4-12
警察が現場検証を終える頃には夜が明け始めていた。
一つ家のなかでの連続殺人事件、しかもそれが人気作家ということで家の前には早くも多くのテレビカメラが並び、ワイドショーのレポーターらしい人々で溢れている。先日、雄一郎が殺された時よりも報道陣の数は増えている。
尚子は真由に血のついた服を着替えさせると、真由を連れ裏口からこっそりと抜け出した。タクシーを拾い尚子のマンションへと向かう。真由はわずかな着替えだけをボストンバッグに入れ、尚子に着いて来た。
雄一郎、雫の二人が続けざまに殺されたこの家に真由一人を残しておく気分にはなれなかった。弁護士の沢登も、尚子と同じように感じたらしく、真由に家に来るように誘ってくれたが、さすがに沢登の家に行く事は真由にとっては敷居が高かったようで、尚子が真由を連れ帰ることに決めたのだ。
昼過ぎには池袋にある弁護士の沢登の事務所に真由を連れて行くことになっている。今後のことを話したい、と沢登は言っていた。
マンションに着くと、恭子の姿はなかった。
また友達のところに泊まりに行ったのかもしれない。恭子も自分と顔を合わせるのがおっくうなのかもしれない。
真由はすっかり疲れ果てた顔をしてうな垂れている。この2年間、まるで実の両親のように可愛がってくれた雄一郎と雫を続けざまに失ったのだから無理もない。
「真由ちゃん、これに着替えて」
尚子は先日買ったばかりのパジャマを真由に手渡した。
「え?」
「眠ったほうがいいわ」
「……でも……」
「だめよ。少しでも寝ておかないと身体がもたないわよ」
そう言って尚子は真由に精神安定剤のカプセルを1錠渡した。薬に頼るのはあまり好きではなかったが、今はそんなことも言っていられないだろう。今の状況では尚子自身も眠れる自信は無い。少しでも気持ちを落ち着けて眠らせたほうがいいだろう。
真由はキッチンに行くと素直にカプセルを水で流し込んだ。尚子も1錠、薬を飲む。
「さ、着替えてベッドに寝てて」
沢登との約束は午後1時からだから、10時頃までは眠れるだろう。尚子は目覚し時計を10時半にセットするとテーブルの上に置いた。真由は尚子の言葉に従い、ベッドに横たわり目を閉じている。
尚子は睡魔が訪れるのを待つ間、ノートパソコンを立ち上げ、財部に事情を説明するメールを打った。ノートパソコンを閉じると、尚子はソファに横たわった。真由はすでに薬が効きはじめたのか、静かに寝息をたてはじめている。
尚子もほんの少し頭の芯が揺らぎ始めている。滅多に薬を口にしないせいか、やけに薬の効き目が早い。
(薬?)
ふと尚子の頭のなかに一つの疑問が湧き上がる。
雫も精神安定剤を飲んでいた。市販のものではない雄一郎が調合してくれたものを。
そう……いつも雄一郎の指示で時間を決めて飲んでいた。
なぜ、そのことが気になるのだろう。
薬……
頭のなかがぼんやりとし始める。
脳が睡魔に飲み込まれていく。




