講師と運命
寒い日が続きますね……
私の地元では−10℃を下回ったらしいです。
皆様もお身体に気をつけてください。
それでは本編どうぞ。
〜大地 side〜
翌朝、ギルドから勧められた宿で目覚めた俺たちは、食堂で朝食を取っていた。
「おう、ニイちゃん嬢ちゃん達。おはよう」
「おっさんおはよう。昨日は遅かったみたいだな」
「おはようございます、ジハッドさん。目に隈が出来てますよ?」
「おじいちゃん大丈夫?」
「何の何の、まだまだ俺は大丈夫だ」
おっさんはそう言ってブンブンと腕を振ってみせた。
何となく空元気に見えなくも無いが……まぁ、おっさんの事だし大丈夫だろう。
「おっと、いけねぇいけねぇ。お前さん達、今日から試練に臨むお前さん達の為に高名な冒険者に講師を依頼した。これを食べ終えたら半刻ほど時間をおいてギルドの近くにある広場まで来てくれ。場所はレントがわかる」
俺らに有無を言わせない程手早く言伝を伝えると、おっさんはそのまま急ぎ足で何処かへと向かってしまった。
「レントさん、何か心当たりあります?」
急変したようなおっさんの様子が気になり、レントさんが何か知らないかを聞く。
するとレントさんは少し腕を組み考えてから口を開いた。
「う〜ん……おそらく師匠は一刻も早く君達に力をつけてほしいんだろう」
少し眉間に皺を寄せ、絞り出すようにそう言った。
「アウグストゥス陛下からの書状は僕も少し読ませて貰ったけど、ガルアは知っての通り島国。通商が途切れ途切れになってる今だとおそらくガルア国民に潤沢な食料が渡りにくくなってるんじゃ無いかな?
国土の殆どが海沿いのガルアでは主食にできる小麦とかトウモロコシとかが育ちにくいから、国民が満足できるだけの主食の類が足りなくなっている可能性は高いよ」
レントさんは心配そうにそう語ってくれた。
「だからこそ君達に試練で力をつけてもらって国がまた通商を取り戻して元気になれるよう手伝ってもらいたいのさ。水の魔導師がほぼ居ないガルアじゃ、クラーケンの怒りは鎮められないからね」
レントさんはそう締めくくるとまた食事に戻った。
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食事を終えてしばらくの休息の後、俺たちとレントさんはギルドが管理している広場まで来ていた。
「おし、大体予定通りに来たな」
広場に待っていたのはジハッドのおっさんとその他に3人のお兄さん?だった。
1人は人族のおじさんで、30代くらいだろうか?やや髭を濃いめに生やした筋肉質な人で、腰に一拵の長剣を携えている。
2人目はドワーフのおじさん。ドワーフの年齢はまだ判別できないけど、髭が黒かったりするからジハッドのおっさんよりは年下だろう。ドワーフらしい樽のようなボディにはち切れんばかりの筋肉。背中には彼の背丈よりもやや長い戦鎚を下げている。
3人目は鋭い目つきに整った顔をしたエルフ族のお兄さん。この3人の中では最も背が高く、整った顔立ちをしている。彼は右手に水色の宝玉の飾り付けられたロッドを持ち、背中には弓をかけていた。
一通り彼らを眺めたあたりでジハッドのおっさんが口を開いた。
「彼らはこの国で最も優れた冒険者の証であるランク10冒険者パーティーの『白い闇』の3人だ。この中のドワーフのゴルドは俺の甥っ子でな、ツテを使って依頼を承諾してもらった」
「依頼?それってどんな内容だったんだ?」
俺の問いにおっさんは即座に答えてくれる。
「今回彼らに依頼したのは『お前さん達を強くしてくれ』と言うことだ。期間は一ヶ月、それまでにこの試練である程度戦える程度の能力や技術を身につけてもらう」
おっさんが言い終えると、それに続けるように人族のおじさん?が話をはじめる。
「……と、言うことらしい。てな訳で、よろしく頼む。俺はランク10パーティー『白い闇』のリーダー、ハウンドだ」
「ワシはゴルド、見ての通りのドワーフじゃ。主に前衛を担当しとる、よろしく頼むの」
「私はアルス、と言います。今年で230歳になるエルフ族です。担当は主に後衛、水魔法を得意としてます」
3人がそれぞれ自己紹介をしてくれた。
見たところ少し無愛想なところもあるけれど、3人とも良い人っぽい。
「ご丁寧にありがとうございます。俺は……もとい、自分はダイチ・シガです」
「私はカオル・ササキです」
「わたしはサトミ・サクラバです」
「ミサは、ミサ・シガっていうの!」
簡単にではあるが、俺達からも自己紹介を返した。するとリーダーのハウンドさんは「ほぉ……」と少し驚いたように目を見開いた。
俺がそれに気づいた事に気がついたのか、ハウンドさんは小恥ずかしそうに頭をかきながら話す。
「いやぁ、ガルア帝国直々の依頼ってもんだからどんなボンボンが来るのかと気構えてたが……とんだ勘違いだったようだな。申し訳ない!勘ぐってしまっていた!」
どことなく雰囲気の軽くなったハウンドさんはそう言ってジハッドのおっさんに頭を下げた。
何がどうしてそうなっているのかイマイチ飲み込めないが、本人達は理解しているらしく握手を交わしていた。
「さて、堅苦しい挨拶なんぞはここまでにしておこう。早速はじめるとするか。だが、まずはじめに聞いておく事がある。この中で魔法を使える者は手を上げてくれ」
ハウンドさんのその問いに答え、俺たち全員が手をあげる。
