其ノ参
片岡と鋼之助の前には、おゆいとおはるを描いた二枚の似顔絵が並べられている。片岡が腕を組んで言う。
「似ているな」
「はい」
おゆいとおはる。二人は本当に似ていた。顔全体がというわけじゃない。ひとつひとつの部分で似ているところがあり、それが総じて顔立ちが似ているように見えるのだ。
「よし。この絵を、おちなとおみさの両親に見せてみよう」
そう言うと片岡は二枚の絵を手に取った。
「……事件、進展しますよね?」
上目使いで鋼之助が訊ねた。似顔絵を描くと言ったのは自分だが、描きあげると、弱音がむくむくと湧いてきたのだ。本当に自分が描いてよかったのだろうか。無理を通したことで、片岡は怒っていないのだろうか。
たくさんの不安が胸いっぱいに広がっていく。
そんな鋼之助の胸中を見抜いたのか、片岡が苦笑いを浮かべた。
「おまえは、絵を描いているときは別人だな」
「………」
顔を真っ赤にして鋼之助は俯いた。似たようなことを、かつて実の父にも言われたことがあったのだ。良い意味で言ったのか、悪い意味で言ったのか、今となってはわからない。
「安心しろ。きっと、事件は解決に向かう」
明るい声に誘われ、鋼之助は片岡の顔を見た。片岡は満面の笑みを浮かべていた。
「佐倉。おまえさんに、あんなに凄い特技があるとは知らなかったぜ」
「え、あの……」
真正面から褒めそやされると、身の置き所がなくてむずむずする。つい畳の目をいじってしまっていた。
すると片岡が妙なことを言い出した。
「これで佐倉さんが、おまえを養子にしたわけがわかった」
そう言うと、うんうんと深く頷いた。
「あの、どういう意味でしょうか?」
鋼之助は首を傾げた。
「いやな、佐倉さんは今まで、養子の話はすべて断っていたんだよ」
「え」
与力や同心はもとより、小身の旗本からの養子の話でさえ、断っていたと言う。
「なのに、ここにきて急に養子を取るといって、おまえを迎えたんだ。これには奉行所の奴らが揃って驚いたんだぜ」
「………」
「だから奉行所の人間は、あの佐倉新八郎が養子にした男がどんな奴か気になっていた。だが……」
ここで片岡が苦笑した。その意味がわかり、鋼之助も苦笑するしかない。
「こんなに、ひ弱そうな奴が来た、と」
「んん、まあ、あれだ」
片岡の視線が泳いだ。鋼之助が続けた言葉が当たっていたらしい。流石に正面切っては言わず、言葉を濁した。
「まあでも、ようやくわかった。佐倉さんは、おまえさんの絵の腕前を買ったのだな」
「………」
そうではないと、鋼之助は思っていた。
鋼之助が佐倉家の養子になったのは、父が関与したからだ。
大身の旗本であった父と、町奉行所の同心だった新八郎に、どんな繋がりがあるのかは知らない。何の前触れもなく父に呼ばれ、養子に行くことになったのだ。新八郎はきっと、鋼之助が絵を描くことも知らないのではないだろうか。