待ち合わせの約束
トスラの街に一新が戻ると、神殿が騒がしい状態になっていた。
当事者であるのだが、知らないツヌグイは、ログアウトする。
サーバー室の個室で目を冷ますと、風邪を引きそうなぐらい体温が下がっていた。
「さっみぃ!家帰って銭湯に行こう」
既に夜になっていたので、急いで帰り支度をする。
サーバー室は、コンピュータから出る熱を抑えるために常に空調システムが動いている。
ビックスサーバーがある場所は、常に気温15℃に設定されているので、次回は厚着して来ようと思う一新であった。
朝に計算した未来予測と今日の行動を確認するため結果を携帯電話に送信して、メールを削除する。
データセンターは、24時間稼働しているので、特にゲートも変わらずに正面から退勤する。
内容を比較すると、自分のアヴァターが女性であると気がついてからの行動と未来予測に誤差が発生している。
「初期の自分の価値観や性格が、変動しない状態での未来予測という事か?」
自分以外の人の行動は、予測演算で変化や変動も含んでいたが、自分は、不変な物と計算に入れていなかった。
自分の行動の正確なログを取得して演算に組み込んで、自分の変化率も計算に入れないと精度が上がらないと考える一新であった。
家に着いて、銭湯の準備をして銭湯を目指す。
銭湯へ行く道のりで、ゲーム中に見た事がある顔があった。
近所付き合いや、出会いがなくなってきた世の中で、話しかけるきっかけになるし、リアルとゲームでアヴァターが一緒だと結構メリットがあるのかもしれないと考える一新だった。
次の日の朝6:00に目がさめる。
寝ぼけなが鏡を見ると少し痩せたようだが、いつも着るヨレヨレの背広がきつい。
「見かけは痩せたが、実際は太った?」
自分の身体に違和感があったが、気にしないでデータセンターを目指す。
データセンターに着くと、警備室に行って仮眠用の毛布を借りてくる。
「これで、バッチリだな」
VMGの筐体に毛布をセッティングする。
8:00まで、時間があったので【江藤 美鈴】を調べる事にした。
VMGゲームの【シウテクトリ】の現役高校生のプレイヤーで、可愛いので大人気。【王様の盃】のギルドマスターでベーターテスト時から、ゲームに参加しており超級アイテムを多数持っていて、月1回行われる、個人戦の闘技場大会で9連覇中の最強プレイヤーと言われているようだ。
彼女とプロジェクトの【シウテクトリ】との接点が見えない。
美奈子を問い詰めるしかないのかな?
【景】の処理速度の秘密を知るために、動いている一新だったが、全てのピースを集める迄に至っていない。
8:00と同時に、美奈子がいる執務室のモニターとインターフォンを乗っ取り画面越しで美奈子を見る。
執務室の机の前で美奈子がうろうろしていた。
「おはよう、ございます!」
2回目だが画面越しだと、美奈子に挨拶できる自分に少し感動をおぼえる一新だった。
「おはようございます。ツヌグイ様」
「様は辞めましょう」
「ツヌグイさーん?」
「今日は、何をすれば良いですか?」
「ツヌグイさん、昨日【シウテクトリ】をプレイしてませんでした?」
「え?」
「ツヌグイと言う名前のプレイヤーがいたので、確認したくて」
一新は、あまり嘘はつけない性格だった。
「興味があって昨日から始めました」
「キャアァァァ」
「どうしました!?」
「どうも、こうも、ゲームで出会えるじゃないですか!」
「でも、今と変わらないかと思いますが?」
美奈子は、一新の外見に興味もあったのだったが、一新は、所詮、仮想空間なので、たいして気にもしていなかった。
「プロジェクトの仕事の話ですが、【シウテクトリ】をプレイして、感想をレポートに上げてくれれば、いいですよ」
「それって仕事ですか?」
「ゲーム内で直接会ったら話しますよ。ちゃんと仕事になってますよ」
「今日の夜に【王様の盃】で攻城戦があるので、その時にでも会いませんか?」
「何時ぐらいですか?」
「20:00丁度に開始で、21:00で終了します」
一新は、悩んだ。
風呂なしアパートなので、銭湯がやってる時間に帰れない。
綺麗好きではないが、こういう事だけは、こだわりがあった。
「もう少し早く会う事が出来ませんか?」
「では、2時間後ほどに会えますか?」
「可能です」
「お!お、お会い出来るんですね。場所は【ロディニア城】入り口でどうでしょう?」
「わかりました。では2時間後で」
話がまとまると、美奈子がモニターの向こうで、急いで準備しているのが見える。
一新は、データセンターでの昨晩の事を思い出す。
「美奈子さん?VMGの装置は何処にあるんですか?」
「キャァ!まだ居たんですね」
「す、すみません」
「ツヌグイさんなら構わないんですよ!」
慌てて一新を引き止める。
「社外秘ですけど、仕事で使用してるので、お台場のデータセンターの中にあるんですよ」
「仕事なんですね?あとで詳細は、うかがいますね」
「はい!」
一新が予想した通りに、今いる場所の1フロア下にある事がわかった。
一新も急いで、昨日に必要性を感じた【マップハック】のツールを1時間かけて作りだす。
現実の時間表示もゲーム中に必要なので付加機能で追加した。
常駐アプリで起動したまま、頭にかぶるギアを改造して準備する。
【シウテクトリ】にログインする。
トスラの街に現れた。
急いで防具屋に行き1番高いローブを3着ほどと、目の部分に穴が空いた白い仮面を3個ほど購入する。
「これで耐久度で壊れても着替えがある」
装備し直して、武器の斬馬剣を見ると耐久度が、だいぶ低くなっていたので、武器屋で売却して同じ武器も3本ほど購入する。
投げナイフも999本程購入する。
同一のアイテムの持てる量は、上限が999個のようだ。
アイテム欄は、無制限だが、重量制限がある。
制限を超えると動きが緩慢になり2倍でその場から動けなくなるシステムだ。
重量制限は、STR(力)とVIT(体力)を計算して出される数値だが、ツヌグイは、カンスト(9999)なので、ほぼ無制限と言える。
転移門も欲しいので、道具屋に入るとNPCではなく、プレイヤーがバイトしていた。
「転移門が、欲しいんですが?」
「ここだと、3種類売ってるよ。
モクラの街、メツナスの街、トスラの街だよ」
「3種類を10個ください」
「お!運び屋か何かかい?お買い上げありがとうございます」
転移門は、結構、高価なのであまり買うと怪しまれると思い数を抑えた。
NPCの時に999個買おうと思うツヌグイだった。
マップハックツール起動しているので、街の中に誰がいるか、街の地形がどうなってるかが、全て表示出来る。
「これは便利だな、さて【ロディニア城】には、どうやっていくかな?」
全体マップを表示して調べると、【ロディニア城】がのっていた。
「イベントに使用する場所だから載っていて当たり前か?歩いて1時間でつけるのだろうか?」
街から出て【ロディニア城】を目指すツヌグイであった。




