竜と卵と聖霊皇と
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これからも「俺らはあの日、聖霊皇になった。」をよろしくお願いします。
火の聖霊皇は火の巫女となったアルマを連れて"ヴォルケイノガフ山"からほど近い所にある龍王ドラゴンの治める"飛龍渓谷"へ来ていた。目的はもちろん孵ったばかりの子龍を見に来たのだ。
「ようこそお越しくださいました主人。それから火の巫女よ。特にもてなしといったこともできず心苦しくはありますがどうぞごゆるりとなさってください」
「堅いっスよ、ドラゴン。だいたい親子みたいなもんなんすからそんな堅苦しい言い方しなくてもいいでしょーに。自分からすれば孫、曾孫を見に来るような感覚なんすから」
「しかし主人。此ればかりは譲れませぬぞ。吾輩にも保たねばならぬ面子というものがございますゆえに。吾輩の眷属の前で吾輩が主人に粗相をなす訳にはいかないのですよ」
「むー…ま、いいっすよ。さて、それではさっそく今年のカワイイ子龍ちゃん達に合わせていただくとしますかね」
「はい、ではこちらへどうぞ」
ドラゴンはそういうと2人を乗せ渓谷の奥へと向かう。
渓谷はかなりの深さがあるものの傾斜が緩く、下に流れる川もそれほど流れの速い川ではない為に龍達が住み着いているのである。龍は元々絶対数が少なく、生まれてくる数も多くない為火の聖霊皇が眷属である龍王ドラゴン達と協力して龍達を増やすべく渓谷を護っているのだ。それでも龍の素材や龍狩りの栄誉を求めてくる人間は少なくないので火の聖霊皇は時折渓谷の様子を見に来るのである。
渓谷の奥には"昇龍の瀧"と呼ばれるかなりの高さがある瀧があり、龍達はその瀧の裏側にある"龍窟"と呼ばれる深い洞で産卵をし、子龍がある程度育つまでは危険の少ない"龍窟"で子育てをする。子龍がある程度育てば"龍窟"より出て"飛龍渓谷"の各々の巣で大人の龍になるまで子龍を育てるのである。
3人が龍窟へ入ると赤や青、緑など様々な色の龍達がちょうど子龍達にご飯を与えている頃であった。龍達はドラゴンと火の聖霊皇が来ているのを見つけると一度ご飯を与えるのをやめ、こちらへ深くお辞儀をしてくる。
「みんないいっすよ、畏まらなくても。子龍ちゃん達がお腹をすかせてるんだからしっかりご飯を食べさせなくちゃいけなからね」
火の聖霊皇がそう声をかけると龍達は「クォン」と一声なくとまた子龍達にご飯をやりに戻る。
「わぁ〜、カワイイ。これが子龍なんですね、聖霊皇様」
「ははっ、そうっすよ?カワイイっすよね?こいつら」
「はいっ!とってもカワイイです!この子たちは何種の龍の赤ちゃんなんですか?」
「そうだね、アルマはまだここへ来て短いからわからないだろうけど、赤い鱗の子達はワイバーン種。青い鱗の子達は飛竜種かな?緑の鱗の子は多分龍だね。あくまで大体であって決まった色というのはないんだけどね」
アルマは初めて見る子龍達に興味津々のようだ。子竜達を眺めることができご機嫌のようだ。
「さてと、ドラゴン。古龍達の方へ案内してくれるかな?今年はかなりの卵が生まれているけどまだ孵化していない卵達がいるんだろう?」
「はっ、流石は主人。見破られましたか」
「報告にあった数よりも子供達の数がいくばか少ないのは見ればわかるからね、それよりもいそごう。あまり孵化を遅らせては子龍に障害が残るだろう」
「わかりました。それではこちらへ」
2人が案内されたのは"龍窟"の最奥。龍の中で最も力の強く知性のある古龍たちが卵を産み子龍を育てる場所である。
「どうぞ主人。こちらです」
ドラゴンにそう言われ中へ行くとまだ孵化していない龍の卵が40ほど集まっていた。
「主人様よ、お願いいたします」
「まぁ、まかせとくっすよ」
火の聖霊皇はそういうと卵たちへ向かい詠唱を始める。
〈古より住まう我が眷属の子孫共よ、火の始祖にして汝が始祖たる我が祝福する。この世に誕生し我に産声を聴かせよ〉
祈るような聴かせるような詠唱を唱えると太陽のような優しい温かさを持った光が卵たちへ降り注ぎ金色の光が卵たちを包む。すると五分と経たぬうちに幾つかの卵にヒビが入り始めやがて全ての卵にヒビが入ると子龍達が元気に生まれてくる。
「ありがとうございます!主人様!これで吾輩の眷属達も喜びますれば」
「いやよかったよ。せっかく生まれてきたのに卵のままで一生を終えるなんてかわいそうだもんね」
「ところで聖霊皇様?」
「なんすか?アルマ?」
「なんでこの子達は自力で産まれてこれなかったんですか?」
「そうだね、じゃあちょっと長くなるけど話そうか」
「これは龍種の特徴の一つでもあってね、龍種が増えにくいのは知ってるだろう?それは龍種個々が強いが故に卵一つにつき親龍は大量の魔力を与えないと子龍は卵の中で体を作れなくて死んでしまうんだ。だから龍種は強い種族なのさ。それでも実は一度龍種が滅びかけたことがあってね…自分はもうそんなものは見たくないから龍達が増えてくれるように孵化の時期になるとこうして祝福をかけて大量の魔力を与えているんだよ」
「そうなんですか…龍と聞くととても強いイメージしかなかったのですが、そんな事あったのですね」
アルマは龍種の弱点を知り、「龍」という最強の存在の意外な脆さを知ったからか産まれたばかりの子龍を抱き抱えると
「がんばって生まれたね、ありがとう」
と慈しむように、愛しむように、そして感謝するように子龍へと囁くのであった。
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