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ノルンの足枷  作者: Ainia
7/7

ACT.7 獅子奮迅

さて、7回目の更新となりましたノルンの足枷。

ずいぶんとお待たせいたしました^^;

もっと早くに終了するはずだったのですが、諸々の事情というやつで一ヶ月以上も遅れてしまいましたorz

今回の更新で、2〜3章部分の一人称を三人称へと変更し、それに伴って箇所々々の文章が変更いたしましたがストーリーには変更ないのでご安心ください^^

ではでは「ACT.7 獅子奮迅」をどうぞ♪

 彼があなたを怒るのは、あなたが林檎を食べたからじゃない。

 

 彼があなたを助けるのは、あなたが罪を背負っているからじゃない。

 

 彼があなたを選んだのは、ただの興味本意ではなかったのだから。


    Milshelc Ainia



 鮮血の月が不気味に浮かぶ。星雲よりも一層映えて、いつもと違った表情を見せる満月。

 御上公園。約一ヶ月前には此処で人外による戦闘が行われ、辺り一面を惨場へと変えた。

 今そこに再び二人の影が浮かぶ。争いの当事者である藤崎悠志とその争いによって視力を失った笠音愛。

 愛は鏡界(アニマ=アニムス)に入るに足る器を身につけ、正式なパートナーとなって悠志の横に立っていた。

 両目の瞼には縫い止められるようにして細長い鉄の糸が這う。彼女たっての希望であり、それが彼女に大きな力を齎した。

 自分は目が見えない。それを認め、心に刻む事で彼女は宝礼(ジニア)として生きる術"ジン"を受け入れる器を手に入れた。

「この一ヶ月、長かったようで短かったよね」

 陽気に口を開く女性のは、黒を基調にしたスレンダーなワンピースに身を包み、目の前に開いた天廟の方向へと顔を向ける。

「もう一ヶ月か……早いもんだな」

 愛の手を取り、天廟を見つめる。

「さあ行こっか。私たちの関係を深めるために」

 おどけて見せる女性の顔は満面の笑みで、一瞬顔をしかめた悠志も直ぐに微笑んで愛を見つめる。

「あぁ、そうだな」

 悠志の紡いだ予想外の言葉に表情を一変させてエッと驚く愛。かと思うと次の瞬間には悠志の右腕に思いきりしがみついた。

「藤崎くん、だーい好き」

 空には鮮血の月が浮かび、二人の旅立ちを温かく見守っていた。


 静寂。無機質な空間にコツコツと床を叩く音だけが静かに響く。

 真っ白な太い石柱が幾本も左右対称に並ぶ。左右に並ぶ石柱の真ん中を陣取るようにして真っ赤な絨毯が敷かれていた。

 ギーッと木が軋むような音を響かせながら巨大な門が開かれる。

 白い甲冑に身を包んだ暮羽薮名。その傍らには布を被せただけのようなローブを着た如月凪咲の姿があった。

 完全に開ききった門の正面に立ち、そこに並ぶ数十もの甲冑に身を包んだ兵士を見て驚嘆する。

「兵号F216C暮羽薮名、只今帰還しました」

 しんと静まり返った空間に暮羽の堂々とした言葉が呼応する。凪咲は正面の玉座に腰をかけた人物を見据える。

背に生えた三対六翼の純白。一切の曇りがない翼には神々しさが見て取れた。

「ご苦労」

 さっと手を払い、暮羽に下がるよう命じる。暮羽は並列する兵士の中に参入した。

同時に横に並んだ兵士が互いの正面に立つ兵士に向けて剣を掲げる。

 最後尾の兵士が二人、凪咲の脇に立って剣を眼前に添え、左手を後ろ腰に据えた。

 左右の兵士は一歩前へと進み、立ち止まる。ガチャガチャと金属が当たったり擦れ合う音が響いた。

 訳も分からないまま凪咲も一歩前へと進むと、続いて二人の兵士も一歩前へと進んで立ち止まった。

