ACT.4 明鏡止水
ようこそ「ACT.4 明鏡止水」へ
皆様もお気づきだと思いますが、サブタイトルが全て四文字熟語であることをお知らせしますw
毎回、その章の雰囲気に合わせた四文字熟語を探すのは中々に難しい事ですが、実は結構楽しく選ばせてもらってます。
今章のように「明鏡止水」とありますが、この語に作者のどのような意味が込められているかを察して頂ければ幸いです♪
では、「ACT.4 明鏡止水」をお楽しみ下さい☆
悪魔と天使がいたとして、あなたはどちらを信じるのかしら。
フフフッ、簡単な事よね。
そう、とても簡単な事よ。
別に誰を信じろだなんて強制的なものじゃないわ。
信じたくなければ信じなければいいの。
そう、この私の言葉さえもね。
Milshelc Ainia
一人の少女が立ち上がり、罵声を浴びせるように大声を上げる。
「凪咲、どうしてっ?」
瞳にはうっすらと涙が滲み、眉間に皺を寄せている。
「もう決めたから」
唖然とした生徒を前にスタスタと足を凪咲の元に運び、怒気を帯びた眼差しで正面から睨みつけた。
「逃げるの?」
凪咲は悲しげな顔をして愛を見つめた。
「違うわ。こうするしかないんだもの」
どうしていいのか分からない教師が呆然と成り行きを見守る。
「こうしないと……」
瞳に溜めた涙を零して、ガクッと崩れ落ちた。
教師はサッと手を差し延べて泣き崩れた少女に応対する。
「何があったのか我々教師は何もしらん」
教師は凪咲の背後に回って身体を支える。
「今朝、教室に乗り込んで来たかと思ったら理由も何も告げずにいきなり学校辞めます、だ」
体勢を立て直しながら深い溜め息を吐く。
「それで、たったそれだけで凪咲の退学を認めたの?」
愛の対象が教師に向けられる。
蒸し暑い教室は静まり返り、愛の声だけが木霊していた。
「またそうやって、止めもせず空くんの時のようにっ」
蝉が鳴き叫ぶ中、「パンッ」と空気が裂ける音がはっきりと響いた。
赤くなった頬を押さえるのは愛。一同は驚きのあまり言葉が出ない。
「空は私とは違う。私なんかとは……」
愛も言葉を失った。
「笠音、お前たちの間に何があったかは知らん」
教師が真面目な顔で語り始めた。
静まり返った教室は、僅かな蒸し暑苦しささえ感じさせない。
「だがな、本気になった人間を前に、その想いを棄てろと言うのは些か無理な話だと思わんか?」
凪咲の瞳が愛の瞳を捉えた。あまりに真っ直ぐに見つめる瞳を前に、愛は自然とのけ反った。
顔向きを変えて、藤崎の方を見る。
「藤崎くん、言ったよね? 理性のままに生きろって」
「ああ」
うっすらと憤りを感じながら少女を睨み付けた。
「だから……」
「これが答えだと?」
ゆっくりと深く頷いた。
重苦しい空気は締め切った教室に蔓延し、言葉を口にする事を許さないかのように、一堂に会した人間の口を封じた。
「分かった……」
そう言って見つめてくる少女の瞳を見つめ返す。
「最後に一つだけいいか?」
力強い視線は相手の瞳を逃さない。ましてや引き付けている。
空気を読んだかのように蝉たちの合唱は一斉に鎮まった。
「どうしてお前は泣いている?」
愛の頬をひっぱたいてからずっと、凪咲の瞳から涙が零れ続けていた。
「嘘……」
思わず頬に流れた涙を拭った。
手についた涙を見て驚く。
「どうしたのかな? ゴミでも入ったかな?」
ハハッと小さく笑って瞼を擦る。充血した瞳がそっと覗いた。
椅子を引く音が響く。しかし、そこには誰も居らず、そこにいる筈の少年は教壇の横に立つ凪咲の左腕を掴んでいた。
「えっ」
教室が騒然とする。
あまりにも速過ぎる藤崎の移動に戸惑い、驚嘆だけが喉をついた。
