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俺らはあの日、聖霊皇になった。  作者: スペアリブ
水の聖霊皇編 2
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聖霊皇の娘




「うにゃ?おにーさん、誰?ここはどこ?」


俺の行った召喚魔法。


その光の先にいたのは、ミサと同じくらいの女の子に見える。


しかし、彼女は俺たちとは決定的に違った。


青く神々しい服から覗く手足の一部は蒼い鱗に覆われ、陽の光で輝いて見えるその青く美しい髪からは二本の立派な角が顔をのぞかせていた。

そして極め付けは彼女の腰から生えている『龍の尾』とも呼ぶべきその尻尾だった。


「ここ……陸?おにーさんは、人間?」


彼女の容姿に見惚れていると、彼女は徐々に状況を飲み込めてきたのか少しずつだが質問を始めた。

俺はその声で我に帰ると、なるべく優しく返事を返す。


「そ、そうだよ。ここは陸地だ、そして俺は人間だよ?」

「魔力の残痕……この魔結晶……そしてこの魔法陣……もしかして、おにーさんがルサルカを召喚したのね?」

「ああ、俺が君を召喚したんだよ」


正直なところ、『俺がこの子を召喚した』事に関しては自信がない。魔法陣から発せられた光でよく見えてなかったのと何が起こったのかわからなかったからだ。


「ふーん、そう、ね。……おにーさんの見た目と今の受け答えから、多分意図してルサルカを呼んだんじゃないわね?ついでに言えば、周りの人たちの反応からしてルサルカが誰か分かってる人はいない。……当たってる?」


自分から『ルサルカ』と言ったこの子の推理に対して、静かに頷いて肯定の意を示すと彼女は得意気に笑む。

すると今度はジハッドのおっさんの方を向き別の質問をした。


「そこのドワーフのおじ様たち、一つ質問してもいいかしら?」

「あ、ああ。構わねぇよ嬢ちゃん……」


心なしか、おっかなびっくりしてるような気がするおっさんとゴルドさんがそう返す。


「このあたりからは『土のおじ様』の魔力が強く感じられるわ、そしてドワーフのおじ様たちからは『ノームお爺様』の魔力も感じられるの。多分ここはグレート大陸の中心、『デルシア』っていう人間の王国ね?」

「「なッ!?」」


彼女の言った『土のおじ様』とか『ノームお爺様』が誰かはわからなかったが、ジハッドのおっさんやゴルドさんの表情がその名前がどういったものかを如実に物語っている。


いよいよもって彼女の正体が謎だ。……ここは一つ、攻めに出るしかないだろう。


「それで……申し訳ないけど、ルサルカ。君は一体誰なんだい?」

「あら?レディに名前を聞くならば先ずは自分が名乗るべきだってママから教えられたわ」

「おっと、これは失礼。俺はダイチ・シガ。見ての通り、なりたてホヤホヤの冒険者だよ」

「そう。名乗られたなら名乗り返さなくちゃね?」


そう言って「こほん」と一つ咳払いをした彼女の言葉を、この場の全員が緊張の面持ちで待つ。




そして、その一言はおそらくこの国に来てから最も衝撃的と言えた。






「私の名前は『ルサルカ』。


この星に遍く全ての水を司る『水の聖霊皇』と、その眷属『妖精王ウンディーネ』が娘。


家出をしていたつもりだったのだけど、貴方の召喚に応じ、罷り越したわ。

ルサルカはそこそこ強いつもりだから、足手纏いにはならないはずよ?


というわけで、よろしくお願いするわね?」






その言葉に、その場にいた全員が言葉を失った。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「……で、君は『水の神』……いや、『水の聖霊皇』の娘。というわけなんだね?」

