Prologue
――チクタク。チクタク。
時計の針はよどみなく動いている。
針は決して流れに逆らわない。
常に一定の速度で回り続け、現実という名の時を刻み続ける。
――チクタク。チクタク。
時計の針はよどみなく動いている。
彼は剣を振っていた。遠い日の過去を振り払うかのように、一心に剣を振り続けた。
剣閃は何を捉えるでもなく、虚空を薙ぐばかりだった。
――チクタク。チクタク。
時計の針はよどみなく動いている。
窓辺から入って来る風がやわらかに彼女の髪を揺らす。
彼女は遠い日の自分を思い出して、短く息を吐いた。
――チクタク。チクタク。
時計の針はよどみなく動いている。
彼は樹を見つめていた。何をするでもなく、ただじっと樹を見つめていた。
遠い日に消えた人の姿を重ねて、眼前の樹をじっと見つめていた。
――チクタク。チクタ……。
時計の針はよどみなく動……かない。
針が流れに逆らい、ぴたりと止まる。
その瞬間、世界はまっしろになって、やがて……消えた。
久しぶりの長編投稿です。今回はプロローグなので短いですが、割りと長めの物語だと思います。最後まで読んでくれればと思います。




