危機
諸々挟んで78部ありますが、「本編70話目」です。
描きたいけど、どう表せばいいかわからないというジレンマが……
それはさておき、本編どうぞ
〜土の聖霊皇 side 〜
それは、突然の事だった。
普段通りに日々の仕事であるダンジョン(土の試練)の管理や、眷属たちの陳情を聞き解決するような事をしていた時だった。
【わたしの愛し子達よ!聴こえていますか?あの子に……あの子のところに早く!このままでは……星が危ない!】
頭の中に響き渡るその声は、確かに我が母上の声だった。
「一体何事だ!?あの母上がここまで取り乱すなど……」
ここまできた時、我が頭に一筋の光が差す。
「ま、まさか……」
頼むから、この予感が当たっていないでくれ。そう、切に祈る他なかった。
しかし、この予感が当たっているとなると流石の我でも手に負えないだろう。
故に、事態に対する対処は迅速な連絡を必要とした。
「ノーム!おるか!!」
「はッ!ここに!」
我が呼び声に応じ、目の前へと現れる。
「非常にまずい事態が起こってるやもしれん。緊急で全ての眷属をこの中央神殿へと集めよ!!そしてお前は脚の速いものを率いて火と木の聖霊皇に連絡を通せ!!おそらくは向こうにも届いておるだろう」
「畏まりました!このノーム、必ずや御役目を果たしてご覧に入れましょう!」
ノームは力強く返事を返すと消えるように去る。
だが、これだけでは安心できないな。他の眷属も総動員して事に当たらねば……
我は声に魔力を乗せ、全地中に響き渡らせるように告げた。
【全土の眷属に告ぐ!地上にて非常事態の兆しあり!筆頭眷属はノームを除き我の元へと集え!海中、水中に繋がる門は全て閉じよ!付近の隔壁閉鎖も怠るな!】
告げ終えた我は眷属が集うのを待ちつつ、魔力を用いて地上の監視を行う。
「さて、我も動くか……」
最悪の事態を何としても阻止するためには、全聖霊皇の協力が必要不可欠だ。
しかし、その最中で生まれるだろう余波を防ぐ術は人間達にはない。
ならばどうするか?
答えは簡単、出来る者に頼めば良い。我の眷属も総動員させる。恐らく他2人も同様だろう。
(まさか、親が子に頼らねばならぬ事態が来てしまうとはな……我ながら情けない事だ……)
少し感傷的になりつつも、頼れるだろう我が愛娘のところへと向かうのだった。
〜火の聖霊皇 side 〜
【わたしの愛し子達よ!聴こえていますか?あの子に……あの子のところに早く!このままでは……星が危ない!】
半ば悲鳴にも似た母ちゃんの声に驚き、溶岩の中から飛び起きた自分は、何があったのかを確認すべく神殿へとマグマを払うのも忘れて駆け降りた。
「あ、ああ主人様!どうなさいましたか!?突然飛び起きられて……」
自分を心配して駆け寄ってきたのはアグニだった。いつに無い自分の表情と状態に、動揺しているのがよくわかった。
「ちょっと今説明している時間は無いっス。簡潔に言うんで、全部の眷属を神殿に集めて欲しいっス」
「は、はい!わかりましたわ!」
「ありがとう。どうやらこの星にとって良からぬことが起きようとしている見たいっス。
自分はこれからドラゴン辺りに頼んで他の聖霊皇と連絡を取り合うんで、アグニは眷属達を神殿の結界の中へと避難させて欲しいっス。
寝てる野郎どもを叩き起こして扱き使って事に当たってくださいっス!」
大急ぎでそう伝え、眷属の元へと駆ける。
自分の尋常じゃ無い様子に、驚き何が起こったのかと怯える者もいた。
しかし彼らに構ってはいられない。
おそらく今回の事態、前々より懸念していた"水の"に何かがあったとみて間違い無いだろう。
(これは……少しでも遅れればこの星全ての生命の危機っスね……)
この世界に来て初めてだろう冷や汗を流しながら、眷属の避難と情報収集を行う。
「ドラゴン!火急の用ッス!お前の眷属数人を連れて"土の"と"木の"のところへ飛んで欲しいっス!」
「承知致しました。その他に御用は?」
「ん〜……そっすね、ついでにその他の眷属達に神殿への避難を呼びかけて欲しいっす!」
