それぞれの選択
かなり寒くなってきました、作者の実家周辺はかなり雪が積もってて、毎朝とまではいかないものの雪かきに追われてます……
皆さまも、風邪など召されませんようお気をつけください。
それでは本編どうぞ!
煉瓦造りの立派な階段を上っていくと、そこには一面に並べられた武器や防具の類が並んでいた。
「さ、ここから自由に選んでくれ。ここにあるのはどれも一級品ばかりだからな!」
そう胸を張って豪語するのはここの店主たるゴランさんだ。
しかし一つ気になることがあった。
「あの……ゴランさん」
「ん、なんだ?ニイちゃん」
「予算がコレくらいしか無いんですけど……自由に選んでも大丈夫なんでしょうか?」
肝が小さいとか、しょうもないとか言われそうだが仕方ない。
元々小市民である俺にとっては、物凄そうな武器ばっかり並んでるのを見て不安にならない方がおかしいからだ。
「………クッ!アッハッハッハ!!」
そんな俺の様子がわかったのか、ゴランさんは途端に堪えられないかのように笑い出した。
「なんだニイちゃん!心配性だな?大丈夫だよ、この階に武器はピンからキリまで備えてるが金貨1枚を超えやしねぇよ!」
そういってゴランさんは俺の背中をバンバン叩きながら笑う。
ちょっとシャレになんないくらい背中が痛いが、不安が消えた事で少し心が軽い。
「ま、武器は嬢ちゃん達の目利きに任せるさ。ニイちゃんは先に防具を見に行くか」
「わかりました。みんな、先に行ってるよ。じっくり選んでてくれ」
「わかったわ、アンタの剣よりいい剣見つけてやるわ」
「なるべく早くそちらに向かいますね」
「ミサの目利きを見るがよい!」
「ハッハッハ!随分と強かな嬢ちゃん達だ!」
3人の返事に、ゴランさんが笑う。
(というよりもミサ……なんだそのキャラは。お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはないぞ!?)
急に変なテンションになった美沙が心配で後ろ髪を引かれる思いだったが、俺はゴランさんに連れられて、先に防具を見に行くのだった。
〜薫 side 〜
長剣、短剣、曲剣、大刀、小刀、短刀。
今、アタシの目の前には多種多様な刀剣類が並んでいる。
「うーん、これだけ多いとどれにしようか迷うわねぇ」
ただ、アタシが迷っている理由は多種多様だからだけでは無い。
「日本刀」のような武器が無いのだ。
アタシは元の世界では剣道部に入っていて、それなりに強かったと自負している。だからこそアタシは「日本刀」に近い武器の方が合っていると考えていたの。
だけど、ここにあるのはロングソードやサーベルのような西洋剣に近いものが多く中には全く見たことのないようなタイプの剣もある。
「なるべく、刀に近いものが良いんだけどなぁ〜……」
ロングソード、レイピア、サーベル、色々な剣を手にとって見るけど、どれもイマイチしっくり来ない。
(サーベルあたりは結構惜しい感じだったんだけど、どうにも使いにくいのよねぇ。ロングソードは重すぎるし、レイピアは振りやすいけど扱いにくそう……)
そんなことを考えながら並べられた武器を眺めていると、刀剣の展示してあるコーナーの隅に隠されているように一本の剣があるのが見えた。
(何かしら……あれ?)
なんでか、その剣を見つけてからそれが気になって仕方なくなってしまった。
そこにあったのは、鞘に収まったままの一本の直剣だった。
真紅の鞘に赤茶色の革の巻かれた柄。楕円形の鍔の真ん中には、大きな赤い結晶が付いていた。
「綺麗ね……」
そう思って手に取ろうとした瞬間だった。
剣の柄に手を触れた瞬間、スッと魔力が抜けていくような感覚がして、その直後から鍔についている結晶が薄く光を放っていた。
それにビックリしたものの、抜けた魔力も大した量じゃなかったこともあってそのまま剣を手に取り、鞘から抜いて見た。
「…………凄い」
その剣の刀身は正に「真紅」の刃だった。
例えるならば、炎のようなオレンジ色の赤ではなく、マグマの結晶のような純粋な「紅」。
その刃を一目見た瞬間、アタシの心は決まった。
「この剣にしよう!」
〜美沙 side〜
「うーん、カワイイの無いなぁ……」
ミサは魔法の杖が使いたくて、杖のコーナーに来たの。
でも、どの杖も何だか「木を削っただけ」みたいな無骨なものばっかり……。
見た目のいい杖も、魔法の杖っていうかオジサマのステッキみたいな見た目だっり、魔法の杖っぽくてもやっぱり木を削ったみたいなものばっかりで……。
「カワイイのが無いぃ………。ん?」
そんな時、ミサの目にキラリと光る何かが目に入って来たの!
「おぉー!いい感じじゃない?」
ミサが見つけたのは、黄色の大きな丸い宝石が上部にあしらわれた白塗りの杖だったの。
シンプルに見えるけど、杖の柄には黄色で何か文字が螺旋を描くように書かれていて、なんだかオシャレ!
装飾でゴッタゴタな杖よりも、無骨な杖よりも、ステッキみたいなのよりも、この杖がとても気に入ったの!
「あれ?この宝石……中に何か入ってる?」
宝石の中をよく見てみると、中には身体を丸めて赤ちゃんみたいに眠っている小人さんが見える。
だけど、この子には羽が生えているから、妖精さんかな?
「妖精さん……?」
【……なぁに?】
あれ?今、何か聞こえたような……?