「行くんだな?」
「大丈夫だって、暮羽さんだっているんだし、危ない旅になんてならないよ」
急に明るくなって言葉を口にしたかと思うと、次の瞬間には驚く程に影がさす。
沈んだ表情は話し掛け難い雰囲気を醸し出していた。
「分かった」
少年はそう言って掴んだ腕を放し、教師に顔を向けた。
「俺も退学します」
「え……あっ、わっ私もです」
驚きに呂律が回らず、噛み噛みに言葉を並べた。
藤崎だけでなく愛までもが退学を申し出るなど、冗談にしか思っていない。
「何を……」
藤崎の瞳は真っ直ぐと突き刺さるように教師の眼を貫いて制した。
「問題なんてない筈だ」
驚嘆の表情を浮かべるのは教師だけではない。凪咲を含め、教室内の生徒は皆唖然としていた。
力強い瞳を前に屈服する教師。重苦しい溜め息を吐いた。自分の立場なども忘れ、意志の薄弱さにも泣き、三人の関係も分からず終いになる。
「分かった」
それでも三人の想いを尊重して喉をついた言葉を紡いだ。意思の強さに諦めた教師は配布用紙の中から一枚の紙を取り出すと、三人の前に提示した。
「退学届だ。これぐらい書いていけ」
そう言って三人の名前を署名させると、奪い取るように紙を引き寄せる。
「貴様らは揃いも揃って馬鹿ばかりだな……」
教室独特の臭いと清淀祭の準備に使う木材の臭い、汗と湿気の混ざり合った混沌とした異臭が締め切られた教室に充満し、蝉の歌声がより一層暑さを増させる。
「この学校には貴様らのような馬鹿はいらん。さっさと何処にでも行け」
手で犬でも追い払うようにサッと振る。
藤崎は教師の背後に言葉を送る。
「世話になったな」
愛が続く。
「今までありがとうございました」
一テンポ遅れて凪咲が続いた。
「亜利栖をよろしくお願いします。皆も今までありがとね」
藤崎が教室から出る。愛と凪咲はひょこっと頭を下げて廊下に出た。
あまりの唐突さに何一つ口に出来なかった生徒と教師の間に重苦しい空気が流れる。
次第に批判するような尖った瞳が教師を睨みつけていく。
教師は呆れたように大きな溜め息を吐くと、三人に署名させた紙を生徒全員が見えるように満遍なく見せ付けた。
凪咲を先頭に三人でより一層大きく響く蝉の声を聞きながら廊下を歩く。
「藤崎くんはともかく愛まで辞める必要があるの?」
俯いたまま悲しそうな素振りを見せる。
「私は藤崎くんに着いていくって決めたから」
「俺はお前の士になる。そう決めた」
びっくりして眼を見開いた凪咲が声を上げようとすると、背後から声が響いてきた。
「藤崎ー」
「如月さーん」
「笠音さんー」
周りのクラスなどお構いなしに大声で廊下に呼応した。
「いつでも戻って来いよ」
「待ってるから」
仕方なさそうに出てきた教師がドアにもたれ掛かって左手を軽く上げて左右に振る。
「帰ってきたらちゃんと説明してもらうからな」
男女の声が入り交じり、風の吹き抜ける廊下に響き渡った。
「うん、帰ったらきっと……」
凪咲は涙でぐちゃぐちゃにした顔を上げて大きく口を開いて言った。
愛は大きく手を振って小さな涙の粒を流し、満面の笑みで別れを告げる。
藤崎は教師の右手に握られた用紙を見て鼻を鳴らした。
「貴様ら馬鹿にも歓迎してくれる場所はあるって事だ。気でも変わったら帰ってこい」
同じく鼻を鳴らす教師が握る紙には"休学届"の文字が大きく印刷されていた。
突風が砂埃を巻き上げる。
グランドに大きく刻まれた「行ってきます」の文字は、風に負ける事なく整然と三人の意思を語る。
「少しだけ安心した」
風に舞うのは砂埃だけにあらず、木々の葉や軽い布地、女性たちの長髪を揺らしていく。
