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日曜の朝、尚子はパジャマ姿のまま窓を開けて真っ青な空を見上げた。
「気持ちいい」
ぐんと両腕を上に突き上げ、背伸びをした。こういう空を見ると表に出て意味もなく歩きたくなる。だから如月に田舎者だと笑われるのだ。
すでに11時を過ぎている。
今日は、予定通り雫の誕生パーティーが行われる。パーティーが始まるのは夕方の6時からだが、早めに手伝いに行くつもりでいる。
「恭子」
襖を開けて隣を覗くと恭子はまだ布団のなかで丸まっている。この6畳の部屋をすっかり自分のものと決めてしまったようだ。このままここに居着いてしまうつもりなのだろうか。尚子自身は一向に構わないが、両親のことを考えると気が重くなる。両親は恭子が家を出るようなことは絶対許さないだろう。
尚子は枕もとにしゃがみこんだ。
「恭子!」
少し声を大きくして呼ぶと、恭子は眉をしかめて、目を半分開けた。寝ぼけたような目で尚子を見あげる。
「なに……?」
「なに、じゃないわよ。もう11時過ぎてるのよ。私、午後から出かけるからね」
「……うん……今日も仕事なの?」
「昨夜、話したでしょ。担当してる先生の誕生パーティーがあるの。夕方からって言われてるけど、手伝わなきゃいけないでしょ」
「ふぅん、大変なのね」
そう言いながら恭子は額を押さえながら起き上がった。「頭痛いなあ」
恭子は昨夜、東京の大学に通っている高校時代の友達と飲みに行き、深夜になって酔っ払って帰ってきていた。
「何言ってるのよ。未成年のくせにあんなに酔っ払って帰ってきて」
「いまどき二十歳になるまでお酒飲まない人なんていないわよ」
そう言って恭子は大きく欠伸をした。
「私、飲まなかったわよ」
「お姉ちゃんの場合は飲まなかったんじゃなくて、飲めなかったんでしょ。少しは飲めるようになったの?」
尚子はアルコールがほとんど飲めない体質だった。ほんのビール一杯飲んだだけでも顔が真っ赤になる。実の父も同じだったらしい。
「お酒なんて飲めなくたって苦労はしないわ」
「そお? 仕事のときとか勧められてて困るって前に言ってたじゃないの」
「まあ……それはそうね」
尚子は苦笑いした。
「有名作家の誕生パーティーかぁ。どんなのかな?」
「さあ……人によってはすっごい豪勢なことをやる人もいるらしいけど、雫先生は今までパーティーなんてやったことないし、それに今までお世話になった人を何人か招いての食事会だって言ってたわよ」
「私も行ってみたいな。だめ?」
羨ましそうに尚子を見る。
「だめに決まってるでしょ」
そう言って尚子は立ち上がった。「そろそろ着替えないとなぁ」
「何着ていくの? パーティーなんでしょ? ドレスなんて持ってるの?」
「やだ、止めてよ。そんなの持ってるわけないじゃないの。普通にスーツ着ていくだけよ」
「どんな?」
「グレーのパンツスーツ」
「えー、そんなのつまんない」たちまち恭子は非難の声をあげた。
「つまんないって言ったって……」
「もう少し明るい感じのってないの? 赤とかピンクとか」
「そんなのあるわけないじゃないの」
「お姉ちゃん、地味だもんねえ。どれ、私に見せてみて」
恭子は立ち上がると洋服ダンスを開けて覗き始めた。