 規則的なテンポで玉座に座する人物の数歩手前まで歩く。

 緊張して強張った顔をパッと上げて、そこで自分自身を見つめる天使に視線をやった。

 一時の沈黙。耳鳴りするほど静まりきった空間が、無言の緊張感を与える。

(なれ)が如月凪咲だな?」

「……はい」

 一瞬戸惑って言葉を返す。言葉一つが恐ろしい程に緊張と恐怖感を発する。

「なるほど……では汝が我が元に連れて来られた理由(わけ)を知ってはいるか?」

「いえ、特には聞いておりません」

 宝礼としての器が大きいという事しか知らない凪咲は、誤魔化すでもなく丁寧に応える。

 胸の鼓動はかつて体操部の大舞台に立った時よりも高く大きく高鳴り、声は震えていた。

「率直に言おう」

 再びの静寂。何度訪れても慣れる事はない。ピリピリとした空気に息が詰まる。

「汝は、この聖界を統べる神の候補に選ばれた」

 瞬間、沈黙していた兵士たちがざわつき始める。暮羽自身も真の内容を聞いていなかった為に心底驚いた。

 しかし、それよりも当人である凪咲は、目を見開いて頭の中で木霊する言葉に驚愕していた。

 俗に神官と呼ばれるであろう姿をした者たちが兵士たちのざわつきを鎮める。

「これより決理の儀を始める」

 天使は玉座から立ち上がると、右の掌を反して掌中に点した光を爆発させた。


 視界が光に埋まる。次第に景色がひらけて木柱や畳などの和風な眺望が広がる。

 正面には六翼の天使が手を翳した形で立つ。

「お主が(はじめ)の娘かの?」

 皺枯れた声が丁度真後ろから聞こえる。

 凪咲は慌てて振り返ると、そこには微笑みを浮かべた一人の老人が背の低い椅子に座っていた。

 表情は柔らかく、居心地の良ささえ感じる温かさは、強張った凪咲の体を解した。

「はい」

 老婆の方へと向き直りながら、語調を強くもって返事した。

「うむ。では熾天使(セラフィム)よ、下がってよいぞ」

「御意に」

 老婆の言葉に頭を下げ、三歩足を引く熾天使。左から足を折って正座の形を取った。

 数秒の安閑を過ごし、老婆は口を開く。

「儂の名は"天照大御神(あまてらすおおみかみ)"。皆には大御(だいご)と呼ばれておるからの、そなたもそう呼べばよい」

 古事記に名を連ねる三貴神が一柱。太陽の神と崇められ、高天原を治める女神。

 凪咲はその三貴神の一柱が目の前に存在し、自らと会話を交わしている事に恐れをなした。

「天照……」

 相手のあまりの大きさに口が上手く開かなく、名前だけが喉をついて出る。背後に座した熾天使の存在すらも霞んで、本来の偉大さを物語る後光すら失わせていた。

「儀を……」

 両手を膝の上に乗せ、丁寧に正座する熾天使の姿はどこか違和感を感じさせる。米国人が日本文化に触れている様子に偏見を持つ考え方に近いものだろうか、それともそれ以外の何かがそう感じさせるのかという思考が凪咲の頭の中を渦巻く。

「そうじゃな、皆も待っておろう」

 実際は兵士たちのいる空間と凪咲たちのいる空間では時間の流れるが異なっているため、凪咲たちがこうやって過ごしている間も、兵士たちにとっては一瞬でしかない。

 ゆっくりと閉じた瞼を、またゆっくりと開いて凪咲に焦点を合わせる。

「如月の名を継ぐ者」

 何かを告げようとする天照を前に息を飲む凪咲。白いローブが静かに靡き、ふわっと揺れる。

元禳(げんじょう)白姫(しらひめ)

 色号を載せた名が紡がれ、半秒ほどの沈黙。凪咲にはその名が何を指すのか、何を意味するのかは全く分からない。それでも天照が紡ぎ出す言葉を真剣に聴き入れ、一つひとつを記憶にしていく。

