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俺らはあの日、聖霊皇になった。  作者: スペアリブ
水の聖霊皇編 2
61/79

おっさんの弟子

なんか、一月前まで28000UAだったのが32000UAまで上がっててびっくりしました…


気ままにエタらずやっていきますので、これからもよろしくお願いします!




『こおんのバカ弟子がぁぁぁぁぁぁ!!!!いつ迄寝とるつもりじゃぁぁぁぁぁ!!!!』



その日、唐突に職人街を震わせる程の怒声が響き渡った。

木々が震え、鳥が逃げ出し、近くの職人達は「ハァ、またアイツか…」と溜息をこぼす。


『ドタンッ!!「いってぇっ!」「アァッ!?」ドタンバタンッ!「ぐふっ!?」ドスン!ゴロゴロッ!!「うぉっ!」「ッー!?」ドスッ………』


すると件の店の中から、まるで飛び起きた拍子にベッドから転げ落ちてそのままの勢いで階段を転がり落ちてくるような音が聞こえる。


音が鎮まると、最初の怒号の主人であるジハッドが店のドアを開けた。


「いっつっつー……あ、師匠。おはようございます」

「……己は何をしとるんじゃ?」

「えーっと、ああ、いえべ、別に慌てて転げ落ちてなんか無いですよ?師匠の声にビックリしたわけでも無いですし……」

「……もう誤魔化さんでええわい」


扉を開けた先には、若いドワーフの男が尻を突き出すようにうつ伏せに倒れていた。

堪らず声をかけたジハッドだったが、若いドワーフは何とか無理に誤魔化そうとする。

それを見たジハッドの顔が『呆れ果てて、とても見ていられない』と口より雄弁に語っている。


「あ、あははは?……っと、そちらの方々は?」

「文をやったじゃろうが、ワシの連れだ」

「ああ!あなた方が!私はレント。この店の店主でこちらのお堅いジジイドワーフのジハッド師の弟子です!」

「一言余計じゃわい!!」


レントと名乗ったドワーフは直後ジハッドの鉄拳をくらい地に沈む。


「全く、これだから最近の若いモンはダメだと言うんじゃ」


ジハッドはそうボヤくと気絶してると思われるレントを肩に担いで店の中に投げ入れた。


「なにをボーっとしとるんじゃ、ホレ行くぞ」


ジハッドはそういうと、店の方へと歩いて行く。

一連の様子をただ呆然と見ていることしかできない勇者一行は、ジハッドに言われるまま店の中へと入っていった。




店に入ると、ジハッドが店の灯りをつけたところであった。壁の突起にジハッドが触れると天井の水晶らしきものが白く光って薄暗い店の中を照らし出した。


どうやらレントの店は、武器屋らしい。丁寧に武具が並べられているが、中にはカゴに雑多に入れられた数打ちの武器もあるようだ。

店の中は少し埃っぽいものの、手入れはしっかりされているようで目立った汚れはない。


「意外とキレイね」

「ああ、どの武器も埃を被ってるようなものは無いな」

「ほぇ〜っ、さっきのレントさんからはちょっと考えられないかも」

「そうだろう?俺も最初は驚いたわ」


ジハッドは勇者達の言葉に同意するようにうんうんと頷く。

そんな中、大地が何かを見つける。


「こ、これは……!?」

「なに?どうしたの?」

「で、伝説のひのきのぼう!?」


大地が手に取ったのは、片側に柄として使えるように革紐の巻かれたほんのりいい香りのする程よい長さの木の棒だった。

大地は、店の壁に何故か丁重に展示されていたそれを手に取ると、香りを嗅いで見たり振ってみたりする。


「なんでそんな棒に興奮してるのよ……」

「男の子って……わかりませんね」

「大兄……」


そんなハイテンションな大地に対して、それをやや白い目で見る女達がいるが、今の大地にはそんなことはどうでも良かった。


「やっぱり勇者の旅立ちと言えばコレだよなぁ〜!うわぁ〜、手に馴染むなぁ〜!」

「その良さが分かりますか!!?」


大地が「ひのきのぼう」にテンションを上げていると、いつの間にやら復活したレントが飛んでくる。


「実はですねぇ、この棒はただの棒じゃ無いんですよ?」

「ほうほう、この棒に一体どんな効果が?」

「よくぞ聞いてくださいました!この棒は外側はただのいい香りのヒノキですが、この棒は魔法で加工して中に芯を入れているんですよ!」

「して、その芯材とは一体?」

「それがこれです!」


そう言ってレントが取り出したのは白くて長い、先に行くにつれ細く鋭くなっているしなやかな何かだった。


「これは"ドラゴンの髭"です!高級な魔力伝導材で上位の魔導師の多くはこの"ドラゴンの髭"を芯に使った杖や剣などを用いているのです!」

「おお!それは素晴らしい!ではこの"ひのきのぼう"は殴るだけでなく魔法も放てる棒と言うことですな!?」

「はい!その通りでございます!」

