表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺らはあの日、聖霊皇になった。  作者: スペアリブ
水の聖霊皇編 2
74/79

試練へ!


「ガッハッハッハッ!!!それでまんまと依頼を引き受けちまったって訳かぁ!」


今、俺の目の前ではたいそう愉快そうに大口開けて笑っているおっさんがいる。

理由はいたって簡単、俺が圧されて依頼を引き受けたからだ。


「はぁ、アンタが押しに弱いのは知ってたし、受付のお姉さんがグイグイ来てるのもわかってたけどあんなにあっさり返事しちゃうとは思わなかったわ……まぁ、軽い依頼だから今回は見逃すわ」

「もう、大兄ったら……簡単な依頼だから良かったけど、下手してたら大変なの押し付けられてたかもよ?」

「ミサちゃんの言う通りですよ?もう少し話術を身につけてくださいね!」


我らがかしまし三人娘からピシャリとお叱りを受けた俺は、「申し訳ありません」と平伏するほかなかった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






樹海を切り開き、分厚く重厚な金属の扉が


俺たちは遂に旅の目標の一つである『土の試練』まで到着した。


ーー『土の試練』は元は樹海の中に忽然と現れた重厚な金属の扉である。ーー


とは聞いていたものの、見ると聞くとでは大違いである。


樹海の一部を切り出し、城壁で覆ったそこは常に見張りの兵士十数人が巡回している。

その中央に鎮座していたのは、ゆうに2mは超えるだろう巨大な金属の扉だ。その巨大さもさることながら、非常に緻密で繊細な刻印や細工が施されている。

だが、真に驚くべきはここからだ。扉は、地上から『浮いている』のだ。地面から数十センチほどの高さに浮いたその扉はまるで、『挑む者を拒まず』とでも言うかのように開け放たれ宙空にあるにもかかわらずその奥には遥か地下へと続く暗闇を覗かせている。


その迫力たるや、俺たちの想像を遥かに超えるものがあった。


「よし、着いたな。宿泊施設はデルシア国王陛下の御好意でこの試練の街にもあるから心配するな。まず今日はいっぺん試練に潜ってみて感覚を掴むぞ」


馬車を降りるなりジハッドのおっさんがそういうと、早速『土の試練』へと進む。

扉の前には数人の兵士やギルド職員と思われる人たちが検問をおこなっていた。

そんな中、1人のギルド職員と思われる男の人がこちらに近づいてくる。


「こんにちは、ギルドカードか身分を証明できるものをお持ちでしょうか?」


爽やかな笑顔でこちらを迎えてくれたのは筋肉ムキムキマッチョマンのスキンヘッドだった。……笑顔が似合っているのがなんとも言えん。

彼の爽やかな笑顔を見つつも、俺はさっき貰ったばかりのギルドカードを提示する。


「これで、大丈夫ですよね?」

「はい、ギルドカードですね。確認させていただきます!…………はい、確認とれました。一応みなさんに伺っているのですが、本日は何階層まで行くご予定ですか?」


何階層まで……そういえば全く考えてなかったと思う。

そう思って後ろのジハッドのおっさんを見ると、おっさんが前まで出てくる。


「おう、コイツらの保護者なんだが……」


そう言ってジハッドのおっさんが懐から取り出したのは、いつぞや見せて貰ったおっさんの『マギロギウム』だった。


「これは……親方衆の方でしたか。なら安心ですね」

「おうとも、それに今日はコイツら初の試練だ。1階層の階層主前で帰ってくる」

「そうでしたか、わかりました」


ギルド職員のスキンヘッドはおっさんのマギロギウムを見ると急に態度を改め神妙な顔つきになると、おっさんのサラッとした説明で納得する。

スキンヘッドの彼は、そのまま急ぎ足で扉を守る衛兵さん達のところへ向かうと一言二言ほど話してこちらへ戻ってくる。


「お待たせしました、どうぞお通りください。皆さんの御武運を祈っております」


彼はそう言うと丁寧に一礼して、また試練の警護に着いた。


「試練に入る前にニイちゃん達に守って欲しいことがある」


神妙な面持ちでそういったおっさんの様子に只事ではないと判断した俺達は、一度足を止めておっさんの方へと向く。


「よし、まず一つに『試練の中では生きることを最優先に』二つに『自己犠牲はするな』そして三つに『無理をせずに逃げろ』だ。復唱してみろ」

「生きることを最優先に……」

「自己犠牲はするな……」

「無理せず逃げろ……」

「なんか元気がねぇが、まぁいい。その三つをしっかり守るんだぞ」

「「「「はーい!」」」」

「……はぁ、本当に大丈夫か?」


おっさんはそう言ってやれやれとばかりに首を振るが、俺たちの心中は『年中酒ばかり呑んだくれているジハッドにだけは言われたくない』という思いで一致していた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