「ええ、その通りよ」


毅然とした態度できっぱりと言い切るルサルカは、何処かイラついているように見えなくもなかった。

だが、それも仕方ないことだろう。俄かには信じられない内容なのだから。


そんな現状でも、一応ということでハウンドさんが確認するように慎重に話す。


「その容姿を見ればわかるから、疑っているわけじゃないんだが……何か証になるものはあるかい?」

「そんな都合のいいものはないわ。……ん〜でもそうね、パパから紹介してもらった私の眷属を見せるのはどう?」

「わかった、それならば大丈夫だろう。だがここじゃダメだ、町外れの街道沿いに広い草原がある。そこへ行こう。」


俺たちは、彼女の提案を快諾する。

そして周囲に邪魔になるものがない町外れの草原に来た。


「よし、ここでなら邪魔になるものもないし危険も無いだろう。……さっそく始めてくれ」

「わかったわ、それじゃあ離れていてちょうだい」


ルサルカの指示に従って俺たちは距離を取る。

俺たちが離れたことを確認したルサルカは、その鈴を転がすような声でまるで歌うように詠唱を始めた。



〈我は水の聖霊皇が娘ルサルカ。我が眷属よ、ここに来たれ〉



詠唱が終わるとともに彼女の足元が光り魔法陣が広がる。

するとその中から吹雪と共に巨大な影が現れる。


「いらっしゃい、ノフ」

「グルゥァアアアア!!!!!」


草原を怒涛の如く駆け抜ける咆哮は、凍てつくような冷気を纏って俺たち全員を覆った。「それ」は実に巨大で実に奇妙な生き物だった。

サイのように立派な二本の角、象を思わせる体躯、そして白熊の如き白毛に覆われた身体には熊のような二対の腕があった。


「んなッ……!?」

「な、なんだコイツ!?」

「うわ〜、デッカいねぇ〜」

「の、呑気に言ってる場合じゃないよミサちゃん!避難しなきゃ!」


召喚された怪物を見た俺たちが慌てていると、その様子を見たルサルカは一つ溜息をつく。


「ハァ……ノフは何もしませんよ?確かに、見た目はちょっと怖いかもしれないけどね?」

「……ほ、本当か?」

「ウソついてどうするんです?……それはともかく、これで信じてもらえましたか?」

「はい、貴女は間違いなく聖霊皇様の御息女なのでしょうね」


ルサルカの問いかけに答えたのはエルフのアルスさんだった。


「皆さん聞いてください。今彼女が召喚したのは、大陸の遥か北にある永久凍土に住まうとされる『幻獣ノフ』と思われます。現地住民からは神と崇められるその幻獣は、周囲を吹雪で覆うと言い伝えられている……伝承にあった特徴とも一致しています。まさか水の聖霊皇眷属になっているとは思いにもよりませんでしたが……」

「そうか、アルスが言うなら間違い無いだろう」

「伝説の幻獣……か」


平然を装っているのだろうか。

アルスさんは顔色1つ変えずに淡々と説明していくが、徐々に驚きからか言葉が詰まってしまう。


その時、ルサルカがふと思い出したように質問してくる。



「そういえば、おにーさん達は何でルサルカを召喚したの?」



この質問に、どう答えるべきか。


俺たちは思わず固まり、考え込む。


おそらく、この問いは召喚者たる俺が答えねばならないだろう。

彼女の意に沿わない答えをすれば、何が起こるかわかったものではない。

故に、慎重に答えねばならない。


「そういえば、それを話してなかったな」


やや間を置いたが、不自然ではなかっただろうか?

不安に思いつつも、さらにミスを重ねないように言葉をつなぐ。


「ルサルカは、今ここが何処だかわかっていたよな?」

「うん、土のおじ様のお家の近くよね?」

「まぁ、『土のおじ様』ってのはわからないけどな。俺たちは今、『土の試練』っていうのに挑んでいるんだ」


その単語を言った途端、彼女の目が輝く。


「まぁ!おじ様の試練に挑むのね?ルサルカ、一度行ってみたかったの!もちろん、連れてってくれるのよね?」

「あ、ああ。ルサルカが一緒に行ってくれるなら心強いよ」


胸の前で手を合わせて嬉しそうにびょんびょんと跳ねる姿はとても可愛らしく、彼女を見た目よりも若く見せた。


「やったー!それじゃ、早速行きましょ行きましょ!」

「うぇっ!?お、おいまっt……」


テンションが急上昇したのか、ルサルカは俺の手を掴むと彼女の細い身体のどこから出てるのかわからないような強い力で俺を引っ張って行く。


「あ!ちょっ!大地ーー!!!」

「大兄!?」

「大地くん!!」

「ニイちゃん!まて!一人は危険だ!」

「ワシらも追うぞ!!」


俺は、身体が浮くほどのスピードで引かれながら、みんなの叫び声を聞いていた……




〜side out〜






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






〜 ???side 〜




何処からか、不自然な魔力を感じる。


それと同時に、胸騒ぎと喪失感が俺を襲う。


不安は最早、確信となっていた。



「これは……また、人間の仕業なのか?」



俺の中では、怒りが虚無感となって言い表しようの無い仄暗い気持ちと共に『俺』という殻を食い破らんばかりに暴れていた。



「あなた………行ってしまうの?」



嫁の声が聞こえる。


いつもいつも、俺の側に寄り添って、俺も側に寄り添って。そんな関係を作ってきた彼女だったが、今回ばかりは話が違う。



「すまない、ちょっと娘を迎えに行ってくるよ」

「もう……止めても無駄なんでしょう?」



何かを諦めたかのような彼女の声だったが、その声は確かに、俺に対する理解を示していた。


有難いことだ。思えば、彼女との付き合いは俺がこの世界に生まれ落ちて間も無くだったな……



「でも……でも、きっと、ふたりとも無事に帰ってきてくださいね?……あなたがいないと、それだけで胸が締め付けられるから」



その言葉には、どれほどの感情が込められていただろう。


俺にはとても推し量ることはできないが、これだけは言える。



『なんとしても、帰らねば。俺を待つ眷属の為に……そして、俺を心配する彼女の為に……』



その思いを胸に、俺は天へと翔ける。


身体が漆黒に包まれようとも、邪悪な念が俺の心を蝕もうとも、俺は俺の大切な物を取り戻す。


そこにはもう、迷いはなかった。






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