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True-end  作者: 秀田ごんぞう
第二章   ――歯車のスイッチ――
13/30

白装束の追跡


「――なんで俺だけ坊主なんだよ!」

 釣り糸を垂れること数刻。

 すでにルーフとナナシはそれなりの釣果をあげていた。ルーフは五匹、ナナシは二匹釣り上げた。二人とも、魚に串を刺したり、塩を振ったりして、もう魚を焼き始めている。

 そんな二人とは対照的にエンジュはじーっと浮を見つめているだけだった。水面に浮かぶ浮がピクリと動く事は一度も無く、エンジュ一人が坊主であった。坊主というのは一匹も釣れないことを示す釣り用語である。三人の中で一番張り切っていたエンジュが一番釣れないというのはなんとも皮肉であった。しかし、ここで諦めては男がすたる。そういうわけでエンジュは美味しそうに焼き魚を頬張る二人を尻目に、水面に浮かぶ浮をじっと見つめていたのだった。

 香ばしい匂いが漂う中、ルーフがつぶやく。

「ねぇ、エンジュも食べようよ! おいしいよ~」

「うるさいルーフ! 俺は、その……腹減ってないんだよ!」

 と、言った途端にぐーっという音が虚しく辺りに響く。

「ち、ちがっ! 今のは!」

 赤面しながら言うエンジュ。ナナシは呆れた顔でエンジュにこんがり焼きあがった魚を一匹差し出す。

「あのね……いつまでも強情這ってないでさっさと食べなさいよね! んとに面倒くさいんだから」

「ちっ、うるさいな! しょうがないから貰ってやるよ!」

 エンジュは不遜な物言いでひったくるように焼き魚を取った。欲望の赴くままに魚にかぶりつく。こんがりと焼けた魚の匂いが鼻の中を満たしていく。かじったとたんに油がとろけだし、塩味の効いた魚の旨味が口の中に広がっていく。

「……う、うまい……うまいぃぃッ~!」

 いつしかエンジュは泣きながら夢中で焼き魚を食べていた。そんなエンジュの様子を見て、ルーフとナナシは顔を見合わせて笑いあうのだった。

 穏やかな昼食。川のせせらぎがなんだかとっても心地よい。

いつも通りの楽しいひと時。風は優しく髪を撫でていく。

 しかし、穏やかな雰囲気をぶち壊しにするような音がした。直後、木に立てかけていた竿がぼきりと折れてしまった。

「な、なんだ!?」

 突然の出来事にエンジュは驚く。

 ナナシはきっ、と鋭くなった目つきで向こうの木陰を凝視する。そして、すぐにエンジュとルーフの手を取って駆けだした。

「な、ナナシどうしたの? ぼく、まだ食べてる途中なんだけど……」

 目の前の焼き魚にすっかり夢中になっていたルーフは、暢気にそんなことを言う。

「いいから走って! さっき……向こうの木陰に人影を見たの。何者かはわからないけど、私たちを狙ってる」

「はぁ? なんだって俺たちを……」

 エンジュがそうつぶやいた瞬間、発砲音がして彼の耳たぶを銃弾が掠めていった。

「あっぶね~! なんなんだよっ!?」

「急いで! ここは見晴らしが良すぎるから、もっと身を隠しやすい場所に逃げないと!」

「あ、それなら……」

 走りながらルーフが言った。なおも焼き魚を手にしているが、そんなことに構っている場合ではない。

「エンジュ……秘密基地を見つけたって言ってなかった?」

「秘密基地?」

 ナナシが尋ねると、エンジュが得意気に答える。

「へっ、お前は知らないだろうがな……ひそかに秘密のアジトを見つけたんだ。ナナシから隠れるのにはもってこいだったんだが……こんな使い方をするなんてな……」

「……今はそんなこと言ってる場合じゃないわ。その場所は?」

「すぐそこ……あそこだ!」

 エンジュの言う秘密基地は、すぐ目と鼻の先にあった。

 霜の山脈のふもとに出来た横穴である。

 洞窟内部に詳しいエンジュの後に続いて、ルーフとナナシは洞窟の中に入っていく。


   ◆


 林の中で三人が洞窟に入っていくのを見届けた男は近くの仲間に合図する。

 そこに真っ白な祈祷衣を羽織った長髭男と、白装束の老紳士がやって来る。彼らの後ろには同様に白装束を羽織った男たちが続く。

「どうだ、魔女はいたか?」

「はい、確かに。ただガキが二人くっついています。魔女だけを狙撃するのはなかなか難しく……」

 男が言い終わらないうちに、老紳士は懐から取り出した拳銃を取り出し、銃口を男の額に押し当てる。無表情のまま語気を強めて言う。

「誰がそんなこと命じた?」

「え……」

「子供二人の命など、どうでもいい。魔女の抹殺。それだけが大神官様の命令だ。これは世界を救うために必要なことなのだ。いいか、大勢の民を救うためには多少の犠牲は止むを得んのだ!」

「しかし、相手は子供――」

 乾いた音がして銃弾が打ち出される。硝煙が辺りに散り、男の額は粘土みたいに簡単にひしゃげて、それから物言わぬ物体となった。

「スゲースよ。あまりむやみやたらに発砲するものではない。銃弾が勿体無いではないか」

「ほっほ、フォズ様の言うとおりですね。少し、興奮しすぎまして」

「まあ、よい。スゲース、銃をよこせ。奴は私自らの手で葬る。貴様には補助を命じる」

「御意に」

「世界を破滅に陥れる咎人め……。だが、それも今日で終わる。ククク……」

 真っ白のローブを羽織った男達――教団が三人の後を追って洞窟に入っていく。彼らが身につけていた白いローブは、赤くべとついた血ですっかり赤く染まっていた。


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