「元禳は神名。白を(しき)とし、姫を俗号とする」

 柔らかな日差しが障子の細かな隙間を縫って、青い香りを漂わせる真新しい畳をほのかに照らす。

 天国、と言われれば確かにそう感じる事さえ出来る空間には、緊張感の蔓延る現在でも常に安閑を匂わせていた。

「選び給えよ、己の行く先を。己が名を」

 凪咲を挟み込むように前方には天照大御神、後方には熾天使が座している。

 兵士たちの待つ宮廷の中では真っすぐに並んだ兵士たちが背筋をピンと伸ばして二人の帰還を待ち侘びる。

 凪咲は自分と相手との格差に怯え、恐れ多さを覚えていた。

「如月凪咲。汝は選ぶ事が出来る」

 不意に動いた熾天使の唇。天照とは違い、絶対的冷徹なイメージを受ける語調は、たった一言で解れていた凪咲の背筋をシャキッと伸ばす。

「色名を授かり、この聖界を統べる神の一柱になるべく修練を積むか――」

 もう何度も息を飲んだ所為か、段々と息苦しくなってくる。心臓は今にも破裂しそうなほど高鳴り、今までにない焦燥感を与えていた。

「色名を放棄し、鏡界に対する記憶とそれに依存する力を失って地球(アース)に引き返すか」

 二者択一。限りなく自分と掛け離れた存在の神となるなどという事は有り得なく、折角手に入れた力と知識を棄て、地球で今までと同じ平穏でマンネリ化した生活を送るのもまた然別であった。

