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すれ違う二人

「ちょっとまって、もう少しで補助魔法切れるので、再度かけなおします」

「ん、大丈夫ですよ」


17階に上がると、情報通りランダムになったようで、首なしブラックドラゴンナイトではなく、デスデーモンが1匹待機していた。


シュー!

ザク!


一瞬で間合いを詰めて、斬馬刀で首を落とす。

踏み込みがありえない力と速度だった為か、ソヌグイが走った床に足がめり込んだ足跡が残る。

デスデーモンが消えて、デーモンリングがドロップする。


「え??なに!?何もしてないのにレベル上がっちゃた」

PT(パーティ)ボーナスで、何もしなくても2割の経験値が入ったシリウスが、驚く。


デスデーモンは、推定レベル130であり、高い再生能力があり、通常は再生力を下げる補助魔法をかけて回復速度を上回る攻撃をしていく結構厄介なモンスターであったが、ツヌグイの場合は、1撃であったので回復は無意味であった。


「ツヌグイさん!リアルパワーも凄いでしょ!!そのステータスで、その動き、ありえないんだけど!」


シリウスは、パーティを組んだ際に相手ステータスを見ることが出来るので確認しながら、ツヌグイのステータスが普通なのに強い事を、アイテムとリアルの運動神経だと勘違いする。

その為、美人のツヌグイに、ますます会いたくなっていた。

ツヌグイは、チートでステータスを上げているだけでアイテムもゴミだしリアルも運動神経が無いので、ますます絶対に会えない気分になっていて、改造したアヴァターにした事を後悔していた。


ドロップしたデーモンリングは、レアアイテムで5個の追加効果が付いていた。


全属性レジスト5%

HP吸収9%

全スキル1

体力500

アイテム発見率2%


ツヌグイが、拾ったがシリウスに渡した。

「え?これ凄い!スキルアップと吸収が付いてる!超級アイテムじゃない!」

「あげますよ」

「流石、アイテムマイスター!もっと凄い装備してるって事ね。もしかして、アイテムディスガイスしてるでしょ!」


アイテムディスガイスとは装備偽装で、実際装備している物が他人からランダムに見える偽装魔法である。


「そ、そうですよ」

適当に話を合わせるツヌグイに対して、こんなアイテムを揉めずに簡単にくれるツヌグイに対して尊敬まで抱くシリウスであった。


「じゃぁ18階行きますか」

デスデーモンを倒した際に出た階段を目指して移動する。


18階に上がると、ブラックドラゴンナイトが10体ほど、両手剣を持って待機していた。


「あら!首なしじゃないわね。首があると盾じゃなくて剣がドロップアイテムよ」

話しながら、斬りかかっていくシリウスであった。


ブラックドラゴンナイトは、身長190cmの両手剣を持った黒いフルプレートのモンスターで、顔がワニっぽいドラゴン顔で稀に吐息(ブレス)を吐く。

ドロップアイテムは、手に持っている両手剣である。


ツヌグイは、画面に初心者補助(チュートリアル)を出して、自分が使用可能な、補助魔法を探して、シリウスに詠唱した。

「シールドマジック」

「シールドショック」

「ストレングスブースト」

「ディフェンスブースト」

「マジックコクーン」

「デスソードアタックエンチャント」

「ブラックソード」

「シャドウムーブ」

「クリアランスアタック」

「レベルブースト」

「ミラーリングシャドウ」

37個詠唱して、種類が尽きた。


支援補助魔法は278種類あるが、黒魔術師が使えるのは37個である。

しかも全て特殊技能(スキル)レベル10のmaxだったため、効果が重複してシリウスが、数倍の強さになる。

重複して効果が出ている為シリウスが7色の虹のようになっていた。


7色のシリウスとブラックドラゴンナイトとのダンスが始まった。


「綺麗だ...」

ツヌグイがシリウスの戦闘の美しさに感動する以上にシリウスは感動していた。


美鈴(シリウス)は、現実(リアル)で病気だった為もあり、1番このゲームをやり込んでいる自負があった。

個人戦も最強であったが、それが井の中の蛙と思ってしまうほどにツヌグイの存在に驚いていた。

強い為にネットアイドルとして、人気者になって、テレビに出たりギルドで威張っていたが、隠れてツヌグイのようなプレイヤーがいた事で、自分がちっぽけな存在に感じてしまった。


「ツヌグイさん!最高!!今までこんな速度で、こんな攻撃力で、こんな安心して、モンスターと戦った事ないわ!」

最後の一体に、両手に持った2本の剣を刺して、叫ぶ。


「いえいえ、シリウスが強いんですよ。19階に行きますか?」

「いくいく!!」


そして二人は、順調にツヌグイの無双とシリウスの無双で物凄い速度で、47階までやってきた。

「ツヌグイさんとやってると、5割ぐらいアイテム落ちるんだけど、発見率上昇効果(ファウンドアイテム)の装備してませんか?」

「し、してますよ」

「やっぱり!ツヌグイさん凄すぎてもう信じられない!」


もちろん装備してないが、シリウスの勘違いがドンドン膨れ上がっていく。

本当は、ツヌグイが遠慮してシリウスとちょうど半分になるように、モンスターを狩っているので50%に見えるだけだった。

それに対して、ツヌグイの罪悪感はドンドン膨れ上がっていく。


「実は、このダンジョンの自己ベストが39階だったので更新中です。ソヌグイさんありがとう」


突然抱きつかれた。

感触がリアルで驚くツヌグイであった。

ドキドキしながら、内心はガッツポーズをしていた。

だが、女性からモテた経験がないので対応には困る。


「天空の黄昏って何階まであるんですか?」

「公式サイトだと、300階以上って書かれていたよ」


マップハックの表示でリアル時間をみると昼をまわっていた。

「現実で12:45ぐらいなので1度ご飯食べてから、また来ませんか?」

「午後も付き合ってくれるの!食べてくる!時間見るアイテムも持ってるの?」

「じゃぁ2:00ぐらいに、ここにログインでお願いします」

「わかったわ!絶対来てよ」


上機嫌でシリウスがログアウトして姿が消える。

ツヌグイもログアウトする。


戻ると毛布にくるまった一新の身体があった。

「今回は、寒くないや」

ヘッドギアを外して筐体から体を起こす。

何か違和感を感じる一新だった。

「痩せた?」

いつも出てるお腹が少し凹んで、手足も細くなった気がした。

「ゲームで動いてるとこっちでも動いで運動して痩せて来てるのかな?」


ゲーム中の自分の体は見えないので、微妙に動いているんじゃないかと考えて納得する。


データセンターを出て、駅前のうどん屋さんに入る。

よく見る店員のおばさんが、話しかけてくる。

「あら、少し痩せた?」

「良い健康器具を最近買ったので、運動してるんですよ」

たわいもない話だが、いつもなら返事もできなかったのに、すぐに答えた自分にびっくりする一新であった。


これもVMGの影響かな?心で思いながら良い方向の変化なのであまり気にしなかった。

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