燃える徘徊老人
もともとプロットに人物だけ書いたやつなんですが、予約投稿で長いこと放置してたら投稿されてしまったのでとりあえず本編置いてきますね。
異能のある世界。魔物の脅威だけでなく、異能は様々な所で運用・悪用をされる。
これに対応するため国家は異能者だけで構成された軍、『対異能特別部隊』を設立。各地に駐屯所を配置した。
各駐屯所は異能の応用力の広さにより平時は便利屋のように一般市民に親しまれていた。
しかし、現在A市周辺の駐屯所の異能者全てが『特級異能災害警報』と呼ばれる、異能が原因で発生した災害に対応するため本来の役割を全うしていた。
対異能特別部隊の退院達が慌ただしく駆け回る。A市中心部から15kmほど離れた森林部で原因不明の火災が発生したためである。
火災の中心部によるほど炎が通常の火災と比べ明らかに炎の温度が高いこと、その温度の高い炎は広範囲に燃え広がらず一定の範囲内でだけで燃えていること、さらにその一定の範囲が徐々に街に近づいていることなどから異能によるものと判断され、その危険性から30万人以上の被害が出る可能性がある場合にのみ発令される最大級の危険度を知らせる『特級異能災害警報』が発令されたためである。
「第1部隊より本部へ報告!現在A市の住民の4割を避難完了、転移系異能者により順調に避難は進んでいます。」
特級異能災害警報が発令されたことにより付近の住民の避難が進められる。
「第5部隊より本部へ報告!水系異能者による鎮火に失敗!直接の鎮火は不可能、周囲の飛び火したと思われる場所の鎮火が精一杯です!!」
その火災の圧倒的な熱量は消防車を遥かに越える水系異能者達による滝のような放水すら一瞬で蒸発させる。
「第8部隊より本部へ報告!飛行系異能者による偵察は上昇気流と、熱により不可能とのことです!!」
その炎の熱量と、それにより産み出された気流の変化により空を飛ぶことはできない。
「第11部隊より本部へ報告!炎熱系異能者3名が中心部への接近を試みるも2名が火傷により重症、接近を諦めます!」
炎や熱の扱いに長けた者達すら中心部に近寄ることはできず、もはや原因を突き止めるとこすら不可能に思われた、その時
「本部より全部隊に連絡。火災の原因は炭野明紀、83歳の男性、好物はバナナ、嫌いな食べ物は最初に食べるタイプで野球よりサッカーが好き、最近は友人の風間さんと将棋を指していることが多い。繰り返す……」
各部隊からの情報を統括していた本部から余計な情報と共に今回の原因が告げられる。
それは教科書にも乗っているような炎熱系異能者最強の英雄の名前だった。
「本部より連絡。彼が現在生活する特別養護異能老人ホームから連絡があった、今回の原因は施設の耐熱壁すら溶かす彼の能力と認知症による徘徊、能力の使用は無意識である可能性が高く、今向かっている職員が対応するらしい。第5から第7の消火に関わる部隊以外全部隊は撤退、第5から第7部隊は飛び火の対応だけ行え」
これだけの大騒ぎを起こしておいて結論を言ってしまえばただの老人の徘徊である。なんとも気の抜ける話であった。
「すみません、A市特別養護異能老人ホーム職員の大形です。この度はご迷惑をお掛けしました。」
正直な話、迷惑という規模の話ではなかったのだがそれを口に出せるものはいない。
それもそのはず、今回の騒動に巻き込まれ、街を守ろうと行った必死になった自分達の努力が遅れてやってきた職員の『広範囲に声を届かせる』という異能の「炭野さーん、もうすぐご飯の時間ですよー」で解決してしまったため、疲れだけが残っているのだ。
「本当にすみませんでした。燃えてしまった森林部もこちらで直しておきますので。」
ぺこぺこと本当に申し訳なさそうに大形は頭を下げるがそういうことではないと隊員達の心は1つになっていた。
その日、A市の飲み屋街では昼間から浴びるように酒を飲む異能者の姿が多く見られたという。