「神となったあかつきには、それ相応の褒美と様々な権利を授けられる」

 安閑な空間に響く鋭い声。

熾天使だということも忘れ、耳を傾けて相手の言葉に聴き入っていた。

「その権利の一つに」

 より一層熾天使の言葉の一言一言を聞き漏らさないように集中する。

「『己が部隊をもって我がものとすべし』という自らの目的の為に適当な人員を操る権利がある」

 自らの目的を遂行すべく、自ら選んだ宝礼を自らの好きなように動かす事の出来る権限。簡単に言えば自分の願いを叶えるためだけに宝礼を働かせる権利である。

「一人の人間を助ける為に体を張った誰かを、自らの管理下に置けるとも言い直せるな」

 意味深に響かせる言葉はいくらか柔らかくなったものの、それでも鋭さを失わない。

 自らの境遇を皮肉に言った熾天使の言葉を、はっきりと確かな形で受け取って、そこに相手の意図する所を感じた。

「わかりました」

 天照に背を向け、熾天使を睨み付ける。

「その色名というものを受け取ります」

 視界に入った兵士たちがざわつくのを感じる。

「それほど容易なものではないぞよ? それ相応の覚悟はあるか?」

「はい」

 間髪空けずに強く応える。瞳孔を大きく見開いて言い放った。

色名を授かる事を承諾した事にざわめくのか、熾天使を睨み付けている事に騒ぐのかは分からない。

 ただ、肝を据えた少女が堂々とした威勢で熾天使に反発しているという雰囲気だけは充分に感じさせていた。


 膝の上に両の掌を乗せた丁寧な正座で座る熾天使が、コクリと首を縦に振る。

 その表情は喜びに富んでおり、先ほどまで目にしていた熾天使とは別人のように感じさせた。

「うむ。多少強引ではあるが、決理の儀もこれで終わりじゃ」

 久しくさえ感じる天照の声。よほど熾天使の言葉に集中していたのか、凪咲の感覚では数秒が数分に、数分が数時間にさえ感じられていた。

 兵士たちの視界からは完全にその姿を消した三人。隔離された空間で穏やかな声が飛び交う。

「元禳白姫」

 早速与えられた名で呼ばれる凪咲。皺枯れた声は依然として安心感を感じさせる。

「そして如月凪咲よ」

 二つの名を手にした違和感がぞわぞわと鳥肌を立たせる。

「お主の決心、感謝する」

 天上の真神が紡ぎ出す言葉は、不思議と凪咲の胸に突き刺さった。

「これで元禳も我と同じ地位に立った事になるな」

 「えっ」という声と共に驚嘆する。熾天使が紡いだ言葉は、凪咲の心を震わせた。

「改めて名乗ろう」

 チクチクと空気が突き刺さるように押し寄せるのが感じられる。

「我が名は"赤帝ウリエル"」

 新たな色名が高らかに響く。

「ウリエルは神名。赤が(しき)、帝は俗号」

 高鳴りする心臓は高揚感で鼓動し、凪咲を奮わせていた。

 互いに向かい合って目の前に座る者同士見つめ合う。

「我と元禳は同格の存在。故に互いの名は神名で呼び合う」

 今までとは違った感情が露となって体をほてらせる。

「ウリエル……さん?」

「そう、そしてお前の神名が元禳だ」

 遥か遠くにさえ感じていた神々しい熾天使を前に、どこか違和感を感じる凪咲。

「それに我ら色名を受けた者は、互いに仲間であり、同時に好敵手でもある」

 好敵手という言葉がどのように作用するのか。そういった不安が凪咲を取り巻く。

「"さん"などというよそよそしさなど捨ててしまえ。どうしてもそう呼びたいのであれば無理にとは言わんがな」

 急に距離を詰めた二人の関係は、種族を通り越して密接に交わろうとしていた。

 ここが聖界(ユートピア)で、今まで過ごして来た世界とは異なった異世界、"鏡界"であることを改めて再認識した。


「でも、どうして私を? そもそも好敵手(ライバル)なんていない方が神様に選ばれる可能性としては高いのでは?」

 会話の脈絡が複雑に絡み合って蛇行する。

「理由もなく色名を授けられる者はおらんよ」

 天照が口を開き、続ける。

「お主には神としての素質とそれに足る器に恵まれ、更には"如月の名"を継ぐ者として色名を授けられるのが当然とも言えるからの」

 如月の名。その語がどのような意味を指すのかは分からない。しかし、そこに重要な何かがあるのは確かだった。

「故にお主は決理の儀を介して色名を授かる事となった。他にも理由はあるのじゃがな……」

 更に続くであろう話に耳を傾ける姿勢を見せる。しかし、それを遮るようにウリエルは言葉を挟んだ。

「大御様、兵たちを待たせております。その折りはこちらで話しますので……」

「そうじゃな、では儂もここいらで席を外すかの」

 首肯して凪咲を見つめる。

「選ぶのはお主じゃよ」

 朗らかな微笑みが老婆の顔に浮かぶ。顔面に幾つも皺を寄せて、温かな雰囲気を醸し出していた。

「いついかなる時も、自分が選んだ道が最善の道じゃて、何も悩まんでええ」

 微かに俯いた凪咲の頭を撫でるように眺め、ゆっくりと視線を落とす。

「理性のままに生きればよいよ」

 満面の笑みを浮かべて、一回り大きく強調して口にした。

 凪咲もハッと顔を上げ、紡がれた言葉を噛み締めて思い切り「はい」と返事した。

 鏡界を知ってから次々に起こった事柄に様々な落ち度を感じていた凪咲は、たったの言葉一つで胸の内に渦巻く靄を掻き消した。


 石膏で塗り固められた壁と石柱が視界を埋め、真ん中を堂々と赤い絨毯が走る。

数段高くなった所には玉座があり、ウリエルはそこに座って肩肘を着いている。

 二、三十の兵士は片膝を着いて、腰にかけていた鞘を眼前に構え、刀身を10センチばかり抜いた形で制止していた。

