船旅〜後編〜
ようやく試験がひと段落ついたので投稿っす。
いやぁ筆記と作文なのに緊張して緊張して…
高野豆腐メンタルな作者にはちょっち辛かったですねぇ…
そんな諸事情は置いといて、本編どうぞ!
「『神渡り』だぁ!舵を切れぇ!『神渡り』にぶつかるぞぉ!!!」
船中に響き渡ったその焦ったような大声に船員だけでなく乗客までもが慌て出す。
「『神渡り』だって!?」
「いそげ!帆を畳め!時間がないぞ!」
「『神渡り』の方角は!?」
「11時の方角!『神渡り』だ!舵を切れ!11時の方角!!舵を切れぇ!!」
「魔道士を呼べ!誰か!水の魔道士を呼べぇ!!」
「おお、あれが『神渡り』か、なんとも恐ろしい…」
目に見えて全員が焦り始める。
「どういうことなの?」
「何が起こってるのよ〜!」
「わ、わかりません!」
俺らも含めこの混乱に巻き込まれた。
しかし俺はそんな中冷静になって行動する。
まず始めに薫達3人を船室に避難するように指示を出す。
次に辺りを見回し、船員達が水平線よりちょっと手前に見える黒い雲の線を見て怯えているとわかった。
(あれが『神渡り』?いったいどうしてあの雲でこんなに怯えるんだ?)
考えられる理由は2つ。単純に危険な天候をもたらす雲であること、そしてもう1つは水の神関連…
この怯え様から考えられるのは、名前からしてもおそらく後者で間違いないだろう。
この世界の人々は水の神の怒りに触れることを殊の外恐れているしな。
そんな事を考えているうちに『神渡り』がだいぶ近くまで来ていた。
周辺にもポツポツと雨が降り始めて来ているが、『水避けの結界』が張られているためか雨は甲板に入ってはこない。
次第に雨が強くなると、前方に見えた黒い雲の全体像が見えて来る。
海の上に不自然なほどに綺麗に一列に並んだ黒雲が海を横切るように渡っている。その両端は遥か水平線の彼方まで続いてるようで確認できないが、その分想像を絶するほど長いものだとわかる。
雲の下の海面はそこだけが異常に波が高く、荒れ狂う海面からは時折魚が飛び出すのがみえる。
ーーしかし、俺に見えているのはそんなチャチなものではなかった。ーー
俺の視界には、いっぱいいっぱいに広がる様々な青に輝く不思議な光の玉と、エメラルドグリーンやコバルトブルーに光る海面、そして海の中から飛び出てはまた海の中に沈んでいく『妖精の様な何か』だった。
それらは皆一様に海の遥か上を目指して飛ぼうとする。
勢いよく水から上がっては自由落下し、また落下して水に入れば飛び上がって空を目指す。
妖精の目指す遥か雲の上には、俺の目には眩しいほどに蒼い輝きを放つ一筋の巨大な光が見えた。
「何なんだ……アレは…」
徐々に光に近づく船はやがて高波が船体を覆う様に水を被る。
水避けの結界が働くために被害はないが、高波に混じって妖精達も船の上に打ち上げられる。
「ん…?ぬぅ?何じゃあ、うるさいわい」
「おっさん!今頃起きたのかよ!」
「んぁ?ニィちゃんか、どうした?スゲェうるせえぞ」
「周り見ろよ、おっさん!おっさんが寝た後に『神渡り』って雲が出たんだよ!んで、今はその神渡りがすぐ近くまで迫ってるんだ!」
「んぁ、なんだ『神渡り』か………『神渡り』じゃとぉ!!」
俺が現在の状況を伝えると、おっさんは跳ね起きた。
「何処じゃ!どっちに迫っとるんじゃ!」
「おお、落ち着けおっさん!見ろ!真正面だよ!」
俺の肩をガクガクと揺さぶって来るおっさんに『神渡り』の方角を指をさしながら教える。
「な、ななななんじゃこりゃあ!!!もうここまで来とるんか!!何故ワシに教えんかったんじゃ!」
「おっさん寝てたじゃねぇか!」
「確かにそうじゃ!寝てたわい!じゃがもちっと早く起こせたじゃろ!」
おっさんはその答えに納得しながらも俺を怒鳴る。
「ああ!もう!時間が足りんが間に合うかやってみるか!」
「何するってんだよおっさん!」
「うるさいわ!黙っとれ!」
おっさんは俺を再度怒鳴ると荒れ狂う甲板の床に何処からか取り出したチョークで何かを描き始めた。
3mほどの二重の円を描き、その中に六芒星を描く。六芒星を中心にして何やらよくわからない記号を描き、二重の円の間にも文字のようなものを記していく。
どうやら魔法陣のようなものらしい。それを描き終えると腰の袋から黄色に光る粉を取り出して陣の中へ撒き散らしていく。
撒かれた粉は魔法陣に触れた途端に蒸発するように光になって消えていく。
魔法陣は粉が触れると同時に粉と同じような光を放ち出し、外側の円から立ち上る光がまるで結界のように内界と外界を別ける。
「ええいっ!船長!しくじっても怨むんじゃねぇぞ!!!」