「皆の前で大泣きして、叫んだりして」
長い髪を纏めた体操着の女性は、そこはかとなく感じる焦燥感を覚えながらも視界に広がる景色を堪能する。
「でもやっぱり一番は一人じゃないってことかもしれない」
ラフな黒地のハーフパンツに掛かる首に掛けた長い鉢巻き。
普通に頭に巻くだけでは圧倒的に長すぎる赤いそれは、普段の授業ではまともに着けて来る生徒も居らず、教師も昔から存在する御上高校の歴史ある名残に終止符を打とうと会議に会議を重ねている。
幸い今年度の体育祭を最後に漢気鉢巻きという通称を持った長鉢巻きは廃止される事が決定された。
「私は明日発つ」
点々と雲のかかった空を仰ぐ女性は、目の前で自分を見つめる男女を指差す。
「二人の気持ちも、意思の強さも分かった……でも、邪魔しないで」
女性は肩に掛かった鉢巻きを何度か不規則な長さに折り畳んで握りしめた。
「お願いだから……」
思い切り力を込めて、小さく、それでいて力強く言った。
握られた鉢巻きと一緒に木々にたかる蝉たちが悲鳴を上げた。
「ああ」
(分かってるさ、お前が何の為に何を考えているかなんて……)
毛根から毛端まで綺麗な黒と茶色のグラデーションになった逆立った髪の毛をフワッと浮かせた男性。
主帝と呼ばれる"力持つ者"を表す呼称を得た男性は、優雅に舞う女性の髪に眼を奪われながら、ほのかに香るすっきりとした香水に泥酔した。
「愛はまだだな」
しなやかな筋肉が制服からはみ出た上腕二頭筋に表れている。
「その内、お前にも資格が現れる。それまでこっちで待て」
何も知らない女性に、後で詳しく説明すると付け加えた。
「暮羽さんとの約束があるからそろそろ行くね」
凪咲は手を振って大きく距離をとった。
愛も同じように手を振って、姿が見えなくなるまで見送った。
「愛はどうして俺の後を追う?」
「知れたこと」
何故か普段とは違う喋り方をする愛。
「好きだからに決まってるじゃん」
次に言葉を口にした時にはいつもの口調に戻っていた。
「シンプルでいいな。俺もそう、凪咲が好きだ」
「うん、分かってる」
傍目にも混沌とした関係に思わせる会話を、清々しく交差させる。
そして凪咲は風守空を求めていた。
まったく信じられない事が起こるものだと、常世の不思議な現象に歓心しつつも暮羽の待つ東山丘に向かう凪咲。
「早いな、いや遅かったと言うべきか?」
初対面の時とは全く違った人の容姿で丘に座り込んでいた。
「今日は人間型なんだ」
「ああ、アニマ=アニムスと同様の姿だとこの世界は混乱を招きかねんからな」
そう言って胸元から青いパッケージの箱を取り出すと、その箱の中から煙草を一本取り出して口にくわえた。
スタンガンより少しばかり大人しい音が暮羽の手元で鳴ったかと思うと、ボッと音を立てて瞬間的に火が灯った。
「ふふっ」
暮羽は疑問を表情に浮かべた。
「アニマの姿で耽ってるのを思い浮かべちゃって……」
鼻を鳴らす暮羽が仕舞った箱をもう一度取り出す。
「お前も吸うか?」
首を小さく横に振った。
「私はいいよ、煙草とお酒はやらないの」
「そうか」
簡単に会話を交わすと、空を仰いで流れる雲を眺めた。
風に髪が靡き、言葉を運ぶ。
「あの男は納得したのか?」
低く重みのある渋い声で響いた。
煙草は既にフィルターの寸前まで灰になっている。
殆どが灰と化した煙草は、暮羽の手の中で火花を散らして風に散った。
「たぶん、駄目だと思う」
「やはりか……」
瞳に紫電を走らせて言った。
身体中をバチッという音と共に駆け巡る。
「俺は伝えた」
重い頭を持ち上げて、徐に首を縦に振った。
「分かってる、でも……」
