表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能同心  作者: 葉弦
第四章 糸口
27/51

其ノ参

 片岡と鋼之助の前には、おゆいとおはるを描いた二枚の似顔絵が並べられている。片岡が腕を組んで言う。


「似ているな」

「はい」


 おゆいとおはる。二人は本当に似ていた。顔全体がというわけじゃない。ひとつひとつの部分で似ているところがあり、それが総じて顔立ちが似ているように見えるのだ。


「よし。この絵を、おちなとおみさの両親に見せてみよう」


 そう言うと片岡は二枚の絵を手に取った。


「……事件、進展しますよね?」


 上目使いで鋼之助が訊ねた。似顔絵を描くと言ったのは自分だが、描きあげると、弱音がむくむくと湧いてきたのだ。本当に自分が描いてよかったのだろうか。無理を通したことで、片岡は怒っていないのだろうか。

 たくさんの不安が胸いっぱいに広がっていく。

 そんな鋼之助の胸中を見抜いたのか、片岡が苦笑いを浮かべた。


「おまえは、絵を描いているときは別人だな」

「………」


 顔を真っ赤にして鋼之助は俯いた。似たようなことを、かつて実の父にも言われたことがあったのだ。良い意味で言ったのか、悪い意味で言ったのか、今となってはわからない。


「安心しろ。きっと、事件は解決に向かう」


 明るい声に誘われ、鋼之助は片岡の顔を見た。片岡は満面の笑みを浮かべていた。


「佐倉。おまえさんに、あんなに凄い特技があるとは知らなかったぜ」

「え、あの……」


 真正面から褒めそやされると、身の置き所がなくてむずむずする。つい畳の目をいじってしまっていた。

 すると片岡が妙なことを言い出した。


「これで佐倉さんが、おまえを養子にしたわけがわかった」


 そう言うと、うんうんと深く頷いた。


「あの、どういう意味でしょうか?」


 鋼之助は首を傾げた。


「いやな、佐倉さんは今まで、養子の話はすべて断っていたんだよ」

「え」


 与力や同心はもとより、小身の旗本からの養子の話でさえ、断っていたと言う。


「なのに、ここにきて急に養子を取るといって、おまえを迎えたんだ。これには奉行所の奴らが揃って驚いたんだぜ」

「………」

「だから奉行所の人間は、あの佐倉新八郎が養子にした男がどんな奴か気になっていた。だが……」


 ここで片岡が苦笑した。その意味がわかり、鋼之助も苦笑するしかない。


「こんなに、ひ弱そうな奴が来た、と」

「んん、まあ、あれだ」


 片岡の視線が泳いだ。鋼之助が続けた言葉が当たっていたらしい。流石に正面切っては言わず、言葉を濁した。


「まあでも、ようやくわかった。佐倉さんは、おまえさんの絵の腕前を買ったのだな」

「………」


 そうではないと、鋼之助は思っていた。

 鋼之助が佐倉家の養子になったのは、父が関与したからだ。

 大身の旗本であった父と、町奉行所の同心だった新八郎に、どんな繋がりがあるのかは知らない。何の前触れもなく父に呼ばれ、養子に行くことになったのだ。新八郎はきっと、鋼之助が絵を描くことも知らないのではないだろうか。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