水の魔法
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あれから俺らは気絶させたコエトル男爵を縄で縛り、巡回中の衛兵に渡す事でひと段落ついた。
「勇者様方、本日は本当にありがとうございました。あのままでしたら私はロクに対応も出来ぬまま何をされたかわかりません」
ハールさんは俺らにそう言うと深々と頭を下げる。
「あのコエトル男爵は貴族の中でも貴族主義派の人間でして、前々より『クレアやそのほかの巫女を自分に嫁がせろ、そうしなければ神社へ兵を差し向ける』と我々を脅しに来ていたのです」
あの野郎そんな事を言っていたのか…
「もちろん我々は断固反対しておりました。宗教関連は帝国の中でも大きな問題になりやすい故に皇帝直轄地となっていたことを理由にしてより強く反対していたのですが、どうやら我慢ができなくなったか一月前ほどから荒くれ共をけしかけて来ていたのです。それが今日になって『けしかけるのをやめて欲しければ巫女を出せ』などと…」
ハールさんは怒りをこらえるかのようにそういうと、どこか憑き物の取れた顔で俺たちを見てまた丁寧に俺を言ってくれた。
「なにか勇者様方にお礼が出来れば良いのですが…何分ここは神社、御祈祷やお祓い位しか差し上げるものが無いのです。故に勇者様が何か望むことがあれば叶えられる範囲で力をお貸ししましょう」
俺はこの時、前々より聞こうと思っていた事を聞くことにした。
「ハールさんお願いといいますか、なんといいますか…水の神に関する情報をお教え願います」
「それは…」
ハールさんは少し答え辛そうな顔をするがすぐに決意を決めたような顔をする。
「わかりました。しかしそれはかなり危険な話題です。ですからここではなく神殿の中でお話しいたしましょう」
ハールさんは少し声を潜めてそう言うと俺たちを神殿の奥へと案内する。
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俺たちは神殿の奥、地下へと向かっていた。
「ねぇ、大地。アタシたちこれからどこへ連れてかれるのよ?」
「そうだよ大地くん…なんか、だんだん下に行ってるよ?」
さとみさんと薫が小声で聞いて来る。
「俺もなんとなく理由がわかるかもって程度だけどな…でも、たった一つ言えるのは…」
『俺がかなりデリケートな話題に触れてしまった』
と言うことだ。
やがて階段が終わり、目の前に大きな鉄の門が見えてくる。
「さて、皆さんここまでお疲れ様でした。この中で先ほどの質問にお答えしたいと思います。ここまで来た理由を問いたいでしょうがもう暫しお待ちを、それについても触れます故に」
ハールさんはそういうと鉄扉の前で何やら唱え始める。
〈大いなる土よ、そのうちに眠る鋼よ、母なる木に守られし我の願いを聞き届け給え〉
ハールさんがそう唱え終わると、大きな鉄扉はひとりでに開いていく。
「ここならば安全です。さて、ご質問に答える前に勇者様方は『水の聖霊皇様』についてどれほどご存知で?」
「実は、詳しくは契約で話すことは出来ませんが『火の巫女 アルマ』さんからある程度の話をうかがっています」
俺は、ここで隠すと契約に関わる話題が出た時困ると考え正直に知っている事を話した。
「…そうですか、かのアルマ様から。あの方ほど神々に詳しい方は他におられないでしょうね。では私からは、『水の魔法』についての話をしましょう」
ハールさんはそういって一息つくと部屋の中へと俺らを促す。
俺たちが入った部屋は薄暗く、蝋燭の明かりが所々壁に見える、とても広い空間だった。
「今、明かりをつけますので」
ハールさんはそう言うとまた呪文を唱え始める。
〈火の精よ、此の地に明かりを〉
すると天井にあったらしい大きな結晶のようなものが火のように光りだす。
「わぁ、凄い結晶…」
「綺麗ですね…」
「でっか〜ぃ」
薫、さとみさん、美沙はその光景に驚いたようだ。
かく言う俺もこれはちょっと驚いた。
何せ、ちょっとした体育館ほどはあろう大きさの部屋の天井にある明かりは遠目に見ても人より大きいのが明らかなサイズだからだ。
そして部屋に明かりが灯ると、部屋の全容が見える。
そこは『東西南北に大きな龍の像が置かれた部屋』だった。
「ここは『修業の間』といいまして、神官や巫女の修業に用いられる部屋です」
ハールさんの説明を聞き流しながら像を見る。
神殿の像ほどの大きさではなかったが、四体も揃えば圧巻と言えるだろう。
「さて、勇者様方。あなた方が知りたかった『水の神』の像はあちらにあります」
ハールさんが指差す先を見て、俺たちは息を呑んだ。
これまでの像とは全く別の風格を漂わせた像が、そこにはあった。
頭には蒼く輝く見事な4本の角、大きく裂けた口、等間隔で生えている5つの鋭い爪をもった腕。額に輝く蒼い宝玉。そしてその全てが圧倒的な威圧感と風格を伴っていた。
「これは、我々エルフ族の初代の長老が我が主、木の聖霊皇様に連れられエルダーエルフ様と共に四大聖霊皇全てに謁見した際の証言をもとに作成されたものです。おそらくこれが世界にある中で最も正確に『神の姿』を象ったものでしょう」
