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携帯の電話の音で目が覚めた。
すでに部屋のなかに太陽の日差しが射し込んでいる。
(朝……?)
まだ、ぼんやりした頭で今の自分の状況を確認する。ほんのちょっと身体を休めるつもりが、いつの間にかそのまま眠り込んでしまったらしい。
それを思い出すと同時に、昨夜の記憶も蘇ってきた。
(あれは夢じゃなかったんだ)
たちまち気分が重くなってくる。
携帯電話がバッグの中で鳴りつづけている。
皺になったスカートを気にしながら、尚子はバッグのなかの携帯電話を取り出した。
――浅井か?
財部の声だ。
「ええ……どうしたんです?」
頭の芯がぼんやりしている。まだとても眠り足りない。だが、これからまた眠る事が出来るとは思えなかった。
――どうしたってことはないだろ。もう昼になるんだぞ
「は?」
――仕事だって言ってるんだ。
「そんな……昨夜のことを忘れたわけじゃないでしょ」
――だからといっておまえがそこで休んでいてもしかたないだろ。
「それはそうですけど……」
――何も会社に出ろと言ってるわけじゃない。雫先生のところに行ってやれ。
その言葉に目が覚める気がした。
雫は財部の気遣いを感じた。確かに今一番辛いのは雫のはずだ。自分など事件の単なる関係者でしかない。
「わかりました。急いで雫先生のところに行きます」
――頼んだぞ。こういう時に力になってやるのも編集者の仕事だからな。
「はい」
財部は編集者の仕事と言ったが、尚子は作家と編集者としての関係ではなく、一人の人間として雫に何かしてあげたいと思った。
電話を切って立ち上がると、隣の部屋に続く襖が開いているのが見えた。
「恭子?」
覗きこんでみてもすでに恭子の姿はなく、布団もきちんとあげられている。既にどこかに出かけたようだ。
すでに昼近い。
――ちょっと相談があって。
昨夜の恭子の言葉が気にかかった。恭子が尚子を訪ねてきて一週間以上になる。何か事情があって来ていることは想像していたが、仕事が忙しかったこともあってまともに話もしなかった。きっと恭子もやっと話す気になったのだろう。
(今夜にでも改めて聞いてみよう)
そう心に決めて出かける支度をはじめた。