「ん、そうか。それじゃ一人一人教えられる範囲で構わないから適性を教えてくれ。えーっと……ダイチから頼む」
「はい、俺は全属性です」
「アタシも全属性です」
「わ、わたしもです」
「ミサもだよー!!」
俺たちがそう答えると、ハウンドさん達3人は目を見開く。
「はいはい全属性っと……って、全属性!?ジハッド殿、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
「オイオイ、マジかよ」
「こりゃあ……逸材揃いじゃなぁ」
「ほう、素晴らしいですね」
どうやらとても驚いて頂けたようだ。
「ハァ……となると、俺の質問が悪かった訳だな。質問を変えよう、この中で主に前衛を担当するのは?」
「俺と」
「アタシよ」
「じゃあ残りは後衛か」
俺と薫がちょっと息を合わせて答えた。
ハウンドさんはそれを手に持った紙に小さくメモすると、次の質問に移る。
「確かお前さん達はガルアの方で戦い方やら魔法の使い方やらは教わっているんだったな?」
「はい、主なところは一通りしています」
「ふむ、なら試練で生き延びる上での生存術から教えて行くとしようかね」
そういうと彼は足元に置いていた頭陀袋を開け、何種類かの植物を取り出した。
花、葉、草、山菜、多種多様に渡るその植物は前の世界では見たことのないようなものや、形は似通っているが明らかに色がおかしい物もある。
「さて、これらはこの試練の中でも採れる植物だ。まず最初の講義として、コイツらをサラッと覚えてくれ。食べ物や薬になるものを覚えられるだけでも試練での生還率がグッと上がるからな」
「昨日試練に行った感じだと、中は神殿で植物は生えてなかった筈なのにこんな植物がどこで採れるんですか?」
そう質問したのは、さとみ。
確かに、これは俺も疑問に思った事だ。あの中は一応、明かりはあるものの暗くジメッとした洞窟に近い環境だったし、植物も見かけなかったはず……
その質問を聞いたハウンドさんはニヤリと笑う。
「いい質問だな。確かに、あそこに植物は無ぇよ。……ただし一階層には、だがな」
「一階層にはない……なら、他の階層は違うんですね?」
「ああ、そうだ。丁度いいから教えておくが試練は現在17階層まで解放されている。その中で判明した事だが、試練は一階層を除いて5階層毎に階層の様相が変化する。その中には草原やら森やらがあるんだ」
「本当ですか!?」
思わず声を上げてしまった……。
階層毎に様相の変わるダンジョン、RPGやラノベあたりじゃあ使い古されたような慣れたものだが、実際に存在すると言われれば話は変わる。
魔法の世界だからと簡単に信じられるものでは無いし、実際に見てみたいと思う。
「嘘ついてどうすんだよ。まぁ、信じらんねぇのも理解できるがな。……さて、横道に逸れたが気を取り直して講義を続けるぞ。……アルス、頼んだ」
ハウンドさんからバトンタッチして前に出て来たのはエルフ族のアルスさん。エルフさながらの整った顔立ちとスラっとした長身、綺麗になびく金髪が印象的だ。
「任されました。私からはみなさんに『召喚魔法』をお教えします」
そう言って彼が取り出したのは、一枚の魔法陣の描かれた大きな布。それを丁寧に広げると、四方の角に四種類の魔結晶を置く。
「ここに広げたのは簡易的なものですが、しっかりとした魔法陣です。まずは私がやってみせますから、それから皆さんも順にやってみましょうか」
そういうとアルスさんは詠唱を始めた。
〈我希うは、清らかなる水の契約に従い、我が呼び声に応じるならば、ここに来れ!〉
その詠唱が終わると同時に、魔法陣とその端に置いてあった4つの魔結晶が光を放つ。
徐々に青い光が強くなっていくと、魔法陣から人型の何かが飛び出してきた。
それは5〜6歳くらいの子供のような見た目をした青い女の子だった。フリルのついた水色ののワンピースを身に纏い、その深い青の瞳で不思議そうにこちらを見つめている。
しかしそれも束の間、女の子はすぐにアルスさんの方を向くと笑顔を見せながらフワリと宙に浮き、アルスさんの肩に降り立つ。
「……とまぁ、こんな感じですかね。この子は水の妖精で、その中でも高位の妖精になります。こういったパートナーになり得る子達をそれぞれの属性が持つ契約に従って私の呼び声に応えてくれた子だけが来てくれます。一度契約に成功していれば魔法陣は不要なんですけれど、今回は皆さんに見せるために使いました。」
彼はそう言いながら肩に乗った妖精をそっと下ろす。
「属性の契約といっても、単に『人間と召喚される者は対等である』とか『召喚の魔力は人間の負担となる。故に相性が合わなくては呼び出せない』といったものですけど、皆さんなら心配ないでしょう。
さぁ、早速やってみましょうか!」
ここでアルスさんの声にいち早く反応した奴が居た。
「はいはーい!ミサ!ミサがやる!」
「お?威勢がいいですね、わかりました。ではやってみましょうか。ミサさんの得意属性は何ですか?」
「ミサは〜、土が得意なの!」
「土ですか、わかりました。土の詠唱は『我希うは、母なる大地の契約に従い、我が呼び声に応じるならば、ここに来れ』ですよ」
「はーいっ!ミサ、がんばる!」
俺たちが反応する間もなく美沙は魔法陣へと向かう。
(……何故かはわからんが、美沙の目が半ば確信を持ったように見えるのは俺の気のせいだろうか?)
