5-2
マンションに戻る頃には街は夕闇に包まれていた。
真由は雫の遺言状の件がよほどショックだったらしく何も話そうとしない。真由の気持ちを考えると無理もない。いくら遺産が入るといっても、それは心から信頼していた雫の死によるものなのだ。大切に思っていた人の死による遺産相続など素直に喜べるはずがない。
尚子も無理に話し掛けようとはしなかった。今はどんなに苦しくても、それを乗り越えなければならない。それには時間を必要とするだろう。
二人は黙ったまま部屋に戻った。
ドアを開けて、尚子ははっとした。
恭子の靴が置かれている。
「恭子……いるの?」
声をかけると部屋のドアが開き、恭子が顔を出した。
「あれ? お姉ちゃん、仕事……じゃなかったの?」
恭子は怪訝そうな顔で尚子を見た。そして、真由に視線を向ける。「その子……誰なの?」
「私が担当してる杜野雫先生のところで働いてる本条真由ちゃん……昨日、先生が殺されたの」
「え? 殺された?」
驚いたように恭子も顔を強張らせる。
「それで真由ちゃん、しばらく家にいてもらおうかと思って」
「なんか……大変だったんだね」
「恭子、昨夜はどこ行ってたの?」
「うん……ちょっと友達のとこ」
恭子はあまり尚子の顔をまともに見ようとはしない。
「今日はうちにいるんでしょ?」
「一応、そのつもり……でも、3人じゃ部屋狭いんじゃない? 私、友達のとこ行こうか?」
「あ、すいません……私がお邪魔したばっかりに――」
「いいのよ、真由ちゃん。いくら狭いからって3人くらい泊まれるわよ。恭子も変な気を使わなくていいから」
正直言ってむしろ真由がいることに尚子はほっとしていた。そして、それは恭子にとっても同じだったようだ。口には出さないが、恭子も尚子と二人きりになるのは居心地が悪いのかもしれない。
「そういえば、さっきお姉ちゃんを訪ねて警察の人が来たよ。ひょっとしてその事件のことだったのかな?」
「ええ、桜木さんって人?」
「――だったと思う。なんか疲れた感じのおじさんだった」
やはり桜木だろう。何か新しいことがわかったのだろうか。それとも単なる事情聴取だろうか。




