閑話 赤鋼の剣士
「カハッ…こ、ここは?俺は死んだのか?」
目覚めたハウンドが見たのは木漏れ日の射す大木だった。そこはダンジョンの扉のあった場所からほど近い場所だったはずだがいくら見渡しても扉は無い。
「そうだ…あのゴーレムに俺は…ゴルド!アルス!何処だ!」
とっさに自分の状況を理解するとパーティーメンバーの2人の姿を探す。
2人はハウンドの倒れていた場所からほど近い場所に倒れており、穏やかに息を立てていることから生きているとわかる。
それを確認するとハウンドは「はぁっ」と深い息をはき、安心したようにその場に座り込む。
「生きていてくれたか…しかしアレは夢だったのか?あの洞窟はなんだったんだ?土の神殿と同じ紋様にドワーフの長たちの装飾…」
そうハウンドが考え込むとすぐ後ろで「ドサッ」という重たいものが落ちる音がした。
咄嗟にハウンドは後ろを向くと剣を抜くため腰に手を当てる。しかしそこに剣はない。ゴーレムとの戦いで壊れていたのだ。
「誰だっ!なっ…」
そこにあったのは「赤鋼の長剣」だった。
見紛うはずもなく"あのゴーレム"の持っていた剣である。
「何故ここに?何処から落ちてきた?」
ハウンドは剣を手に取り辺りを見渡すも何もない、すると後ろから今度はうめくような声が聞こえてくる。
振り向くとさっきまで寝ていた2人が身体を起こしていた。
「ゴルド!アルス!大丈夫か!?」
「ハウンド!無事じゃったか!アルスも!」
「ええ、私は大丈夫です。しかしゴルド、あなた確か剣が突き刺さっていたはずでは…?そしてハウンド、その剣はあのゴーレムの剣ですよね?何故あなたが?」
2人もやはり突然の事に困惑している。無理もないだろう、自分は殺されたと思っていたのにもかかわらず痛みもなく生きていたのだから。
「ゴルド、アルス、先ずは状況を整理しよう。まず俺らはあのゴーレムにやられたはずだ。ゴルドとアルスがやられた後俺はあのゴーレムを倒したがその直後気を失ったんだ」
「なるほどの、ワシも同様。魔法を放ち彼奴が寸で避けたのを見た直後に見たのはあの洞窟の天井とワシの腹に突き立つ"その剣"じゃった」
「私はゴルドがやられた後直ぐにハウンドをかばいあのゴーレムに殴られて気を失いました」
そうして3人は状況を整理していく。するとアルスがある事に気がつく。
「そういえば、この森はあの洞窟のあった森…しかもあの洞窟からほど近いはず、しかしあの鉄扉はありませんね…それに今気がついたのですが私達の荷物も私達が倒れていた場所に落ちています」
「そうじゃな、しかしワシの斧鎚は無いの。ハウンド、お主も剣がなくなっておるな」
「ああ、そしてゴルド達が起きる直前にこの剣が何処からか落ちてきたんだ」
「どれ、ちと見せてみぃ?」
そういってハウンドから赤鋼の長剣を借りるとゴルドは眼鏡を掛け剣を鑑定し始める。
鑑定を始めて暫く、ゴルドは驚いたように目を見開きそれと同時に悩むように唸る。
「「どうしたんだ?(です?)ゴルド?」」
2人は中々鑑定結果を言わないゴルドに不安を抱き聞く。
するとゴルドは重たい口を開きゆっくりと喋り出す。
「…ハウンド、アルスよ。この文字を見た事はあるか?」
そういって2人に見せたのは赤鋼の長剣の刃の根元に彫られている文字だった。
妙に角ばっていたりぐにゃぐにゃとしたその文字は何故か見る者に力強さを覚えさせる。
ハウンドはその文字が読めず何を書いてあるのかサッパリだったがそれを見たアルスは表情を変えた。先程まで心配そうな顔をしていたのが急に真剣な顔になり食い入るように剣を見つめる。
「おい、ゴルド。これは何なんだ?俺にはサッパリわからんが…」
ハウンドがそう言いかけるとゴルドが遮るように言う。
「これは"精霊文字"じゃ、それも下位精霊の使うものではなく上位精霊。ここまで力強さを覚える文字じゃ、おそらく最上位精霊。"神霊"と呼ばれる類のものじゃろう」
「精霊文字…?」
「魔法を使わないし神殿にも行かないハウンドはわからなくても当然でしょうが、私やゴルドのような者達にとってその文字が彫られた物は"神から与えられたもの"を意味します。つまりハウンド、あなたは土の神に認められたのです」
「…は?」
ハウンドは突然の事に訳が分からず呆ける。無理も無いだろう、「突然降ってきた剣は神からの贈り物だ」と言われたのだ簡単には信じれまい。特にハウンドはどの神殿も信仰していなかった。ますます状況が飲めないだろう。
「ハウンドよ、ここにはこう書いてある。《勇気ある人間の若者よ、其方の健闘を讃え剣を贈る。今後一層に精進せよ》とな」
「この文字を書いたのが土の神かその眷属様かでその魔力は大きく変動しますがここまで大きな魔力を持つ精霊文字は初めてです。おそらく私が見たものの中で最高位である木の神の眷属、ペガサス様よりもずっと上でしょう。土の神の眷属でそのような神は聞きません、故にこれはおそらく土の神本人のものでしょう」
「ハウンド、お主は今、ドワーフ族にとって特別な存在となった。街へ帰ったら至急土の神の神殿へ行くぞ」
その後2人は脳内回路がショートしたハウンドを担ぎ街へと帰る事にした。
…その頃、その様子を見て笑む龍の姿があった事などその場の誰も知らない。その龍の書く字が異世界の言葉であったなど…たまたま壁に書いた落書きだったりポエムだったりが眷属に覚えられてしまった故の事だったなどそれこそ龍とその仲間以外の誰も知る事など無い。
感想やご指摘、質問などありましたらよろしくお願いします。