ミナモトの初恋
一新は、【深き沼の叡智】ダンジョンの21階に戻った。
「さて、一気に降りていこう!」
今日中に最下層まで行こうと思っているツヌグイであった。
バッタバッタとモンスターを大剣で斬り伏せて、最下層を目指す。
問題は、地形を知らないので、迷わないと、すぐ下に行けるが、迷うと全部の地形をまわってから下に行ける感じだ。
全ての敵が一撃の為に、どれが、その階層ボスか全くわからないで進んでいく。
「ログアウトしたら、【マップハック】のツール作って地図を見ながら攻略出来るようにしよう」
【マップハック】とは、ゲーム中に送られて来るメモリー上のマップ情報を視覚化して見るツールで、迷わないし何処に誰がいるかすぐわかる、邪道ツールである。
今まで、ツヌグイが他のゲームでも愛用していた便利ツールの一つであった。
何処までもチートキャラのツヌグイだった。
49階でサイクロプスを倒している時に、異変は発生した。
突然、敵が全くいなくなったのだ。
「何事だ?全然敵が出なくなったぞ?」
周囲を見渡しとちょうど目の前に50階に行く為の階段が見える
疑問を感じながら、50階への降りると、マップを埋め尽くしているモンスターの集団に会う。
「なんだ?密度凄すぎマップが見えない。ここに集まったってことかな?」
満員電車のようにモンスターが50階の入り口に詰まっていて、モンスターも身動き出来なくなっている。
「バグか?」
自分の事を棚に上げて、大剣片手に斬りまくる。
10分ほど斬りまくると、ほとんどの敵が消えてアイテムが地面を埋め尽くしていく。
「幸運値が9999(マックス)だから、こんなにドロップするのかな?」
ツヌグイが倒すと大体がアイテムをドロップする。
本来は、多くても10%未満なのだが、ドロップ率の計算には、幸運値が含まれる為に、ツヌグイのモンスターに対するドロップ率は、99%を超えてしまっていた。
全長10mほどの赤龍が襲ってきたので、首を切り落とすとメッセージが流れる。
『ダンジョンマスターが更新されました
【深き沼の叡智】のダンジョンマスターは、ツヌグイです』
目の前にダンジョンマスター用の操作ウインドが開く。
さまざまな情報が表示されていた。
「おおお!!ここが最下層だったのか。50階にいるのは、私だけか。
49階にミナモトって、人がいる。
モンスター配置もいじれるのか?
倒されたモンスターのGの1%がダンジョンマスターに入る仕組みなのね。」
色々試すツヌグイであったが、50階に49階にいたミナモトと言うキャラが入って来るのが見えた。
「マズイ!」
急いで50階の奥に引っ込む。
背後で、ミナモトが落ちているアイテム群を見て「何故!拾わない!!!!」と叫んでいるのが聞こえる。
目標達成したのでダンジョンから出たいが、転移門を持っていないツヌグイであった。
街で転移門を買っとけば、よかったと後悔する一新。
なるべく、他のプレイヤー(ミナモト)には、会いたくなかった。
さて、どうするか?
1.PKで排除する。
2.モンスター配置を変えてMPKで排除する。
3.敏捷が9999(マックス)なので、風の様に駆け抜ける。
ツヌグイは、3を選択しようと考えた。
ミナモトが、ドロップアイテムに気が引かれて、散策している。
49階への階段がミナモトの死角になった瞬間を狙って一気に駆け抜ける。
出発した場所の地面が、ツヌグイの足の踏み付けの力で陥没し、土煙あげながら上への階段を目指す。
しかし、数値が高いと言っても、操作するのは、運動神経が良いとは言えない一新であったために、行動の速さと思考が合わずに、右足に左足を引っかけて、すっころぶ。
「うあああぁぁ!」
叫びながら、今までの加速のために顔面から地面を滑走しながら階段に激突する。
滑走で、モンスターにダメージを与えられていなかった装備品の耐久値が一気に下がりぶっ壊れる。
高級ローブと白い仮面が、壊れてしまった。
叫び声が聞こえたので振り向くと、ものすごい速度で顔面から滑走して49階への階段に激突するプレイヤーがいた。
「ステータススキャン!ん?lv82でステータスも、ごく普通だな。」
ミナモトの目の前に、ゲームサーバー自体で偽装されたLV82状態の標準的なツヌグイのステータスが表示される。
キャラネームを見て驚く!
「お前が、ツヌグイか!F? 女だったのか!だからあいつら、あんな反応してたのか!」
ギルドメンバーの気持ち悪い行動に、納得がいったミナモトであった。
そして、立ち上がるツヌグイを見た瞬間にミナモトは、我を忘れてしまった。
装備が破壊してしまったために装備品が消えてしまい、下着姿の背中に大剣を背負った絶世の美女が、階段に刺さった頭を抜いて立ち上がってミナモトを見つめる。
「こ!こんにちわ!今日はどうされました?」
あまりに、衝撃的だったので、ミナモトの第一声がこれであった。
ミナモトは、緊張のあまり、既にツヌグイしか見えていない。
ツヌグイは、落ち着いていたが、自分が裸同然なのに気が付いて、急いでアイテムボックスに入っていた初期装備のローブを装備する。
初期装備は、耐久度が無限で破壊不可だから、私の装備は、初期装備がよさそうだなと思いながらミナモトの対応を考える。
「街に戻りたいのだが、転移門のようなアイテムを用意してこなかった。持ってますか?」
「ありますよ!渡すのでPT組んでください」
ダンジョン内のアイテムの受け渡しは、同一ギルドかパーティを組まないとできなくなっていた。
早速組んで、アイテムをもらう。
一新は、無料でもらうのも悪いと思い、一言いって転移門を開いて街へ帰る。
「そこらへんの、アイテム全部もらってください。お礼です」
一新が転移門へ入ると向こう側から閉じられる。
放心していた、ミナモトが我に返る。思わず見とれてしまって、今までの経緯や状況を聞くのをすっかり忘れて別れてしまった。その事に気が付いた瞬間、自分のおかしさに気が付く。
「やばい、何もかもどうでもいい。ツヌグイさんに会うだけでめちゃくちゃ幸せだった。声を聴いてたら天国に行ったかと思った。これが恋ってやつなのか?」
目の前に、倒した人しか1時間は取れない、【真紅のバスターソード】が落ちていた。
手に取ると、装備できた。
ツヌグイとPTを組んだため、すべてのツヌグイが出現させたドロップアイテムが回収可能になっていた。
「やっぱり、あのステータスで、この場所をソロクリアしたのがツヌグイさんか?装備任せで攻略したから裸だったのかな?」
下着姿を思い返して、鼻血がでる。
【シウテクトリ】では、過剰に興奮した時と顔面に大きなダメージを受けると鼻血エフェクトがでる。
どうやって、自分のギルドに誘うのか?どうやってリアル情報をゲットできるか?のみが頭を駆け回り、ほかの事はすべてどうでもよくなっているミナモトであった。