六話
「てつお~」
そう紅姫は鉄男を呼びつけた
「はいはい」
そう、紅姫は適当に鉄男を罵倒しながら、鉄男がガラスを片付けるのをただ見ていいる。
「てつお~、妾はアイスココアが飲みたいぞ」
「はいはい、はい、はいはい」
口だけだ、その言葉に反応する素振りすら見せない。
「聞いておるのか? アイスココアが飲ーみーたーい」
「はい、はいはい、はい」
「返事は一回でいいのじゃ、まったく、しょうもない」
紅姫は一つため息をついて、パタパタ動かしていた足を止めた。
そして、窓の外を見る。
「鉄男、妾の村は壊滅してしまったが、女子供はまだ生きておる」
何の皮肉か、ガラスが割れたことにより、空はより鮮やかに、紅姫の目に映っている。
「はいはい」
紅姫が改まったのを声で感じたのか、鉄男の声のトーンが落ちた。
「……。そして住む場所に困っている状態よ。そこで、UGNは所有しているマンションや住宅に、一時的にかくまってもらえることになったのじゃ」
「………………。……」
「じゃから、あの子たちは今日中にこの町に引っ越してくる手はずになっておる。手早く、任務を済ませてそっちを手伝うように」
「はいはい、はい、はいはい」
鉄男は止めていた手を再び動かし始める。
「そうそう、言い忘れておったが」
鉄男は拾い集めたガラスをゴミ箱に流し込む。そして紅姫に向き直った。
「お前、UGNに貸してしもうたのじゃ。そういうことだから後はよろしゅうやってたもれ」
「…………。はい?」
「じゃから、UGNは家を貸す。わらわたちは鉄男を貸す。それで利害が一致したのじゃ。我慢せい」
「しょ、しょんな~」
「……。…………。なめてるおるのか?」
鉄男がめがけ紅姫が血を飛ばすと、鉄男の服に穴が開いたたちまち溶けたのだ。
「妾の前でくらい、シャキッとせい」
「かしこまりっ」
「全く、微笑ましいやりとりだな」
そう、ワンが扉を開けて部屋に入る。
「あなたは確かメイ殿」
「メイドの?」
「メイどの」
「メイドの?」
「……べるぜぶぶ殿」
紅姫が一つため息をつく。
「ああ! それは私のことだ」
そんな紅姫をしり目にワンは高らかに笑い声をあげた。
「そろいもそろって、なぜ妾の前ではボケるのじゃ!」
そう、取り乱してしまったことに赤面しつつ。紅姫は居住まいを正した。そしてワンに向き直る。
「どうかされましたか、このバカを迎えに来たのですか?」
「そういうわけではないですが、面白いやり取りが聞こえてきたものですから」
「お恥ずかしい限りですわ」
「いやいや、いいではないですか微笑ましくて。まさかこんな男が、と言ったら失礼か。彼が紅家最強の男だとは、この光景を見る限りではとても思えませんな」
その言葉を、紅姫は冷笑で払う。紅姫から漂うオーラにワンは口をつぐむ。
「最強?この男が最強だと言った覚えはございませんが?」
紅姫は微笑んでいた。冷たく。そして口元に当てた指から一滴血が滴り落ちる。その血はまるで水晶のように床をはねた。
その水晶がやけに禍々しくワンには感じられる、まるで触れてはいけないような雰囲気が漂っている。
「おや、そのような噂を窺ったものですから。違うのですか?」
「ええ、紅家最強は妾、紅姫ですわ」
「うーん、なるほどそれは一本取られましたな。……それでは、護衛など必要ないのではないですかな」
「このバカは護衛などではございません、この男は私のおもちゃです」
そういうと、紅姫は鉄男に歩み寄り、まるで子供に言い聞かせるかのように、紅姫は鉄男に言った。
「いい、てつお、しっかりと協力するのですよ。これも仕事ですからね」
「はいはい、はい」
それでも態度を変えない鉄男。
「鉄男! 私の名前を言ってみせい!」
「……はいはい」
「殺すぞ」
「紅姫ですが、それがなにか」
「そう、妾は一族で一番偉い紅姫、その命に逆らうとどうなるか、わかっているはず」
鉄男は明後日の方向を向きながら、首を小刻みに振動させた。その仕草がハイなのかいいえなのか、わからない。
頭が正常なのか、壊れているのかわからない鉄男の反応に、紅姫はうっすら笑みを浮かべ、その肩をたたいた。
「さぁ、わかったらまじめに働いてくるのじゃ」
「…………承知いたしました」