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無能同心  作者: 葉弦
第四章 糸口
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其ノ伍

 今日は大伝馬町界隈の聞き込みをしている。

 だがやはり、おゆい達に似た顔立ちの女の子は見つからない。


「だんだん、どの女の子も同じ顔に見えてくる気がする……」


 つい出た弱音に、辰次が苦笑した。


「まあ、あっしも気を抜くと、皆同じ顔に見えてしまいますからねえ」


 ぽつりと、辰次が言った。


「へ?」

「あ、いや。あ、そこの茶屋で一休みしますか」


 辰次は慌てた様子で茶屋に駆け込んだ。普段はどっしりと構えているのに珍しい。


(辰次は顔を覚えるのが苦手なのかな)


 岡っ引きなのに人の顔を覚えられないと世間に知られるのは困るだろう。確か岡っ引きは、手札を与えている同心から手当を貰っている。だがその同心も多くの手当を貰っているわけではない。三十俵二人扶持だ。使えない岡っ引きだとされれば、実入りも減るのだろう。そうなれば困るのは必至。


(聞かなかったことにしよう)


 鋼之助は、なにかと助けてくれる辰次の秘密は生涯胸に秘めておくと、一人で誓った。


「佐倉の旦那、どうぞ」

「あ、うん」


 辰次に呼ばれて鋼之助は茶屋に入った。格子窓がすぐ横にある席を取っている。

 娘が注文を取りにきて、辰次が応対した。


「茶を二つ。と、何か食べますか?」

「いや、お茶だけで」


 辰次はお茶を二つだけ頼んだ。席に座るまえ、鋼之助は格子窓から外を見た。

 大伝馬町はたくさんの問屋が軒を並べている商業町だ。町並みはとても美しく、絵にしたら、きっと映えるだろう。


(描いてみたいな)


 と、思ったが、慌てて心を引き締める。

 この事件が解決するまで、そんな欲心を出しては駄目だ。下手人はこの江戸で、今ものうのうとしているのだから。


(早く、見つけなければ)


 鋼之助は懐から似顔絵を取り出した。

 似顔絵は微かに微笑んでいる。この笑顔が、今でも親の心に残っているのだ。

 この顔が、二度と苦痛に歪めさせることがあってはならない。


(でも、まだ似ている顔の子がいるのかな?)


 三日前から足を棒にして探しているのに、手がかりは無い。もしかしたら、もういないのではないか。そういう思いも過るのだ。

 それほどこの探索は困難だった。


(下手人は、どれだけの執念を持っているのだろう……)


 この江戸で、四人もの似た顔の女の子を探し出した下手人。なぜ、似た顔立ちの女の子ばかりを狙うのか。

 理由はわからないが、その執念は凄まじい。






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