俺がそう考えている合間に、美沙の召喚魔法が始まった。
〈我希うは、母なる大地の契約に従い、我が呼び声に応じるならば、ここに来れ!〉
すると魔法陣全体が今度は金色に光を放つ。その光は徐々に、徐々に強さを増していく。
しかし、その強さはさっきのアルスさんの妖精のものよりも強い。あまりの眩しさに目を覆わずには居られなかった。
「うわっ!眩しい!?」
「こ、これは一体!?」
「何が……いや、何方が呼び出されるというんじゃ!?」
そしてピークに達してすぐに、光はスゥッと収まっていく。
俺たちがようやく目を開けた時、美沙の前には一人の女の子が立っていた。
艶のある綺麗な金色の髪、黄金と称するのが正しいだろう一対の羽根、白いワンピースに、綺麗に日焼けしたかのようなツヤツヤの褐色の肌は活発そうなイメージを持たせる。
「やっと会えたね、ノーミードちゃん」
「やっとよんでくれたねぇ〜、おねえちゃん」
そう言って抱き合った二人を見て、俺たち全員が言葉を失うとともに思考停止したのは言うまでもないだろう。
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それからしばらくして、ようやく状況が飲み込めてきた頃。
一番最初に復活したのはドワーフの二人だった。
「「ノ、ノノノーミード様ァァ!?」」
「な、何でこんなところへ現れたんですじゃ!?」
「そ、そうだ、ノームの親父が今頃心配してるんじゃ!?」
「だいじょ〜ぶ〜。いまのわたしはぁ〜、ぶんれいなのぉ〜」
混乱一歩手前のドワーフ達を、ほんわかフワフワな口調で説得?するノーミードちゃん。
「ノーミード……ということは貴女は土の神の眷属が一柱、『地霊姫ノーミード』ですか。……して、分霊とは一体?」
「"ぶんれい"っていうのはぁ〜、まりょくでつくった〜、いれものなのぉ〜」
「なるほど、流石は神の眷属……と言ったところでしょうか。『意識』という精神体を収められるだけの物理的、魔法的質量を持った魔力の塊……並大抵の存在では真似すらできませんね」
ちょっと話が難しくてイマイチよくわからないが、とにかく凄いのだろう。
「ゴルド、ジハッド殿も一旦落ち着いてくれ。あ〜っと、ミサ、君とノーミード様はこっちで少し話を聞かせてほしい。アルス!残りの皆を頼む」
その時、リーダーであるハウンドさんが場を引き締めるように言い放った。その一言で落ち着きを取り戻したドワーフ二人と、思考の海に潜りかけてたアルスさんはそれぞれの指示に従い行動を始める。
「皆さん、申し訳ありませんでした。私としたことが余りに特異な出来事だったもので……」
「いえ、俺たちも驚きましたし」
「そうですよ、お気になさらないでください」
「……そう言って頂けると助かります。それでは再開しましょうか、次は誰がやりますか?」
アルスさんのその声に応じて、俺はスッと右手を挙げた。
「俺が行きます」
反対意見は……無い。
自信があるわけじゃ無いし、行こうと思ったのも『妹に負けてられない』っていう下らないプライドだが、何故だか『失敗するはずがない』という確信がある。
しかし、この時の俺は知る由もなかった。
ーーこの召喚が、この世界を大きく揺るがす事態の引き金となることをーー
〈我希うは、清らかなる水の契約に従い、我が呼び声に応じるならば、ここに来れ!〉
「うにゃ?おにーさん、誰?ここはどこ?」
感想お待ちしております。