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無能同心  作者: 葉弦
第四章 糸口
30/51

*** とある者の慟哭

 

◇◆◇◆◇






男は暗闇のなかにいた。

 黒、黒、黒───……。

 右を見ても左を見ても、上も下も真っ暗闇。

 その闇は、けっして夜のような温かみのあるものでなく。

 その闇は、けっして目を閉じた時に訪れるような安堵もなく。

 ただただ、ただただ、不安一色に染まった闇だった。

 最初その暗闇は、遠くに見えていた。だが、いつのまにか足下に這い寄ってきていたのだ。

 闇は次第に、足首からねっとりと身体にまとわりつき、身体を包んでいった。そして、じゅくじゅくと身体の内に染み込んでいったのだ。




 ──息苦しい。


 ──助けて。


 ──消さないで。




 何度も何度も叫ぶが、声は誰にも届かない。ついには、暗闇は男自身すべてを飲み込んだ。

 闇に飲み込まれた男に残ったのは、ある執着心だけ。

 その歪な心が、暗闇を呼んだのに、男は気づかない。

 むしろ悦んだ。狂乱と言っていい。

 執着の裏にあった不安が消えたからだ。

 だから男は、闇を歓迎した。

 恐怖心が消えた男は、また欲望を消化したいと願った。

 だが……。

 男は誰かから聞いた。八丁堀の同心が人探しをしていると。それは、女の子だと。

 男はおののいた。同心どもは、自分の身に迫っていると。

 男は決めた。同心を殺してしまおうと。

 男は笑った。

 男は笑った。

 男は嗤った。

 壊れたように、ケラケラケラ。



 ──捕まるわけにはいかないもの。



 だって、捕まってしまえば……。


 この欲心が消えてしまう。

 それが、一番怖い。





◇◆◇◆◇







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