暮羽は腰を浮かせて立ち上がった。
風が吹くと共に丘に生える草木が薙ぎ、暮羽の一つに纏めた長髪が揺らぐ。
「俺は熾天使様に忠実だ。可能な限りお前の望みを叶えろとは言われている」
視線を凪咲にやって指をパチンと鳴らす。
途端に周囲の風が凪咲を中心に巻いた。
「だがな、奴が交戦を求めてくるのであれば、俺もそれに応え、騎士の教えに従う」
鳴らした右手を左肩から思い切り右に薙ぐと、弾けるように凪咲の足元の草が根本から跳ね上がった。
「如月凪咲」
鳥の地鳴きが集まってくる。
周囲で木霊する鳴き声は次第に数を増やし、重なり合い、重く大きく響き渡る。
刹那、凪咲を中心に空気の層が外側へと弾けた。
蛇行する草木の波。亀裂のような線で、凪咲の足元から円を象って芝生が禿げた。
「お前を熾天使様に献上する。それが我が務め」
一瞬にして静まり返った丘に、暮羽の声が確かな音をもって流れた。
圧倒的な力が凪咲の周りを支配する。藤崎の祝炎とは明らかな格差を感じさせる。
一瞬にして空気が振動し、凍りつくようにして音を消した。
「級の指す意味も戦を交えてみれば自ずと分かろう」
トンネルに入った時や、飛行機の離着陸の時のように、気圧の変化に伴って耳を圧迫する感覚に見舞われる。
身体を熱と共に血液が駆け回った。
「結果は保証せんがな」
AからZまでのアルファベット26階級に分けられ、Aを兵号の最上級とする神の遣い。
後ろの数字は所属と個人の特性を表し、最語尾のアルファベットはそのクラスの熟練度を表す。
兵号Z303Eの藤崎悠志。兵号F216Cの暮羽薮名。
兵号だけ見ても二人の実力の差は歴然だった。
「私が止めます。止めて見せます」
雲一つない空に烏が一羽飛んでいた。
東山丘は御上市の外れにある緑の豊かさが有名な緩やかな傾斜の丘である。
昔こそ落書きや悪戯が絶えない汚れた丘であったが、今日に至っては徹底された管理によって本来の姿を取り戻している。
「期待はしない」
「もしもの時は……」
禿げた地面を気にする事なく紡がれた言葉は、余韻の後で虚空に消えた。
藤崎悠志と笠音愛は、笠音家の愛の部屋で密談していた。
幸い家には二人しか居らず、密談といってもひそひそと喋るものではない。他の者に聞かれない程度のものだった。
「ここでいう器は人としての心の広さとか考え方のものではなく、生まれ持って所持している適性のようなもの」
愛は凪咲には及ばないものの、大した理解力を有している。
毎度と言っていいほど、考査結果の学年順位は凪咲がトップ。愛がベスト5に入っている。
「それじゃ、私にはその器が足りないんだ」
「そういうこと」
愛は自分の胸を押さえた。
花柄の大きなタオルケットを敷いたベッドに腰をかけ、木製の板敷きの上に胡座をかく悠志を見る。
「どうやったら大きくなるのかな?」
悠志は困った顔をして俯いた。
「分からない……」
沈黙が似合わない明るい部屋に、静寂が訪れた。
暫くして悠志が口を開く。
「俺の時も、凪咲の場合もよく分からないんだ」
丸型電灯のほのかな光を浴びながら、沈んだ顔を愛に向けた。
「俺は自覚もないまま突然掠われて、凪咲は気付いた時には許容の器を遥かに凌駕する強大な器を抱いていた」
全ては何らかの現象がきっかけで起きているが、本人が自己でそれに気付くことはない。ユートピアにしろディストピアにしろ、その地の支配者の命を受けて使者が参上し、目標を確実に連れ帰る。
そう告げようと悠志の口が開いた途端、愛がそれを遮って口を開いた。
「来たるべき時を以って、それは来たる……か」
聞き覚えのない言葉に悠志は顔をしかめ、難しそうな顔をする。