ドラゴンはその指示に対し、やや大げさに頷くとすぐさま飛び立つ。
それと同時に、目の前に転移してくる魔力を感じた。
「火の聖霊皇様、御無礼は承知ながら御目通り願いたく参りました。土の聖霊皇様より遣わされました。ノームですじゃ」
「おお!ノーム爺、よく来てくれたっス。ノーム爺が来たってことは、土のも同じと考えてもいいんスね?」
正直なところ、ここでノームが来てくれて助かったという思いが大きい。
聖霊皇四柱の中で最も行動力と策謀に優れた土の聖霊皇が動いているという合図があっただけでも、事態がまだ酷くなっていないことを表していた。
「左様ですじゃ。ワシは土の聖霊皇様より、各聖霊皇に御目通りを願い橋渡しをするよう仰せつかっておりますじゃ」
「そうっスか……ん?ならなんで魔力での通信をしないんスかね?」
ノームが来る直前まで自分がしようと思っていたことだったから尚のこと疑問に思った。
「それは簡単なことですじゃ。我らが土の聖霊皇様は此度の異変は水の聖霊皇様の御身に何かがあったと睨まれておりますじゃ。しかし、予想通りであるならば水の聖霊皇様にも連絡の行ってしまう魔力での通信では悟られてしまうのですじゃ」
確かにその通りであった。魔力に指向性を持たせることが出来ないわけでは無いし、ましてや我らは四大元素司る聖霊皇。その程度のことは造作も無い。
しかし、その分感知能力も桁外れに優れているのが聖霊皇だ。誰かが誰かに指向性を持たせた魔力を飛ばしただけでも、その残痕と僅かな余波を自分達は感知してしまえる。
「なるほど。そう言われればそうっスね」
「して、火の聖霊皇様は如何なさるおつもりでしょうか?」
そのノームの言葉に、一瞬考える。
「……ノーム爺、土のはもう動いているんスね?」
「はい、間違いなく。場合によっては地上へ出ることも辞さないと申されておりましたじゃ」
「おし、なら自分が動かない理由はないっスね。自分も下界に出るんで水のの居場所を掴んでおいて欲しいと連絡を頼むっス」
「はっ!しかと承りましたじゃ」
その言葉とともにノームは消えるようにこの場を去った。
「よっし、これで土のとの連絡が取れるっスね〜……あとは、木のか」
現場を確認し終えた自分は、一先ず眷属達を守るために神殿の結界を強固にする。
「あとは、庇護下の人間達のところにも結界を張りに行かないと……」
そう呟くと、自分は自らの体へと変身の魔法をかける。
すると、巨大であった竜の体躯はみるみるうちに縮まる。
凶悪な頭や、何物をも通さず溶岩をも容易く耐える鱗、一振りで森をも薙ぎ払えそうな尾はやがて見事な竜騎士の鱗鎧へと変化していく。
そこには、一人の竜騎士が立っていた。
「さて、アルマちゃんを連れて行きますかね」
竜騎士は、そう独り言ちると神殿を後にした。
〜 木の聖霊皇 side 〜
母の声と共に駆け抜けた、黒く粘着質な悪感はわたしの体を舐め回すかのようにねっとりと這い回ると、そのままこの世界に居座った。
しかしこの気配には覚えがあります。
間違いなく『水の』の気配です。
おそらく、彼はついに呑まれたのでしょう。
他の聖霊皇達も恐らくは勘付いてるはずです。我々聖霊皇は、一般的な人間や動物達に比べれば遥かに高次元の存在。
故に我々の持つ力は膨大で、正しく神にも匹敵します。
しかし、ここに欠点が存在する。
我々の力は大きく分けて2つ。
『生命力』と『魔力』です。そしてこの2つのバランスを取っているのが『精神』と言えます。
無限大と言える『生命力』そして『魔力』を私たちの『精神』は均衡を保ち、尚且つ暴走しない程度に収めているのです。
この『精神』に異常が起これば、たったそれだけで力の均衡が崩れます。
今回の"水の"の身に起こったのはこの均衡が崩れた事による『感情と有り余る力の暴走』でしょう。
このまま放っておくと彼の力一つでこの星など容易く消滅してしまうでしょう。
しかしそれでは『母』の願いを妨げてしまう。優しい母では彼に天罰を下すことも出来ないでしょう。
故に、これを抑えるのが今回の私たちの仕事……と言えますかね?
