九話
支部に戻ると、支部内は閑散としていた。朝出てきた時とは比べ物にならないほど人が少ない。
「モニタールームに急げ」
そう、ワンが支部に不慣れな二人を先導し、地下へと続く階段を下り、重たい両開きの鉄扉を押し開けると。
暗い部屋の中で、無数に稼働するモニターの光が出迎えてくれた。
「ワン……、よく帰ってこられたな」
三人が入ってきた音を聞きつけ、シェイプが振り返る。
「零がな」
そうワンは視線で答える、零はまだ本調子ではないようでふらついている。
「バロールか、まだ新しいシンドロームだな、なかなかお目にかかれない」
そうシェイプは言うとPCを操作しモニターに映像を映し出す。
「これを見てくれ」
モニターに映し出されたのはS市中央区の地図。そして三か所に赤い円が記されていた。
「これは?」
零が、モニターを詳しく見ようと、一歩近寄る。
赤い円は駅と大通り、そして図書館を囲っていて、図書館の円がほかの二つより大きい。
「同時多発的に、レネゲイドビーングの戦闘部隊が出現した。このままでは町の人間に被害がでる、レネゲイドの存在がばれてしまう」
そう、シェイプが説明する。
「アルタイルをはじめとする戦闘専門のエージェントが全てで払っているタイミングでの奇襲。やられたよ」
シェイプは苦虫をかみつぶしたような表情で三人に告げる。
「奴らを倒してきてほしい、君達しかいないんだ」
モニターを黙って見つめていたワンは、何かに気付いたように眉にしわを寄せ。シェイプに向き直る。
「紅姫様はどうしているんだ?」
零もワンの言わんとしていることに気が付き、言葉を足す。
「これがもし敵の作戦で、紅姫を一人にしてしまったら」
「搖動ということも考えられる」
そんな二人の前に鉄男が割って入る。その手には先ほど呼んだ紙面が握られていた。
「これを見せておいた方がいいかもしれない。もう、かなり、危ない状況だぞ」
紙には「もう、姫様はもう用済みだ」そう書かれていた。
全員が苦虫を噛み潰したような顔をする。この紙の真意が読めない。
「にしても、「もう」とはどういうことだ」
ワンが口を開く。
「使われていた?」
零が疑問を訂する。
「紅姫はいったい何をしていたんだ」
「それを聞きに行かなくてはならない!」
そう、鉄男が拳を振り上げる。
「お前も知らないのかよ」
鉄男は目を閉じ不敵な笑みを浮かべた。
「いや、知ってる。まさかあれが、ふーんそうか。まさかな、ふっ」
「思い当たることがあるなら言ってほしい、それが姫様の命を救うかもしれない」
「いや、皆を混乱させたくない。直接話を聞いた方が早いだろう」
そう駆けだす鉄男を、半信半疑な表情で二人は追いかけた。
* *
鉄のごとき固さを持つ男(自称)鉄男は、アイアンマンもびっくりする速さで廊下を駆け抜け、二人の前から姿を消してしまった。
「早い……。さすがオーヴァード」
零がふらふらになりながら壁にもたれかかった、もう走れないという意志表示。
「それにしてもだ、零。お前には今後の作戦を話しておこうと思う」
ワンも同じだった。そもそも八階の最上階にかくまわれている紅姫の元へ、エレベータを使わずに迎えに行こうというのが常軌を逸していた。
「なんで、俺だけ」
「理由は簡単だ、鉄男は人の話を聞かなそうだからだ」
「納得……」
そう三人は長い階段をひたすらの上る。
「今この町を守れる戦闘員は、俺たち三人しかいないんだ、だから姫様も一緒に行動したほうが安全だと思う」
「でも、俺らが戦場に赴くのに、それに連れて行っていいのか、それこそ思う壺じゃ?」
「俺は姫様の命を守るためなら、手段を択ばない。だから大丈夫だ」
そう話し終えるとワンは走り始める。悪態をつきながら零もそれに続いた。
そして二人は到着するS市支部の最上階、紅姫の部屋の前に。
そして、なぜか先に到着したはずの鉄男が中に入らず息を殺していた
「どうした鉄男」
「……話してる、誰かと。紅姫が」
「なんで、あんた原始人みたいに話すんだ」
零が鉄男をまねて、扉に耳を押し当ててみると、かすかに声が聞こえる。
「葵……。だめよ。葵」
「鉄男。突入だ!」
ワンが叫ぶ。
「ほいさ」