【……お姉ちゃん、どうしたの?】
思わず目をこすって、ほっぺたをつねる。
だけど、目はしっかり見えてるし、ちゃんとほっぺたが痛い。
「あれ?あれれ?ミサ、おかしくなっちゃったの?」
【……そんなことないよ?】
ちゃんと返事が返ってくる……。
「あなたは誰?どこから話しかけてるの?」
【わたしはここ、お姉ちゃんの目の前の杖の中よ?】
「……もしかして、この妖精さん?」
【そうよ、お姉ちゃん】
心なしか、宝石の中の妖精さんが微笑んでいるように見える。
【お姉ちゃん、わたしを買ってくれるの?】
「え?う、うん。そのつもりだよ?」
【うれしい!わたしをこれまで買ってくれた人は、誰もわたしを見つけてくれなかったの……】
それから、妖精さんとしばらくお話しした。
妖精さん曰く、土の魔力を感じられないと妖精さんが見えなくて、声も聞こえない。だからこれまで自分を使ってくれた人は何人かいたけど、みんな「役立たずの杖だ」と言ってこの子を売り払ってしまった。
本当はこの子の力を全く引き出せていないだけなのに……。
「そう……寂しかったんだね」
【うん、だけどもうさみしくないよ!だったお姉ちゃんがわたしを買ってくれるって言ってくれたんだもん!】
「……うん、そうだね。ミサがいるからね!」
ぎゅっとその子を抱きしめて大兄達のところへ行くことにしたの。
〜さとみ side〜
ビュ!!…………スタンッ!!!
放った矢が的を貫く綺麗な音が響く。
しかし、矢が命中したのは的の外側ギリギリ。
わたしはゆっくりと弓を下ろしながら、今の矢を放った弓について考えていました。
(弓が少し強すぎますね……わたしじゃこの子は扱えないかもしれません。それに、この子の重心がわかりにくくて構えにくさも感じますね……)
「さて、次はどの子しましょう……」
わたしは今、店員さんにお願いして弓を選ぶための試射をしています。
わたしはもともと弓道部に所属していたので、弓は得意なのですけど……。
異世界の弓というのは、多少強化されてもわたし程度では簡単には扱えないようです……。
現に、今の弓で三張目。そのどれもが女のわたしが使うには弓が強すぎるものばかり。弱いものを選んで来ているのですけど、それでも強く感じてしまいます。
それに、弓の大きさや形状もわたしが扱って来た和弓のようなものは全く無く、ふそれもあってかとてもやりにくさを感じることが多いです。
「次は、この子にしましょうか」
そう言ってわたしが手に取ったのは、ショートボウ。
この手の弓は全く扱ったことがなかったので、ちょっと楽しみながら試射している自分がいます。
(スゥ………………ッ!!!)
大きく深呼吸をして集中力を高めると、20mくらい先にある的めがけて矢を放つ。
ビシュッ!…………………スタァンッ!!
これまでで一番いい音が出ました。矢も、うまく的の中心部近くに当たっているらしく、いい出来です。
けれど、やっぱりこれも強い。
ちょっと腕が疲れてしまいました。試射だから良いもののこれを普段使いは厳しそうですね……。
「ふぅ、ちょうどいい弓は無いですかね……」
そう思って一息ついた時、1人の店員さんがわたしに近づいて来た。
「あの、お客様。お客様は弱い弓をお探しですか?」
「はい、これよりも幾らか弱くちょうど良い弓を探しているのですが、中々無いものですね……」
わたしがそういうと、店員さんは「少々お待ちください」とだけ言い残して何処かへ行ってしまった。
それから程なくして店員さんが戻ってくると、台車に積まれた五張の弓を持って来てくれました。
「こちらは本来、特別なお客様にのみご紹介している商品なのですが、ゴラン会頭から許可を頂きました。よろしければ是非こちらをお試しください」
そう言って手渡してくれた弓は、先程まで試していた弓よりも小さいけれど、少し爪弾いてみた感じでもわかるほど先程までの弓とは違って弱めの弓でした。
しかし、弓とともに来るはずの「矢」がありません。
「あの、矢は無いのでしょうか?」
「ああ、説明不足で申し訳ありません。実はこの弓、『魔導弓』と呼ばれる特別なものでして、魔力の強い方しか扱えない特殊な弓なのです」
店員さん曰く、魔導弓は通常の矢も扱えるが魔力で作った矢を放つ事を目的とした武器である。
魔導弓は持つ人の魔力適正と弓自体の魔力適正によって魔法の矢の威力や速さなどが変わる。
魔導弓は一般的な魔力適正低い方や魔力量の少ない人では上手く扱えない。
など、さまざまな問題からあまり使われない代物なのだとか。
そして、わたしが店員さんの持ってきてくださった五張の弓を見たとき、一つだけわたしの目を釘付けにした弓がありました。
朱に塗られたその弓は、スマートで独特な形状をしていました。
そう、まるで『和弓』のような形状を。大きさはおそらく和弓の半分程。
その弓に、わたしはすっかり魅入られたように思いました。
そして、いざ弓を試射します。
(スゥ……………………)
深呼吸とともにわたしの手から魔力を弓に注ぎつつ、弦を引く。
すると弦を引く右手に緑に光る魔法の矢が現れる。
高鳴る胸の鼓動を感じながらも、頭を、身体を冷静に集中させていく。
そして……。
(…………ッ!!!!)
放った。
ピンッ!!…………スパァンッ!!!!
快中……我ながら素晴らしい一射でした。
的を見てみると当たった中心から見事に真っ二つに割れていました。
「この弓にしましょう」
わたしは自然とそう口に出していました。おそらくわたしには、今のところこの弓しかない。
そう確信したのでした。
感想お待ちしております。