ハールさんの説明を、俺たちは呆然としつつ聞く。
「神の話はこれくらいにしておきましょう。さて、私がお話しするのは『水の魔法』についてでしたね。勇者様方は、水の魔法はお使いになられますか?」
「いえ、一応みんな適性はあったと思いますがまだ使ったことは無いです」
「そうでしたか、ではちょうどいいかもしれませんね。ちょっとした座学をしましょう」
ハールさんはどこからか座布団っぽいものを持ってきて座る様に言ってくれる。
「さて、皆さんが落ち着かれましたところで簡単に話して行きます。水魔法とは読んで字の通り、水を用いた魔法になります」
そう言うとハールさんは右手の人差し指を立ててその先に水の球を作ってみせる。
「魔力を集め水に変換すればこの様に水が出ますね。ではこの水、どの様な用途があるでしょうか?」
「う〜ん…飲む?」
ハールさんの問いに美沙が答える。
「はははっ、それも一つですね。他にはどうでしょう?」
「たくさん流せば、いろいろ洗ったりも出来るわよね?」
「そうですね、多少適性があればそう言うことも十分に可能ですね」
続いて薫が答えた。
「では、他には?」
「えっと…確かソルトさんは、水は水に関係するものになれるって言ってたから…氷にする…とか?」
そしてさとみさんが答える。
「そうですね、まぁ一般的にはそんなところでしょうね」
ハールさんはそういうと、出していた水の球を消して表情を引き締める。
「この『水の魔法』の秘密を、遥か昔に存在したある魔導士が解明したと言いました。彼が発見したのは『水の魔法』の万能性。あらゆるものに変化し、ありとあらゆるものが水から始まる。これを解き明かしたのです」
水の万能性…確かに、水分はあらゆるものに含まれる。これを魔法で操作できる、と言われれば…
恐ろしいな、単純に考えても凶悪だ。
考えても見て欲しい、この原理で言えば人間の体の70%にもなると言われる水分を自在に操れることになる。
『こちらが何もせずとも、勝手に相手をミイラにする事さえ可能である』と言っている様なものなのだ。
「彼の名はプロイセン。当時ある国の王子であった彼は、その類稀なる水の魔法との相性からあらゆる『水魔法の祖』とも言われます。そして彼の国は魔導大国として大いに繁栄することとなるのです」
確か俺たちの中で一番水の適性が高いのは俺…
その気になれば俺は様々なことができる?
「しかし、彼の国の繁栄はそこまででした。彼は遂に禁忌に手を染めたのです…
彼は常日頃から考えておりました。『水魔法で国に水が枯れぬ湖を作ることは出来ないのか?』と…しかし、人間の宿す魔力量では適性のある人間が何万人集まろうと無理なのです。そこで彼は思いついたのでした。『人間で足りないならば、人間以外から魔力を補えば良い』と」
なるほど、人間で足りなければそれ以外から…か。
「彼も初めは魔結晶から魔力を取り出していました。しかし使い切りの魔結晶では5年の歳月をかけて集めても足りませんでした。そこで彼はまた考えます。『魔結晶で足りないならば、魔力を生み出す存在を、精霊を使えばいい』…その考えは悲しいことに間違いではありませんでした。国中から水の精霊と契約する術者を呼び寄せ魔力を絞り出させます。その結果彼は見事に『水の都』を作り上げたのです」
精霊…何度か聞いてはいたが、あれらは魔力を生み出していたのか。
そして『精霊と契約』…ね。いつか俺もやってみたいもんだね。
「ここで彼が手を引けば良かったのです。しかし一度味をしめてしまった彼はもう立ち止まりませんでした。水の精霊を狩るように集め、精霊が存在を維持できなくなるほど魔力を絞り、そして彼は更に新たな目標…『精霊軍構想』を作り上げたと言われています。精霊軍構想とは、水の神の眷属ーー当時はウンディーネが水の神と思われていましたーーを呼び寄せては従わせて世界を制するつもりでいたのです」
水の神の眷属…たしかアルマさんもそんなことを言ってたような…?
また会えた時に話を聞いてみなくてはな。
「そして彼が水の神の眷属を呼び寄せたその時でした。人々の前に怒り狂う水の神が現れ、彼の国を滅ぼしたのでした。これがいわゆる『水の災厄』ですね。その水の災厄の後、水の精霊が人間の前に姿を現わすことはほとんど無くなり、世界中で7日間に渡る大干ばつが起こり多くの人々が亡くなったそうです。そのため精霊魔法を使う人々の間では水の精霊と契約する際、向こうから持ちかけられない限り何があろうと契約してはならないと言う暗黙のルールが出来上がっているのです」
ハールさんはそこまで言うと
「私の話はここまでです。何故わざわざこの話をこんなところまで来て話したのが、疑問に思ったやもしれませんが、簡単な話です。この国の中で、水の神に関係する話題はタブーとされているのです。しかし我々は宗教に殉ずる者。正しい教えを民衆に広めねはなりません。そのためのささやかな抵抗が、3つの神殿の中央にある噴水なのですよ」
とだけ言い、俺たちとともに地上へ戻った。
なんだか物語が迷走してるような…
頑張って方向修正せねば!
感想お待ちしております。