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八話


 S湾、そのうち捨てられた廃墟の一角に三人は集まっていた。

「どうやらここのようだな」

「黄泉彦がここに、黄泉彦!」

零が声を張り上げる。

「やめろ、さすがにそれは危険すぎる、黄泉彦だけがいるとは限らない。慎重に行動したほうがいいのではないか?」

「ならどうすんだよ」

「それは、ここで鉄男が体を使って示してくれるのではないか?」

蝶々を眺めていた鉄男が、はじかれたように反応した。

「この鉄男は体がやたら頑丈なんだ」

「アンタら初対面じゃないのか」

「だいたい紅姫に聞いた、イヤ嘘だ、ごめん」

「謝るならそんなこと言うんじゃねぇよ」

 その時鉄男が重い腰を上げる。その巨体で二人を見下ろし静かに告げた。

「……あながち間違いではない」

 鉄男が神妙な顔でうなづく。

「よし、ではその力を使って、中にこっそり入ってくれ」

「こっそり、はいれるのか?」

「…………」

「中の様子がわかればよいのだが」

「待ってくれ、俺ができるかもしれない」

「なに?」

 零は目を閉じる、すると周囲の小石や釘がわずかに宙にうき、零の姿が陰炎越しに見たように歪む。

「見える……」

*[零:バロールエフェクト:偏差把握]*

「なぜわかる?」

「動いてるものがあったらわかるんだ、自分の神経を伸ばしてる感覚だ」

「力に目覚め始めたようだな……」

 零は確実に力の使いかたを覚えていた。それは重力というベクトルで発現し。周囲を把握する力となった。

「バロール、だな」

「ちょっと待ってくれ、何かおかしい。黄泉彦は本当にここにいるのか? 誰もいないぞ」

 零が目を開くなりそう言った・

「鉄男、中に突入だ」

「おうよ、ドーン」

 鉄男は、UGNの窓を割った時のようにためらいなく、扉をぶち破り、中に侵入する。

 そして三人が中を見渡すと。

 だだっ広い倉庫の真ん中に豪奢な椅子。それ以外は何もなかった。

そして椅子の上に紙が乗っている。

「鉄男、紙には何が書いてある?」

 紙の切れ端というべき大きさのそれを鉄男は拾い上げ、内容に目を通す。

 その時、鉄男の雰囲気が明らかに変わった、目を見開き、紙片に書かれている内容を読んでいるとは考えにくいほど長い時間、穴が開くくらいにその紙を凝視していた。

「……」

「おいあんた、何が」

「何が書かれてた」

 二人が同時に声をかける。

「そんな重要なことが書かれていたのか」

「そ、そそ、そういう…………」

「紙を見せて見ろ」

 その時、ワンの携帯電話が震えた。それにワンコールで出る。

「どうした、シェイプ。何か用か?」

 そしてワンは息を飲む。そして電話を強く握りしめた

「わかった」

 そう、一言だけ告げ、ワンは電話を切り、混乱する二人に向き直る。

「町が、FHに強襲されているそうだ」

「なんだって!」

「早く町に戻らなければならない。だがここから町の中心部に戻るには数時間かかる。このままでは……」

「それなら、俺に任せてくれ。何とかできるかもしれない」

 零が一歩前に進み出る。

「本当か!」

「俺の力なら……」

 そう零は、右手を前につきだし。見えない何かをねじ切るような、ドアノブを回すような動作をした。すると目の前の空間が歪んだ、先ほど零が纏った陰炎とは比べ物にならないほど、はっきりと空間が歪む、空気が吸い込まれ風が生まれる。

「短期間でそれほどまでの力を会得した、さすがだな、零」

 バロールとは、本来重力を操る能力だ。そして重力は空間を捻じ曲げ、時の流れ方も変える。

 すなわち、バロールの力を行使する者は、間接的に、時間と空間にも干渉する力を持つということだ。

 そして零は、バロールのピュアブリード。

 その力に不純物がない故に研ぎ澄まされ強力だ。

「友達が、町が危ないなら」

 歪んだ空間が黒くひずむ。光を飲み込む闇の口がその場にぽっかり浮かび、バチバチと電気を散らす。

「なんとかするしかないだろ」

 零の額に脂汗が浮かび、ひざががくがくと震えた、相当な負担が零の体にかかっている。

 だがそんなのは当たり前だ、昨日まではこんなこと現実に起こり得るとすら思わなかった高校生が。

 今、自分の感覚だけを頼りに、物理法則に穴をあけ。町まで戻る道を創ろうとしているのだから

「俺の、この力で!」

 そんな、周囲の人間を思う気持ちが、零の力を急速に進化させる。それは本来遠く離れているはずの場所と場所を、へだたりなく繋ぐ力。

「ディメンションゲート!」

*[零:バロールエフェクト:ディメンションゲート]*

 肥大化した黒い穴は、人一人が通れるほどの大きさで成長をとめ、向こう側に景色を出現させる、それはS市支部のエントランスルーム。

「なんだぁ、あれは……」

 驚きで開いた口のふさがらない鉄男。それをしり目にワンがゲートに手を入れる。

 通れる、そう確信を持ったワンは三人に告げる。

「これは支部につながっているのか。よしこれで支部まで戻るぞ」

 そうワンが堂々と重力の門をくぐった。


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