目の前に迫った扉をくぐると、中は全くの『別世界』というのが相応しい神秘的な雰囲気が漂っていた。


そこはまるでパルテノン神殿を連想させるような柱の群れが立ち並ぶが、地下にあることと壁に施された精緻な紋様がピラミッドの内部を歩いているようにも錯覚させる長い階段が続く。


下り終えると、そこは『太古の神殿』と言うに相応しい場所だった。

ゆうに2〜3人分はあろう広い通路の先は、自然発光するコケやキノコの類が所々に自生しており試練の中を幽玄に照らし出している。


「……これが、土の試練」

「『いよいよ』……って感じになって来たわね」


思わず俺がこぼした言葉に、緊張した面持ちの薫がそう声をかけてくる。その声はどことなく震えているように感じた。


「大丈夫だ、俺がいるだろ?いざって時はレントさんにおっさんもいる」


俺はそういうと薫だけでなく美沙にさとみの目を見て、なるべく力強く言う。

…………正直に言えば俺自身、なにが待ち受けるか全くわからない恐怖に、声が震えないように抑えるのでいっぱいいっぱいになっているところだが、コイツらの手前無様は晒せない。


「……そうよね、大丈夫よね」

「うん、でもミサちょっと怖い……」

「わたしも怖いですけど……頑張りますね」


3人とも勇気を振り絞ってそう言ってくれる。本当は危険な場所であるここにいるだけでも怖いはずだが、彼女達はそれを押し切ってくれているのだ。


「おっし!よく言った嬢ちゃん達!!……おう、ニイちゃん。嬢ちゃん達にここまで言わせんたんだぞ?男なら、あとはわかるな?」

「そうですよ、ダイチさん、カオルさん、ミサさん、サトミさん。私だけじゃなく師匠も居ます!なんてことなく帰って来れますよ!」


ジハッドのおっさんは俺を軽く睨みながら、レントさんはみんなに勇気づけるように力強く言う。


「そうだよな!よし、サクッと行ってサクッと帰ってこようぜ!」

「そうね、さっさと行って宿でゆっくりしましょ!」

「ミサはお買い物に行きたいなぁ〜」

「あ、いいですね。わたしもお買い物に行ってみたいです」


そう言って互いに調子つけ合うと、俺たちは試練の奥へと歩みを進めた。


「ふむ、いい雰囲気に戻ったな」

「そうですね、師匠。いい事です。並みのルーキーならこの時点で小一時間葛藤してる……なんてことも珍しくありませんからね」

「そうだな、これはある意味ニイちゃん達全員の才能と言えるだろう。……仲間との絆、これは試練においては何にも勝る武器になるからな」


この時、裏でこんな会話があったとか……


試練の奥へと警戒しながら歩みを進めていると、突然レントさんが何かに気づく。


「みなさん、ちょっと止まってください」


その言葉に従って全員が止まると、正面にある十字路の左側が明るいことに気づく。


「あの真紅に光る色は恐らく下位魔獣の『鬼火』です。手強い相手ではないですけど、常に群れで行動し、魔法と水以外は効きません。注意してください」

「わかりました。なら、ここで奴が来るのを待って魔法を……」

「ちょっと待って頂戴。……ここは、アタシに任せて欲しいの」


そう言ってきたのは薫だった。

彼女の真剣な表情は俺たちに有無を言わせない事がありありと伝わる。


「何か策があるんだな?」


俺が確信を持ってそう聞くと、薫は静かに頷いて説明を始めた。


「時間がないから手短に説明するわ……確か、アタシ達がガルアを出る時、ゴードンさんから『水の短剣』を貰っていたわね?

大地、アンタそれに魔力込めまくって水鉄砲にしなさい。撃ち漏らしはアタシの剣で仕留めるわ。……大丈夫、アタシの剣は『魔剣』よ?」


そう言って剣の鍔に手を当てウインクをしながらこちらに微笑む薫。

気を抜けば見惚れてしまいそうなその笑顔の裏に、緊張と不安が隠れている事に俺は気づいてしまった。

だが、彼女がそれを我慢している以上、俺がその決意に水を差すわけにはいかない。


「よし、わかった。それで行こう。皆、それでいいか?」

「わかったよ、カオル姉を信じるもん」

「万が一の援護はわたしにも任せてください」

「俺たちゃ元よりニイちゃん達の自主性を重んじるよ。……なぁに、失敗しても俺たちが片付ける」


全員からそう返事をもらう頃には、鬼火達はすぐ近くまで迫ってきていた。


「いくわよ、作戦開始!」


薫の合図とともに俺が飛び出して『水の短剣』の切っ先を鬼火達にむける。


その時俺がみたのは、まさしく『鬼の顔』をした紅い火の玉がこちらに向かって飛んできている瞬間だった。


それに驚くも、すぐさま立て直して短剣に魔力を込める。




ドバッシュアァァァ!!!!




