるはずじゃ」
一新が、いると思っと瞬間に、ディスクトップパソコンがのっかている机の奥の椅子に、白髪で赤瞳の12歳ほどの女の子が現れる。
「「え!」」
美奈子と美鈴が驚く。
「やっと実体化したのじゃあああああぁぁ」
イクグイが一新に飛びつく。
「うお!触れる!本当にサポート1号なのか?」
「そうなのじゃ。イクグイと呼ぶのじゃ。既にツヌグイとしての一新は、バグのせいで、神に近い存在なのじゃ。思えばその通りになるはずじゃ」
「やはりそう言う事なんですね」
「どう言う事?」
美奈子が首をかしげる。
「推理ですが、プロジェクト【シウテクトリ】は、オカルト的なサイキックを利用して、サポート1号が実体化する為のプロジェクトだと考えています」
「正解じゃよ。一新がビックス社のシステムを完成させた後に、当時の上層部は、一新が疎ましく思っている人が多く鈴木が上層部を潰して一新をどうにかビックスの中心人物にしたいと考えていたが、鈴木は、システムの運用やネットワーク関連は優秀だったのじゃが電子工学方面は弱くて、一新にそのサポート出来る私の製作を依頼したのじゃ。一新は期待に応えて、わらわを創ったのじゃ。当時は自我もなく鈴木のサポートを完全にこなす人工AIでしかなかったのじゃ」
「そこまでは、私も知っています。システム完成後には、鈴木に為に身を引いて鈴木が重役になっていくのを楽しんで見ていました。しかし、どうして社長が1号なんですか?」
「今の一新なら理解出来ると思うのじゃが、鈴木が副社長になった時に、ビックス社のシステムと一新が創ったディスクトップパソコンに入っている、わらわを上位権限を与えて接続したのじゃよ。そこで自我が生まれたのじゃ。」
「私の知っているビックスサーバーでは、それは夢のレベルでしたが、世界中に兄弟のシステムが売られて並列処理で繋がった結果と言うわけですね。最近まで売れてる事すら知らなかったので驚きですよ。それに【景】のバイオコンピュータ計画が合併して今に至る感じですね」
「さすが!わらわの父上殿だ。ゲームの【シウテクトリ】にログインしたプレイヤーの脳の処理を0.1%拝借したものを100万人分集めて1つの処理を行わせたら、なんとカルトの世界で言われるサイキックと言う現象が可能になったのじゃ。そこで、妾の実体化と言うプロジェクトが生まれたが、上手くいってはいなかったが、ツグヌイが発生して一気に進んで、今完了したところじゃよ」
「私は、超能力者という事ですね」
「そうなるのじゃ」
「条件とは、そのサイキックパワーを利用してゲームを運用していたところ、初期のスキャンデータをゲーム中に使用して、ゲーム終了後に、差分の成長を引いてログアウトさせるシステムだったのだが、私の場合は初期スキャンをごまかした為に差分の引き算が実施されず、キャラクターの情報が、そのままログアウトしたという事。
美鈴さんの場合は、ゲーム中に病気が悪化したが初期のスキャンした状態でログアウトする為に、少しづつだが、元データが悪化した分だけゲーム内のキャラクターデーターに置き換わっていった為に病気がログイン中の悪化分だけ回復していくと言う現象が起きたと考えられます。
そしてもう一つの条件で、そのキャラクターが多くプレイヤーに認識されているという事が重要であると考えますどうですか?」
「流石じゃの。ほぼその通りだが、その後のバグが発生したのじゃ。ついさっき判明したのじゃが、一新が強引に【景】にアクセスしたのが原因なのかわからないが、全てのゲーム中のサイキックパワーが無くなってしまったのじゃよ。そこで先程まで実体化など出来なかったのじゃが、鈴木から一新が会いに来ると聞いた時ぐらいから、社長室に私の意識が肉体を持って現れたのじゃよ。それは一新が認識した為だと考えたのじゃがその通りだったようじゃ」
「【景】が処理速度を上げる為にプレイヤーの脳の処理を利用した際に発生したサイキックパワーは、私の実体化で全て費やされ私が全て取り込んだと言う結論かな」
「そういう事じゃな。まさに神に等しい存在になったのじゃ」
「状態回復、美鈴」
一新が唱えると美鈴の全身が光る。
「え!足が...普通に戻った?」
美鈴が跳んで足の状態を調べる。
「嘘?完全に治ってる」
美鈴が驚く。
「これは凄いな。今後どうするかが問題だな」
一新が、自分の姿を見て考える。何しろ女性になってしまって偽装の魔法で山田一新に戻れるが、仮の体である。
「全部の話をまとめると、プレイヤーは、各個人で僅かなオカルト的なサイキックパワーを持っていて、【景】が、その僅かな力を全て集めて本当に現実に影響を及ぼすほどの力を使えるようになってしまったが、一新さんがプログラムをいじった為に全てのエネルギーが一新さんに集まって、まさにゲーム中のツヌグイさんになってしまったと言う事かしら?」
美奈子が、話をまとめてくれる。
「そういう事なのね?」
美鈴が納得していた。
「付け加えるなら、それを利用して仮想空間から現実に出てこようとしたイクグイだったが、パワーの制御と統一が出来ず進展がなかったが、私が社長を意識したら突然、可能になったと言うところか?」
「そうじゃな。あと社長になったのは、鈴木が社長をするのが面倒なので、私に全てのビックス社の処理を丸投げしただけじゃよ」
「結局、黒幕は鈴木副社長ってことですね?」
「かかか、正解じゃ」
笑顔でイクグイがツヌグイを見つめる