「昔ね、凪咲のお父さんが言ってたの」
絵本を読んでもらうのが待ち遠しい子どもの様に次の言葉を待ち侘びる。
「何かが起こるに際して、それは何かしらの強い意志を基に働く」
五月蝿くさえ感じていた蝉の鳴き声がぼやけて、愛の言葉が澄み切った水面に滴る雫のように凜と響いた。
「来たるべき時もまた然り。幾ら構えていようと来たるべき時が来ぬ限りはそれは来ぬってね」
高校に入ってそう日が経たない頃の夕暮れの中、赤く染まった堤防に座り込んだ凪咲の父が立ち尽くして夕日に黄昏れる二人に言い聞かせた。
当初の二人はそこに含まれた内容を容易に解釈し、本質的な偉大な意味を見逃していた。
「今になって分かった」
髪を弄っていた右手とベッドに沿えていた左手を頭の後ろに回して仰向けに倒れ、天井を仰いで凪咲を浮かべた。
「凪ちゃんが今"その時"で、私の"その時"はまだもう少し先なんだって」
悠志は意味深い言葉の数々に沈黙で応え、深慮の末に口を切った。
それは悠然と紡がれる。
「愛……お前は死を覚悟するか?」
全く文脈の掴めない言葉に同様し、返す言葉に躊躇する。
「この世界に生けるが術を必要とするか?」
身体を起こした愛の瞳を凝視する力強い視線。
愛の視界には悠志以外の世界がぼやけていた。
「お前が全てを棄てて、いかなる時も場合も俺の傍で俺を必要とするのであれば……」
高揚した悠志の衝動に駆り立てられ、愛の心臓が大きく鼓動する。
扉を締め切って冷房を効かした小部屋の中、内から来る芯の熱さに圧倒されて汗が滲み出た。
「俺もお前を求めよう」
サッと体中の熱が沸き上がったかと感じた途端に熱は引き、息苦しいまでの悪寒に包まれた。
「いかなる時もお前と共に……」
そっと差し出した悠志の手に、愛は知らず知らずに手を重ね、涙を溜めて優しく口を開いた。
「……はい」
言葉を口にしたと同時に涙が零れ落ちた。
空に掛かった雲が部屋に差し込む光を遮って影を落とした。
凪咲という理想を求めながら、愛という従順な女性を我が身元に置く悠志。
「これを……」
何処からか取り出した浅葱色のネックレスを握りしめた拳を愛に差し出す。
掌を開いた瞬間に光が散らばり、直ぐに落ち着いた。
花冠。淡い浅葱色の光が灯る小さな宝石を基点に六枚の花びらで形作られる金細工。
金属部分が真ん中の宝石の光に反響して全体が浅葱色に染まった。
「これは?」
悠志の差し出した首飾りを受け取りながら、手にしたアクセサリーを広げる。
「弔いの花冠」
火でも灯っているかのように、首飾りの中で光がゆらゆらと揺れる。
影の射した愛の部屋は、幻想的に煌めいた。
「俺の力の一部で、契約の証。身につければ一時的に俺たちと同等の力を得る」
愛の視線は花冠に奪われ、恋焦がれたように心さえ奪われたような感覚に見舞われる。
「俺が持つ唯一の聖具で、主帝の力を従臣に分け与える事の出来る道具」
つまりは悠志の力を愛に分け与え、愛にアニマ=アニムスに従じる力を与える道具。
実際にはマスターの力をそのまま受ける為に、クォーツの潜在能力を引き出せない上、代替制御と呼ばれる制限によってマスターとクォーツが合わさってやっと本来のマスターの実力と同等になるという曲者である。
「いついかなる時もこれを身につける事が俺たちの契約の証」
「……はい」
優しく、それでいて強く応えた。
浅葱色で満たされた部屋は、現実では有り得ない不可思議な現象と想像をそのまま真実として伝えた。
ご愛読ありがとうございます。
次章からついに仮想的な場面が登場します!
お待たせしました(汗
では「ACT.5 奇想天外」でお待ちしています。
see you again♪