「なるほど!……でも、お高いんでしょ?」

「ところがどっこい!この"高性能ひのきのぼう"お値段たったの銀貨10枚!銀貨10枚でのご提供です!」

「銀貨10枚!?安い!!」

「さらに更に!!この宣伝を見ている皆様にはスペシャルチャンス!!30分以内のご購入に限り!お値段なんと!銀貨8枚!!銀貨8枚でのご提供です!!!」

「まぁ!お安い!!……でも、不良品が心配ですねぇ?」

「心配ご無用!!我が店の製品は一度使って気に入らなければ全品返品保証制度がございます!!数量限定10本のみの販売です!皆様!お買い逃し無いよう!!」


どこぞの通販番組の三文芝居のような2人のやりとりが終わると、レントの店の中にはやりきった顔をした2人の若者と、取り残されやや引きつった顔をしている老人と3人の少女がいるのみだった……






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「全くもう!下らない事ばっかり!」

「……はい、申じ訳ありませんでじだ」

「このバカ弟子が!本題も話せんだろうが!」

「…………」


大地の顔はボコボコに腫れ上がり、整った顔立ちが見るも無残なことになっている。

よく見ればその隣には上半身を店の床にめり込ませているレントの下半身が、力なく倒れ伏していた。


あれから一体何があったのかというと、2人の間で起こった謎の通販番組茶番劇が中々終わらないことに苛立った薫が、流れるようなラッシュで大地をTKO(テクニカルノックアウト)し、ジハッドがその巌のような拳でレントを地に沈めた。


「大兄、もうちょっと自重しよ?」

「グハァッ!?」


そしてそんな大地を慰めるべく言った美沙の一言は、大地の心に深く突き刺さったのだった……




それはさておき、今一行は気を取り直して今後の予定の打ち合わせをジハッドと行うことにしていた。


「さて、一先ずは船旅ご苦労だった。今日はここで一泊する。明日の朝にここを出て『ポート』へ向かう。『ポート』のある宿場町までは馬車で2日だ。今回はここのバカが馬車を出してくれるから心配すんな。……とまぁ、ここまでで質問はあるか?」


ジハッドが勇者一行を見渡すと、さとみが手を挙げた。


「あのぉ……わたし達がこれから向かう『土の試練』ってどんなところなんでしょう?結局詳しく知らないまま来てしまったのですが……」

「ああ、そんな事か。簡単になら教えてやろう」


ジハッドはそういうと、腰に下げた酒瓶から酒を一口煽って語り始める。


「『土の試練』ってのはな、数年前にデルシアの南西にある樹海の中に突如現れた地下に続く大きな『扉』の事だ。扉から先は魔獣共がわんさかでな、しかも下層に行けば行くほど連中は強くなる。中には地上じゃ滅多にお目にかかれないような魔獣までいるって話だ」


ジハッドはそこまで言うとまた一口、酒を煽る。


「そこから無限とも言えるほどに出て来やがる魔獣を抑える事、そしてその魔獣の素材やらを求めて人が集まった結果『試練の街』なんてモンが出来たがな。簡単に説明すればこんなモンだ」

「でもおじいちゃん、なら何で『土の試練』なんて名前がついてるの?」


ジハッドが言い終わると、美沙がすかさず質問をした。


「おっといけねぇ、それを説明してなかったな。『土の試練』と呼ばれるようになったのは、そこを最初に調査した冒険者達の証言と実際の神の啓示によるものだ」

「神の啓示?そんなモンが?」


聞きなれない『神の啓示』という言葉に引っ掛かりを覚えた大地がジハッドに問う。


「ああ、アレは俺も一言一句覚えとる……


【我を信じ我に従い我にこうべを垂れる民達よ、土の神たる我が天啓を下す。遥か南西に大いなる土の試練出でたる、これを制す者我に招かれ我の眷属とならん。これを遮らん者大地の怒りに触れる。これを邪なる瞳で挑みし者、大いなる力の前に消え去る。汝らこれを守りこれを信じこれに従え】


……つまりこの『土の試練』は土の神が俺たち人間の中でも強い者を厳選し眷属に招こうっていう神の考えらしいな。俺が『土の試練』に関して語れるのはこのくらいだ」


ジハッドはそういうと、「あとは各自準備を整えな。レントは寝床を準備しやがれ。俺はちょっと挨拶回りしてくる」とだけ言って街へ出て行った。


「あらら、師匠がいつもの挨拶回りに行ったら中々帰って来ませんよ?とりあえず皆さんの泊まる部屋はこちらです。中へどうぞ」


ジハッドが出て行くと、レントが勇者達にそう声掛けた。

勇者一行はその後、各自準備を整え翌日に備えるのだった。






とっととコイツら(勇者達)転移させて事を起こしたいのに、私は一体何をグズグズさせているんだ!?……と思うこの頃です。


感想お待ちしております。


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