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無能同心  作者: 葉弦
第二章 初めての事件
13/51

*** とある者の悔恨と

◇◆◇◆◇




また、やってしまったと、男は頭を抱えた。

 ひゅー、ひゅーと、荒い息が絶え間なくはき出される。暑いのか寒いのかわからない。なのに汗が吹き出ていく。

 男の側には、息をしていない小さな女の子が裸で転がっていた。

 汚れてしまった身体。

 命の灯火が消えたその肉塊は、まるで糸が切れた操り人形のようだった。無惨にも、ぺたりと地面に落ちた人形。

 その首には、女の子の物だった黄色の帯が巻きついている。

 男は、両手を広げて見た。

 普通の手だった。

 この手が女の子を犯し、この手が首を絞めて殺した。

 男はうめいた。地面に頭を擦りつけ、むせび泣いている。

 どうして、こんなことになってしまったのか。


 どうして。

 どうして。

 どうして。


 何度も自分に問いかけるが、答えは返ってこない。

 自分の心なのに、言うことを聞いてくれないのだ。まるで別の心が身体に住み着いてしまったみたいに。

 ああ、それならば、その心は、まさに『鬼の心』だ。

 それは、どんどん強くなる。女の子を手にかけると、しばらくは大丈夫。だが時が経つと、またむくむくと『鬼の心』が起きあがる。

 そうして、また心に平穏をもたらすために、女の子を襲う。

 いつのまにか、今この身体にあるのが『己の心』なのか『鬼の心』なのか、わからなくなっていた。

 心を鎮めるためにではなく、心が欲するままに女の子を求めていた。

 そして、今回も。

 男は静かに、くらい笑いで、口角を上げた。

 さっきまでの後悔に彩られた顔は、消え失せている。

 そんな男の身体を、底無し沼のような暗い闇が包んだ。

 そして、じわりと男のなかに、吸い込まれていった。




◇◆◇◆◇






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