ジハッドのおっさんは、最後にそれだけ叫ぶと魔法陣に両手を置き詠唱を始めた。
〈我希うは我らの偉大なる祖父にして大いなる父、地界統べる土の聖霊皇が眷属〉
おっさんのその詠唱を聞いた直後、俺の意識は真っ白な光の中へ飛んだ。
だけど、その直前。
"暗雲の中に、青く光る2つの目玉がこちらを睨んでいた"
そんな気がした。
〜ジハッドside〜
〈我希うは我らの偉大なる祖父にして大いなる父、地界統べる土の聖霊皇が眷属〉
ワシは藁にもすがる気持ちじゃった。
いや…ノーム様を藁だとはカケラも思っちゃいねぇが。
だが、それでも、かの聖霊皇の横っ腹に突っ込んでは流石のワシも無事とはいかねぇ。
【おお、この魔力は……ジンガの玄孫のジハッドじゃな?】
「はっ!その通りにございます」
【よいよい、そのように固くせんでも。して、今回は何用じゃな?】
「はい、火急にございます。まずは彼方をご覧ください。ノーム様ならば説明など必要ありませんでしょう」
ワシがノーム様に後ろを向いていただくように言い、ノーム様が後ろを向く。
……その瞬間、時が凍った様にノーム様が止まる。
【………ひょっ!?まさか、水の聖霊皇様ですじゃ!?】
「はい、運悪く『神渡り』に遭いまして」
【ふむぅ、仕方あるまいて。ちょっといってくるのじゃ】
ノーム様はそういうと空へと駆け上がる。
大丈夫じゃろうか……ノーム様を疑っているわけじゃ無いんじゃが、彼の方も結構おっちょこちょいじゃからのぉ…
それはノーム様が雲の上に上がって5分程した頃のことじゃった。
少しずつじゃが、南側の雲が消え始めたのじゃ。それと同時に空からノーム様が降りてくる。
【いやぁ…大変じゃったぞい】
「苦労おかけします。ノーム様」
【よいよい、お主らドワーフは皆総て儂のかわいい子孫なんじゃからな。ノームの親父様と呼んでも良いぞ?】
「いやぁ、俺の親父はノーム様をそう呼んでおりましたが、俺は遠慮させていただきます」
【ふむ、最近2〜300年の孫は皆儂を親父様とは呼んでくれんのぉ…】
「して、かの聖霊皇様は何と?」
【ああ、聖霊皇様はご用事で北の果てに行くそうじゃ。もう少しすれば尾っぽも通り過ぎるからまっとってくれ、とだけ仰ってな】
「なるほど、ならば後は大丈夫ですな?」
【うむ、その後またこの辺りを通るとも仰っていたが、流石にその頃にはお主らは通り過ぎておるじゃろ】
「ありがとうございましたノーム様」
【気にするで無い、それではまたの】
ノーム様はそう言うと「ポンッ」という軽い音と共に魔法陣へと消える。
ーーなんとかこれで一件落着じゃわい…ーー
ワシは「ふぅっ…」と大きく息を吐いて椅子へ座ると、お気に入りの酒を一口煽ると、事故処理をどうするか考え出した。
〜side out〜
あれから『神渡り』をやり過ごした魔導船内は静けさに包まれていた。
理由は単純、ジハッドが全員を眠らせたからである。
「んんッ……」
「お?起きよったか、ニィちゃん」
「お、おっさん…?」
「おうよ」
一番初めに目覚めたのは大地だった。
まだすこし寝ぼけている様だが、意識はハッキリしているらしい。
「おれ…なんでこんなトコで寝て……!?」
「気づいたみてえだな」
「おっさん!『神渡り』はどうなったんだ!船は沈んだのか!?」
大地はジハッドの肩をガクガクと揺さぶって問い詰める。
「どうなんだよおっさん!」
「ば、ばばばばか野郎!はは話しやがれ!」
「ゴチン」という鈍い拳骨の音が大地の頭の中に響いた。
「ツッッ〜!!」
「全く、せっかちなニィちゃんだぜ。心配せずとも船は無事だ。周りを見てみろ、みんな寝てるだけだ」
「……本当だ、だったら何で…」
「『何で寝てるのか』ってか?簡単だ、俺が寝かせたんじゃよ」
ジハッドのその言葉に大地はイマイチ理解できないという顔をする。
「ハァ…あのままのパニックじゃあ何にもできんじゃろうて。だから『神渡り』が過ぎ去るまで安静にする為に皆を寝かせたんじゃよ」
「そうだったのか……俺はあの後、目の前が真っ白になっちまったから死んじまったのかと思ったよ」
落ち着いた様子の大地がそう言う。
するとその時、周りからも立ち上がる様な音が聞こえてきた。
「さてニィちゃん、これから忙しくなるぞ!ニィちゃんにも存分に手伝ってもらうからな!」
ジハッドは大地の肩をガッシリと掴むとそう言ってニヤリと笑った。
…………その後、船内の方々へ事情説明と謝罪に駆け回るドワーフと若い人族の男が目撃されまくったそうな。
感想おまちしております。
*試験やらストックやらの関係で週一の安定投稿はもう暫く先になりそうです。申し訳ありません。