現状、まだ"火の"も"土の"も動きはしているようですが、神託や御告げを下してはいないようなので、ここは代理で私がやるとしますかね。
【この星に生きる全ての者よ、聴きなさい。私は"木の聖霊皇"あなた方が神と崇める者です。今この星を、"大いなる怒り"が包もうとしています。天は荒れ狂い、海は号哭し、地は凍てつく氷に覆われるでしょう。
……しかし安心なさい、三柱の神々があなた方を護ります。そして必ずや正き運命をもつ勇者が現れ、あなた方を救う事でしょう】
私は御告げを下し終えるとゆっくりと身体を床へと下ろしました。
今回の御告げはこの星全てを範囲にしたので、普段より疲れているのです。
しかし、こうしてばかりもいられません。すぐに私からの神託を聞いた眷属達が私の部屋へと集まりました。
「お母様!今の御告げはなに!?」
先ず来たの眷属で一番精神の幼いエルダーフェアリー。
「落ち着け、フェアリー。そう焦ることはない。母様が護るとまで仰ったのだ」
それを諌めるようにエルダーエルフが後ろから来ましたね。
その他の眷属達も大凡揃ったようです。
それを確認したエルダーエルフが口を開く。
「して、母上。一体何が?」
「あら?ここまで来てわからないあなたでは無いと思ったのだけど?」
「いえ、あくまで確認です」
「そう、なら本題に入るわ。話は簡単、彼が動いたの」
私がそう言うと、眷属達全てが固まる。よく見ればフェアリーなんかは小刻みに身体が震えてますね……
無理もないでしょう。ここにいる眷属全員が、かつての『聖霊皇の本気』を目の当たりにしているのですから。
しかも私の成長を知っている以上、彼も成長していると考えるのは当然。それを相手にしたいとは、土ののところのターロスでも思いはしないでしょう。
「安心なさい。彼は私達が相手するわ。幸い、彼の眷属達は動かないようだからあなた達にはそれを監視してもらえればそれで構わないわよ」
「しかし、それでは母上だけに……!」
「いいのよ、気にしなくて。それに、私だけで相手する訳じゃないわ」
今回、恐らく史上初となる『聖霊皇 対 聖霊皇』が起こる。
これは最早避けられないものと見ていいでしょうね。あの2人は何だかんだと言いつつもやり合う気満々でしょうし、対する彼も引く気は微塵もなさそうですからね。
「……そうですか、すみません母上。出過ぎたことを申しました」
「いいえ、あなたが悪い訳ではないのよ。相手が悪過ぎるわ」
こんな時に考えることではないのだけど、私の眷属はどうにも私の役に立ちたがる。何としてでも、少しでも私の役に立とうとするその様子は狂信者にも見えてしまう。
(まぁ、そんなことは無いんでしょうけどね)
彼らにとっての私は母親同然なのだから。
「さて、私はそろそろ行くわ。あなた達、全眷属に始まりの世界樹への避難を通達して。弱者には手を貸すのよ!」
「「「「はい!母上様!(お母様!)」」」」
ここで、なんとしても彼を留めなくてはいけない。
これ以上、彼と人間との溝が深まればどんな悲惨な未来が訪れることか……
ーー湖は枯れ果て、海は荒れ狂い、川には泥水が流れるでしょう。人々は飲める水を求めるも、あるのはどれも飲めたものでは無い水か、干上がった地面ばかり。ーー
そんな展開が手に取るようわかってしまいます。
(仕方ありません。本当はあの娘にだけはあまり苦労をかけたくはなかったのですけどね……)
あの子なら人知れず余波の処理を出来るでしょうし、二、三合くらいなら打ち合えるかも知れませんね……
私はそう考えると、土のに連絡を取り2人であの子の元へ向かうのでした。
感想お待ちしております。