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俺らはあの日、聖霊皇になった。  作者: スペアリブ
水の聖霊皇編 2
54/79

出立〜後編〜

なんとか更新できました!!


出来立てホヤホヤです!!

すごく眠いです!!おやすみなさい!!



それでは本編どうぞ!!



昨日の疲れをなんとか持ち越さずに済んだ勇者一行は今、城で朝食をとっていた。


「いよいよ出発ね〜。胸が高鳴るわ!」

「ミサね、魔導船ってのが楽しみ!」

「わたしは…ちょっと不安です。旅とか、したことなかったですし…」


(女3人寄れば姦しいとはよく言ったものだ…)


現在大地は、半ばハブられる形で1人思考の整理をしながらゆっくりと朝食を味わっていた。


(いよいよ……いよいよこれから本番とも言える冒険になるだろう。ソルトさんやゴードンさんのおかげで正規兵の人たちにも負けない程度には力をつけたが、それはあくまでも『対人戦』の実力…果たしてこれが『人外の存在』に通用するのだろうか?それに水の魔王と水の神の正体、アウグストゥスが俺たちを召喚した本当の理由…まだまだ謎が多いな…無事に乗り越えられるといいが…)


大地が深い思考の渦に飲み込まれようとしたその時、彼の肩を強く叩く感覚がした。


「ダイチ様、せっかくの出立の朝なのです。そのようなお顔ではカオル様方も不安に思ってしまいますぞ?いい男というものは女性に不安を与えないものですぞ?」

「ゴードンさん…」

「ゴードンの言う通りですよ、ダイチ様。貴方はこれから彼女達を引っ張る立場にあるお方。その貴方がそんな不安そうな顔をしていてはいけません。彼女達がこちらを向いていない今のうちにお顔を直しましょう」

「ソルトさん…はい、そうですよね。俺がこんなんじゃあダメですよね!」


不意に後ろから現れたゴードンとソルトの2人が大地の様子を見かねて激励に来たのだった。


「うむ、その意気ですぞ!ダイチ様」

「良い旅路をお祈り致しますよ」


2人は爽やかな笑顔を見せ、それに応じる。


「あ、ソルトさんにゴードンさん!来てくれたんですね!」


2人に気がついた薫がこちらを向く。

それにつられるように美沙とさとみもこちらを向く。


「ええ、カオル様、皆様もご機嫌麗しく。我々は半年も無い短い間とはいえど貴女様方を指導させていただいた身の上。言うなれば師匠になります。可愛い弟子達の旅立ちをどうして無視できましょう?」


ソルトがそういうとゴードンもその通りだと言わんばかりに大きく頷く。


「それから、餞別といってはなんですが、我々からこちらをプレゼントさせていただきます」


そういってゴードンとソルトが取り出したのは四振りの短剣と四本の短杖だった。


「これは私からで旅路の安全を火の神に祈願したもので、火の魔力を込めたイチイの杖。適性がなくとも魔力を込めれば任意の火を起こすことができます」

「そしてこちらは某が。水の魔鉄を使った短剣にございます。短剣として使うも良しですが、コレの真価は魔力を込めると真水を出せるということでしょう。旅において水は貴重。それは海も陸もかわりません」


おもむろにゴードンから貰った短剣を鞘から抜くと薄っすらと青みがかった美しい刃が陽の光を浴びて、より蒼く輝く。試しにグラスに向けて魔力を込めてみれば、たちまち綺麗に透き通った冷たい水がグラスいっぱいに注がれた。


ソルトから貰った杖は一見普通に見えるが、根元には火の神殿の焼印と小さな赤い石が埋め込まれており、触れるとほんのり温かい。ほんの僅かに魔力を込めてみると杖の先端にちょうどマッチでつけたものと同様の火がついた。


「す、凄い!?いいんですか!?こんなに凄いものを頂いてしまって…」

「はい、何と言っても貴女様方は私達の弟子です。その弟子が命を賭けた旅に出るのですから、師匠としてこのくらいはしてあげたいのですよ」

「ええ、恥ずかしながら我らとしてはまだ育てきっていない弟子を旅に出すのは非常に不安。故にせめて少しでもそれを補おうという意味合いもあるのですよ」


薫が申し訳なさそうにいうのに対してゴードンとソルトは愛娘を見るような優しい目をしながら大地達一人一人に言い聞かせるように言う。


「それに……」


ゴードンはすこし躊躇うように濁すと決心をしたような顔をして言う。


「此度の旅は我々で処理しきれぬ問題を全く関係ない勇者様方に願うしか無くなってしまった我々の汚点です。故に皆様には間違いなく無事に生きて帰って頂けねばなりません。故に我々は短いながらも濃密な時間をかけさせていただきました。アウグストゥス閣下からも最大限のサポートを約束されています。どうか…どうか無事のご帰還をお待ちしております」


そう言って2人は深々と頭を下げた。


これは兼ねてからゴードンとソルトが気にしていたことだった。

アウグストゥスは楽天家で皇帝であるが故に多少自己中心的な面を持つため、少々のことでは罪悪感など持たない。しかし元はと言えば一般人であったソルトやゴードンは違っていたのだ。


「「「「……」」」」


大地達は2人の突然の謝罪に戸惑う。


「ゴードンさん…ソルトさん…」


しかし、そんな中でみさとが声をかけた。


「顔を上げてください…わたし達は怒ってはいませんよ?確かに突然こんなところに来て、いつ帰れるのかもわからなくて…とっても困りましたけど、この世界は楽しいです。この世界の人々は暖かいです。わたし達のいた世界には、もうこんな"人の優しさ"を身近に感じることはあまり無くなってます。だからこそ、わたし達に優しくしてくれたソルトさんやゴードンさんに恩返しがしたいんです。だから、この程度なんてことはないですよ?」


