*** とある者の悔恨と
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また、やってしまったと、男は頭を抱えた。
ひゅー、ひゅーと、荒い息が絶え間なくはき出される。暑いのか寒いのかわからない。なのに汗が吹き出ていく。
男の側には、息をしていない小さな女の子が裸で転がっていた。
汚れてしまった身体。
命の灯火が消えたその肉塊は、まるで糸が切れた操り人形のようだった。無惨にも、ぺたりと地面に落ちた人形。
その首には、女の子の物だった黄色の帯が巻きついている。
男は、両手を広げて見た。
普通の手だった。
この手が女の子を犯し、この手が首を絞めて殺した。
男は呻いた。地面に頭を擦りつけ、むせび泣いている。
どうして、こんなことになってしまったのか。
どうして。
どうして。
どうして。
何度も自分に問いかけるが、答えは返ってこない。
自分の心なのに、言うことを聞いてくれないのだ。まるで別の心が身体に住み着いてしまったみたいに。
ああ、それならば、その心は、まさに『鬼の心』だ。
それは、どんどん強くなる。女の子を手にかけると、しばらくは大丈夫。だが時が経つと、またむくむくと『鬼の心』が起きあがる。
そうして、また心に平穏をもたらすために、女の子を襲う。
いつのまにか、今この身体にあるのが『己の心』なのか『鬼の心』なのか、わからなくなっていた。
心を鎮めるためにではなく、心が欲するままに女の子を求めていた。
そして、今回も。
男は静かに、暝い笑いで、口角を上げた。
さっきまでの後悔に彩られた顔は、消え失せている。
そんな男の身体を、底無し沼のような暗い闇が包んだ。
そして、じわりと男のなかに、吸い込まれていった。
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