轟音と共に大量の水が瞬間的に通路を覆い尽くす。

そのあまりの水量に驚き、魔力を切ると水は途端に止まる。


「な……なんじゃこりゃぁ……」


出来事が出来事だけに、理解できずに呆然と立ち尽くす。

その時だった……!


「大地ッ!危ないッ!」

「え……」


ゴオッッ!!という音が聞こえ目の前が真っ赤に染まったかと思うと、ビュオォッ!!と言う音がそれをかき消し、俺の目の前には剣を振り切った薫が立っていた。


「もう、ビックリしたのは分かるけどボケっとしてちゃ危ないわよ?」

「大丈夫?大兄、今襲われかけてたんだよ?」


落ち着いてから話を聞いたところ、どうやら俺が『水の短剣』で鉄砲水を放った直後、一体だけその水流から免れた鬼火がいたらしくそれが俺を襲おうとしていたらしい。

それに気がついた薫が呆然と立つ俺に迫る鬼火を構えていた剣で斬り裂いたとの事だった。


「……そうか、それは危なかった。ありがとう、助かったよ薫」

「アンタが無事ならいいのよ、それよりも次からは気をつけてね?」


なんでもないようにそう言い切る薫。


(俺が女だったら惚れてるな)


なんて言葉にも出せない感想を考えながらも、次がないように周囲を警戒する。


「さて、それじゃあ進もうか」


こうして初めての本格的な戦闘を終えた俺たちは、再び試練の奥へと進み始めた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






それから4〜50分は経っただろうか。大きな戦闘も無く、無事奥までたどり着いた俺たちの目の前には入ってきた扉に似た精緻な紋様の描かれた大きな扉の前にいた。


「おっさん、これは一体……?」

「予想よりもだいぶ早いが、ここが『土の試練』の一階層最奥にある通称『階層主』の部屋だ」

「「「「『階層主』?」」」」


聞きなれないその言葉に、俺たち全員が聞き返す。


「お?ギルドから聞かなかったか?まぁいい、『階層主』ってのは特定階層ごとにあるこういう部屋にいる、その階層から次の階層への階段を守ってる奴らのことだ」


おっさんはそう言いながら扉に刻まれた紋様をなぞる。その目は、何故か敬虔な信者を思わせるような深い畏敬の念がこもっていることに気がついた。


「……その紋章にはどんな意味があるんですか?」


俺の心を代弁するかのように、さとみがそう質問した。

するとおっさんは、深く息を吸って少しためるとゆっくりと吐き出すように話し始めた。


「これは、俺たちドワーフが神と崇める『土の聖霊皇』様の紋章だ。お前さん達はこれを見て特に何も思わんだろうが、俺やレントをはじめとする全てのドワーフはこの紋章を……いや、この試練の中にあるこの紋章を見るだけで畏れ多い事なんだ」

「特に、僕らドワーフはこの紋章の精緻さからどういった人がこの紋章を彫ったのかが容易に想像できます。……これは恐らく、師匠の親族の彫ったものでしょう」

「おっさんの親族?」

「ああ、そうとも。コイツは恐らく俺の親父が彫った紋章だ。彫りのクセ、ミノの角度、細かい部分を彫る時の入れ方。全てが当てはまる」


おっさんはいつになくトーンの落ちた声でそう言い終えると、腰に引っさげた酒瓶をグビッと一気に煽る。


「ングッ……ングッ……プハァッ!!!しみったれた話になっちまったな。気にすんな、俺の話だ。……さて、ここまで到達出来たことだし今日のところは引き返してゆっくり宿で休むぞ」


おっさんはそう言うと、クルリと踵を返して出口へと歩き出した。

その背中は、俺には何処か哀愁と覚悟が漂って見えた。





……余談だが、魔石はいつのまにかレントさんが回収していたらしい。




このお話で、今年最後の投稿となります。

2017年、本当にありがとうございました。この作品を読んでくださった全ての方々に厚く御礼申し上げます。

また、2018年もお楽しみ頂ければ幸いです。


皆様、良いお年をお迎えください。

また、皆様にとって良い新年となることを祈願しております。


2017/12/30 スペアリブ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