これはみさとの強がりでも、嘘でもない純粋な気持ちだった。

人一倍人に優しくする彼女にとって、優しくされることはあまりない。そんな彼女にとっては、見ず知らずの人にさえ優しくしてくれるこの世界の人々の暖かさが心にしみたのだ。


「ありがとうございます、サトミ様。重くのしかかった肩の荷がおりたような心持ちにございます」


ソルトはそう言うとゴードンとともに頭を上げた。

その顔はこれまでになく晴れ晴れとしていた。


その時、部屋の扉が大きな音とともに蹴りあけられる。


「おうおうオメェら!なに湿気ってやがるんだ!?」


そこには重厚な装備に身を包んだジハッドが居た。


「おお!これはこれはジハッド殿!ご無沙汰しております!壮健そうでなにより」

「おう!ゴードンじゃねぇか!拳は鈍ってねぇか?」

「ええ、もちろんですとも」

「そうかそうか!ところでゴードン、ここの勇者のニィちゃん達はテメェの弟子か?」

「さすがはジハッド殿。なんでもお見通しですな」

「よせやい、知ってる奴が見れば一目でわかるわ。ニィちゃんの足運びは独特だがその中にオメェのクセが混じってやがるからな」


そういうとジハッドはガッハハハハ!!と笑い腰につけたビンの酒を呑む。


「そういえばおっちゃん、港に集合って言ってたのになんで城に?」

「ああ?ちと早く起きすぎちまってな、ゴードンやソルトの面見がてらにオメェらを迎えに来てやったのよ!」


大地の疑問にジハッドはこともなげにそう答えるとドカッと椅子に座り持って来た酒を呑み始めた。


「やぁ!みんなおはよう!準備は整ったかい?……ってジハ爺じゃないか!なんでここに?」


メンツが揃った頃にタイミングよくアウグストゥスがあらわれた。アウグストゥスは既に来ているジハッドに驚いてるようだが当の本人は意にも介さずに酒を呑み続けている。


「ジハ爺が早く来るなんて今日は嵐でも来るのかな?」

「あ"あ"?なんか言ったかアス坊?」

「なんでもないさジハ爺!さてそれじゃあみんな!港に行こうか!」


そう言ってアウグストゥスが指を鳴らすとたちまち現れた執事隊が勇者達を馬車まで案内する。


馬車に揺られること数十分。勇者一行と愉快な仲間達は港に着いた。

港には既に立派な帆船が出発の時を今か今かと待ちわびていた。


「うわぁ〜…おっきい船!」

「こんな巨大な帆船があるのねぇ〜」

「すごいですね。わたし達、これに乗るんですよね?」


三人娘は口々に船を見上げつつ感想をもらす。

するとアウグストゥスが得意気に話し始めた。


「素晴らしいだろう!これは我が国が国営で定期運行させている魔導船、『アグニ号』さ!船は常に底部の水の魔導具と上部の風の魔導具の2つを使って航行でき、内部空間は『水避けの結界』が張られているから雨の日でも安心さ!いざとなったら船自体が海に潜って航行もできる優れものなのさ!!」

「この船、潜れるのか!?」


大地が思わず叫ぶ。


「ああ、もちろん!僕もこの船で潜行したまま大陸に行った時は向こうの王様達も目玉が飛び出さんばかりに驚いていたからね!正に、我が帝国の魔導技術は世界一!なのさ!」


わざとらしいほど誇らし気に胸を張り、軽く鼻の下を擦るような仕草をするとアウグストゥスは船の上にいる男に声をかけた。


「やぁ船長!!今日の調子はどうだい?」

「おぉ!!!陛下!!お久しぶりですなぁ!!本日は天候も良く!絶好の船出日和ですぞぉ!!」

「おお!それは重畳だ!今日のお客は我が国の勇者殿達だ!!丁重におもてなししておくれよ!!!」

「アイアイサー!!!聞いたか!?野郎共!!!」


「「「「「アイアイ船長!!!」」」」」


船を震わせんばかりの大声が港中に響き渡る。


「さぁ!勇者くん!行ってきたまえ!!そこには苦難が待つだろう、辛苦を舐めるだろう!しかしそれは何よりも君達の掛け替えのない経験になると私は信じてやまない!!!きっと、きっと君達は偉業を成し遂げ我が国へと帰るだろう!!!武運を祈る!!!」


いつものウザさがなくなり、真剣な表情で正しく皇帝といえる気迫でアウグストゥスは大地達を激励した。


「はい!行ってきますアスおじさん!!」

「アスおじさん!ありがとう!!!」

「行ってきますアスおじさん!!」

「…わたし、頑張ってきます!!!」


大地、美沙、薫、さとみはアウグストゥスの気迫に負けない程の力強い返事を返し、船へと入っていく。


「ニィちゃんらの子守は俺に任せなアス坊。テメェはこの国の事だけ考えてりゃいい。俺が誰だかなんて脳ミソに染み付いてるだろ?」

「…ああ、その通りだね。本当に心強いよジハ爺。それでは…『城下町の大親方ジハッド』殿!!我が国の勇者様の命運、其方に託します!必ずや立派に育て上げて下さい!!!」

「はっ!!このジハッド、しかと受け賜わりました!!アウグストゥス陛下!!」


2人はそう言い互いに敬礼を交わすとジハッドが船へ入っていく。



ーーかくして、大地達勇者一行の冒険が幕を上げた!!ーー




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