「元禳白姫」

 ウリエルの目の前で兵士と同じ姿勢を取り、きらびやかな装飾の施された剣と鞘を眼前に構えた。

「聖界に於いて色名を授かりし者」

 形だけの儀式が執り行われる。

兵士諸君はこの儀式こそが決理の儀だと信じて、冷や汗をかきながら真剣に立ち振る舞っていた。

「神名を元禳、色を白とし、俗号を姫とする」

 高らかに謳われるウリエルの声が、凜と響いて宮内に木霊する。

「天照大御神様より授けられし此が名を我が物とし、以後の世を渡る事を誓うか?」

 既に天照の前で決めた事をそれが当然であるかのように紡いでいく。

 返事とほぼ同時にカシャッと音を立てて刀身を鞘に納めた。

「誓います」

 仮初めの儀式は流れるように次々と進み、数分と経たぬ間に終了した。

 本来口外することのない色名を家臣の兵士たちにさえ伝え、自らの色名の隠蔽を謀るウリエル。

凪咲もそれを承諾し、自らの色名を知らしめた。

 そもそも色名の意味を知る事は、色名を授かった者或いはそれ以上の地位に立つ者しか知る権利はなく、凪咲もまたその内容を詳しく教えられていなかった。

故に自分の色名を兵士間でとはいえ周知される事を承諾していた。


 適当な形式をあてた形だけの決理の儀も終わり、凪咲はウリエルと共に宮廷らしき造形をした建築物のだだっ広い廊下を歩く。

「何処に行くんですか?」

 背に生えた六翼が飾りであるかのように、全く翼を羽ばたかせず、浮遊という状態に限りなく近い状態で足も付けずにスーッと廊下を進んでいく。

「黒き豊饒の女神(シュブ=ニグラス)と呼ばれる、鏡界を形成する根源となったもの……だと聞いているが、今からそこへ向かってもらう」

 視線はまっすぐ前を向いて意識だけを凪咲の方へと向けるウリエルとは違い、視線も顔も意識も向けて覗き込むように見つめる凪咲。

「私一人でですか?」

「いや、暮羽に案内させる。面識のある者の方がよかろう?」

 凪咲の纏ったローブが床を擦り、掠れた音が出る。純白の生地は神聖な雰囲気を醸し出しており、決理の儀に於いて凪咲に緊張感を与えた一因でもあった。

 恐らく高価であろうローブを出来るかぎり床に擦らないよう気を配りながら、ウリエルに合わせてゆっくりと進む。

「暮羽さんか……」

「不満か?」

「あ、いえ。あの時約束守ってくれなかったなって思い出しちゃって」

 慣れてきたのか、語調が段々と柔らかくなる。

 初対面の当初と比べれば、天地の差とも言えるほどその差は歴然であった。それでも相応の敬意を払って言葉を選んでいる。

「アレは予想外だったな」

 多少微笑んでいるように見えるウリエルの表情が楽しそうにさえ感じる。

「まさか、あの"暮羽"が我の勅にさえ背くとは……」

「勅?」

 視線は依然前を向いたままで表情が朗らかになったウリエルの横顔を眺めて問いかける。

「我は暮羽に二つの任を与えた」

 自然と相手の言葉に吸い付くように耳を傾ける凪咲。地球では有り得なかった現状に心底から喜びを覚える。

「一つは天照大御神様の勅命でもあり、如月凪咲という少女を我がもとへと連れてくる事」

 詳細な内容とまでは言えないが暮羽薮名が言った言葉。それについて自分以外の人間には手を出さないで欲しいと訴えたが、それも虚しく終わり、事もあろうか藤崎悠志だけでなく笠音愛にまで大怪我をさせてしまった始末。それらいくつもの失態を抱え、汚名を返上すべく神となり、藤崎悠志を自らの支配下へと置く為に決理の儀で決心した。

「そしてもう一つが、新兵の目的を調査するためのテスト」

 藤崎悠志を助け、聖界に導いたのはウリエル本人。しかし、聖界では忠義というものが絶対であり、一部を除いては上下関係に厳しいところでもある。

 その忠義がどれほどのものか、或いはそれ相応の想いがそこにあるかなど、実に判断が難しいシビアな試験である。

「そんな事が……。あ、それじゃ藤崎くんはどうなったんですか?」

 時間が二人の距離を詰めていく。よそよそしさこそ少なからずあれど、次第に相手の調子に溶け込んだ。

「合格だよ。しかも、素質に恵まれた将来有望な新兵だとさ」

 自ら誇らしげに語るウリエルの言葉を耳に、凪咲の胸が高揚感に躍る。

「ホントですかっ」

 思わず声を高らかに上げ、廊下に木霊する声が幾度も響いて余韻を残していく。

「あぁ、その折りは黒き豊饒の女神(シュブ=ニグラス)に向かう際に本人に聞けば良い」

「はい」

 不幸中の幸いというべきか、藤崎に対する報せが凪咲の語調を跳ねさせる。

 目先には扉が開き、外から光が差し込む。

「待たせたか?」

「いえ」

 ウリエルの言葉に即座に反応する暮羽。甲冑を脱いで地球の時のように黒い軽装に身を包んでいた。

「元禳を頼んだぞ。仮にも色名を受けた人間、万が一もないようにな」

「御意」

 短く応えると、身を屈めて凪咲の横についた。片膝を地面に着けて、頭を下げたまま名を紡ぐ。

「兵号F216C暮羽薮名。黒き豊饒の女神(シュブ=ニグラス)までの案内をさせて頂きます」

 引け目のような違和感が凪咲を覆う。目の前で膝を着いた暮羽が、体を丸めて(へりくだ)っていた。


いかがでしたか?(とお決まりの台詞

あまりにも突飛したシチュエーションだと感じた方もいると思いますが、これが私の作風です。

今後もこういういきなり的な表現があると思いますが、今後ともお付き合い頂けたらと思います。

では次章「ACT.8 尊皇攘夷」にてお会いしましょう♪

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