四話
そうワンは語り終え、まだ理解しきれていない零は頭を抱えて目をつむる。
「なぁ、零。オーヴァードに目覚めたきっかけなんかに、心当たりはあるか?」
ワンはそれにたたみかける、それも当然だ、零にとって非日常の情報が不足しているように、ワンたちUGNにとっても零の情報が不足している。
「きっかけ?」
「死に瀕した、ぐらいのレベルの危機的状況に陥ると覚醒しやすいのだが」
「最近親がケンカした、からかな」
「それは、ないだろ」
「いや、あのラブラブっぷりを見たら考えられないぞ」
そう零がもう反論すると、ワンは押し黙り思案にふける。
「両親の関係が、急激に悪化。……まさか、そんなところにもFHの影が」
「なんだよそれ」
冗談半分に言ったはずなのに、ワンはその可能性を考慮し始めた。
「君をオーヴァードに目覚めさせようと企てた、工作かもしれん」
「確かに、その可能性は否定できませんわね」
紅姫も賛成の意を表明する。
「奴らは自分たちの目的のためなら何でもする、卑劣な奴らだ」
「まてまてまてまて」
零が二人の間に割って入る。
「まてよ、勝手に話を進めるな、わかるように言ってくれ」
「今は、まだ分かろうとしなくて、いいと私は思います」
説明しようと口を開いたワンを遮り、紅姫が口を開いた。
「まだあなたは完全な力には目覚めていないご様子」
ワンは察したように言葉をつなぐ。
「目覚めないなら、目覚めない方がいい。この力に目覚めても一般市民を助けることくらいしかできないのだから」
「……じゃあ、なんで俺は連れてこられたんだ」
「それは、お前の力があまりに強大で、奴らが狙ってくるからだ、実際黄泉彦なる人物はFHのようだからな」
「なんだよそのFHっていうのは」
「UGNが世界からオーヴァードを隠匿する、世界の平穏を守る存在なら、FHはその力を大手で振って使い、自分の欲望を満たそうとする組織、つまり悪の組織だな」
「じゃあ、黄泉彦は俺を狙って、近づいたっていうのか?」
「我々はその可能性が高いとにらんでいる」
「黄泉彦……」
そして黄泉彦以外のFHが零を狙って日常に潜んでいる可能性も高い。
「だから、一時的に保護をするってことか?」
「それについては私が説明しよう」
医務室のドアが開き、シェイプが入室した。シェイプは資料の束を机の上に置き、零に向き直る。
「私がここの管理を任されている、シェイプ・エンドレストだ。以後よろしく」
「こちらこそ……。って。さっそく聞きたい、おれ何で狙われてるんだ」
肝心のその話がまだ展開されていなかった、それも当然、ワンも紅姫もそれは知らなかったからだ。
「狙う理由なら、あるさ。別に特別な理由なんてない。食べ物があれば食べる。それくらい自然な流れで、未所属のオーヴァードはどこの組織も引き込みたいものなのさ」
押し黙る零。
零はその言葉を嘘くさいと感じたからだ、何かを隠されている。
しかし、それを語らないということは、語れないということだ。
なら、語れないことについて理由があるはずで、その理由について言及して答えてくれるわけもなく。
結局、まだわからないことが多すぎる。
「それと協力も願いたい、情報の提供をおねがいしたいんだ、君の友人についてだ」
「黄泉彦のことか?」
「ああ、彼が何者か知りたい、彼について何か知ってていることはないか?」
「黄泉彦の情報……」
「それを調べてほしいんだ。機材と、情報収集班をかすから、好きに使って」
そうシェイプは締めくくり、各々活動を開始した。